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鬼 【五】

――ガルフォント森林地帯中央区――



「ぬんッ!」


 レギオスは下腹に力を入れるとアルマン目掛けてライサーを振りかぶった。その速さはまさに高速だ。

 アルマンはその驚異的な身体能力で何とかその攻撃を紙一重で避け続けていた。そして隙あらばアルディスで斬りつけた。しかし、レギオスはその攻撃を全てライサーで防いだ。

 激闘は尚も続いていた。そんな時だった。突然レギオスがアルマンとの間合いは広げた。アルマンは間合いを詰めようとはせずその場に立ち止まった。


「残念ながら時間だ。決着は次会ったとき、必ず付けてやる。それまでその首、しばし預けておく……」


「元々、おれの首だ。誰にもやるつもりはない。それに逃がすとは一言もいっていない!」


 アルマンがレギオスとの間合いを詰めようとした時、レギオスが突如何かを手にした。そしてそれを地面に叩きつけるとレギオスは光に飲み込まれていった。視力が正常に戻るとそこにはもうレギオスはいなかった。

 しばらくの間、アルマンは動こうともせずにただただその場に立ち尽くし無数の雨粒に打たれ続けた…。




――ベラムート補給基地――



 ツイン・バルベルトが撤退した後、ケンとアルマンは援護に駆けつけた仲間たちと合流し見事、補給物資を前線基地へと運送することに成功した。それからケンたちは休む間もなくここベラムート補給基地へと無事帰還した。

 ゲートの周りには兵士たちが拍手と声援で出迎えてくれた。基地の兵士たちは彼らの任務成功の報告を聞き、二十分前から待機していたらしい。そして車を降りると、補給基地長官とヒッター司令、そしてリリスが隊員たちを迎えてくれた。

 隊員たちは一斉に敬礼した。リリスもお帰りの意味も込めて隊員たちに敬礼を返した。


「うむ、任務ご苦労であった! 今回の任務で色々と議論せねばならぬことは多いが今は部屋に戻ってゆっくり休息を取ってくれ。何か用があれば艦内通信で報告する」


 ヒッターはそう言い終えると、隊員たちを解散させその場を去っていった。その後を長官は付いていく。ケンたちは艦内に帰る間に基地の兵士たちに何回も激励や感謝の言葉を掛けられた。

 最初のほうは悪い気にはならなかったがやはり何回も同じようなことを言われるといくらほめ言葉といっても少々目ざとく感じた。艦内に戻ると隊員たちはそれぞれの部屋に戻った。

 ケンは部屋に戻るなりシャワーを浴びると軍服の上着は着ず、T−シャツとズボンだけを着用した。そしてベッドに仰向けになって天井を眺めた。改めて見てもこの天井は真っ白で清潔感がありすぎてどこか落ち着かない。いつものように天井に対する不満を考えると今回の任務を回想し始めた。そして今頃になって自分があの青鬼と対等にやりあったということにびっくりした。あの時はただ戦うことに必死だったのでそのようなことは思わなかったが改めて考えると夢のように思えた。しかし、あの時の記憶は確かにこの体に刻まれているのだ。

 ケンは顔を横に向けて壁に掛けてある自分の刀を見た。基地に変える途中車の中でハガネを手入れしていたケンは剣先が少し溶けていることに気づいた。更に細部に渡り調べてみると少し芯にヒビが入っていることが分かった。どうやら一度師匠の元に戻らなければならないようだ。

 次にケンはアルマンのことを考え出した。任務前もそうだったが隊長は赤鬼のことになると人が変わったように真剣で重い表情になる。ケンは考えていくうちに隊長と赤鬼には何か敵という枠を超えた親密な関係があるのではと推測した。ケンはその答えにたどり着くとどうも心が落ち着かなくなり、ついにはベッドから起き上がり、部屋を飛び出した。




――オルフィス・廊下にて――



 ケンがアルマンの部屋へ向かっている途中、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきたので振り返った。後ろから巨漢が迫ってくる。マックだった。どうやら彼も隊長に用があるようだ。しかも、自分と同じ理由で。

 マックはアルマンの部屋に着くまでの間にケンに青鬼がどんな野郎だったかと尋ねてきた。ケンははっきりとしない記憶を辿りながら戦いの中で感じた印象を思い出した。


「う〜ん、そうだね。たぶんマックとは気があうんじゃないかな?」


「どういう意味だ?」


「そのままの意味さ」


 ケンはそう言いながらマックのほうを見て苦笑した。マックはケンが言ったことを半分ほどしか理解できなかったが実際に会ったほうが手っ取り早いと思い、それ以上聞こうとはしなかった。

 そうこうしているうちにケンたちはアルマンの部屋の前にやってきた。そしてドアの右横にあるモニター付のインターホンでアルマンを呼び出した。


「すみません、ケンです。隊長お疲れのところ申し訳ないのですが少しお時間をいただけませんか?」


「隊長、俺もちとばかし聞きたいことがあるんでさぁ!」


 しばらくすると扉のロックが解除された。中からアルマンが顔を出す。そして入るよう促すとケンたちは部屋へと入っていった。


「「!?ッ」」


 部屋に入るなりケンたちはその光景に驚かされた。なんと自分たちの前に既に先客がいたのだ。しかも、リリスを除く残りのメンバー全員が。


「あら、あなたたちも気になって聞きに来たわけ?」


「どうも、お先です♪」


 部屋の左側に座っていたレイナはこの偶然に半ば呆れつつもやはり自分たちは一つのチームなのだと改めて痛感した。ケネスは奥のほうでいつものように軽いノリでこちらを向いて笑った。相変わらず何を考えているのか分からない顔だ。レオンはレイナの奥の隣に座っている。一応こちらを見て目を合わせたがその口は閉じたままだ。任務終了直後に比べ大分表情は明るくなっているがそれでも何か病んでいる様子だ。

 ケンが前へ進もうとした時、後ろから愛嬌のある声が遠くのほうから聞こえてきた。ドアから顔を出すとリリスが早歩きでこちらに向かってくる姿が見えた。そしてケンを見るなり、やっぱりという表情で彼に声を掛けた。


「さっき部屋を通るついでに誘おうとしたんだけど、やっぱりここにいたのね。わぁ、他のみんなも来ている。みんな同じことを気になっていたなんて奇遇ですね」


 リリスは驚きつつもとても嬉しそうな笑みを浮かべている。どうやらみんなと繋がっているという証明が間接的にしか仲間と任務が行えない彼女にとっては格別なもののようだ。ケンはそんなリリスの表情を見ているうちに自分も嬉しい気持ちになっていることに気づいた。

 三人はそれぞれリリス、ケン、マックの順に入り口側に座った。全員が揃うとアルマンは他のメンバーより少し高い位置になるように右側に置いてあるベッドに腰を下ろした。そして手を組んで少しの間床をぼんやりと眺めてゆっくりと深呼吸をした。そして気持ちを整理し終えると顔をあげ重々しげに口を開いた。


「本当はこのことは自分の心の中に閉まっておくつもりだったのだがな…しかし、仲間がこれほど自分のことを心配し、思ってくれているのに話さないというのは隊長として、いやおれという一人の人間として許せる行為ではない。だからみんなには正直に赤鬼との関係について話そうと思う。


 アルマンは一人一人の目を見ながら語るように仲間たちに話し出した。


「赤鬼の本名はレギオス、レギオス・ザルバンという。彼は数年前までアルフォードの兵士だった」


 最初の語りからケンたちは驚かされた。あのディーベルクの英雄の一人である彼がほんの数年前まで我々側にいたというのだ。アルマンは隊員たちの驚いた様子を目で確認していたがそれを無視するかのように話を続けた。


「彼とおれは同期で入隊した。共に訓練し語り合い、時には喧嘩をすることもあった、要するに親友というやつだ。そしておれたちは共に国境の監視に当たる部隊へと所属され何度も死線を共にくぐってきた」


 アルマンは話を続けていたが話の内容が思い出話のほうへとずれ始めていたのでケンは勇気を持ってアルマンに質問した。


「隊長と赤鬼との仲はよく分かりました。でもオレの疑問は話を聞く前よりも強くなりました。教えてください、どうして彼はあなたという旧知の友を恨みそしてアルフォードと敵対するディーベルクへ寝返ったのですか?」


 アルマンは言い出したくても言いづらいために出来るだけ本題を後に回そうとしていた。しかし、ケンに質問されたたことにより今から言わずにはいられない状況となり自分の心に言い聞かせその鉄の口をこじ開けた。


「…奪ったんだよ。あいつの最も大切なものを……」


「何を…奪ったんです?」


 ケンはそう問いかけると次に発せられるアルマンの言葉に耳を傾けた。しかし、彼の口から出たものはあまりに衝撃的な言葉だった。


「おれは…あいつが最も大切にしていた…この世で最も輝いていた宝石…あいつの……」



「妹を殺したんだ……」







第一部主な登場人物の紹介


〜アルフォード王国〜


―特殊戦略部隊―


ケン・シュナイダー:第一部の主人公:16歳:男性:紅色の短髪:黒色の瞳:アルフォード王国の機動歩兵として前線でその自慢の剣術を巧みに使って活躍していた。その腕が買われアルフォード国王直属の部隊で特殊戦略部隊、通称『特戦』に配属される。彼が軍に入隊したのには悲しい過去が関わっている。彼が使用する剣術は天魔無双流と呼ばれるものでそのあまりに巨大な力のために神にも魔にもなれると言われている。またその所持する剣もこの世界で流通している両刃の剣ではなく、片刃の剣、刀である。情に熱い男でこの情こそが彼の長所でもあり短所でもある。



アルマン・ギルガネス:隊長:26歳:男性:黒色の中髪:茶色の瞳:人柄がよく誰にでも好かれる人物。任務のために冷酷になろうと努力しているがいざとなると人命を優先してしまう。ギルガネス家の人間で超人的な運動能力を持つ。その運動能力は発射された弾丸を簡単に避けられるほど…。刃物から銃までありとあらゆる武器を使いこなすエキスパートでもある。【アルフォードの戦神】(もしくは戦神)という二つ名を持つ。レギオスとは意味深な関係。



レイナ・フランク:副隊長:25歳:女性:紫色の長髪:緑色の瞳:隊の中では頼れるお姐さん的存在。狙撃の名手でその集中力は三日間、同じ射撃体勢でいられるらしい。



マック・エイガー:ムードメーカー:20歳:男性:茶色の短髪:青色の瞳。大柄で長身。細かいことは気にしない豪快な性格。基本的にバルカン砲などの重火器を使用して戦うが他にも白兵戦用に大薙刀を使用する。



レオン・マッケイン:天才:17歳:男性:水色の中髪:銀色の瞳:IQ200を越える超天才。言葉数が少なく、無愛想。その頭と魔法で数々の戦いを勝利へと導いてきた。また、ハッキングを得意とし、セキュリティー解除や、情報の奪取なども行う。



ケネス・フロイド:曲者:20歳:男性:黄土色の中髪:黒色の瞳:妙な言葉遣いをするお調子者だが任務の時には隠れた冷酷さを見せることがある。爆弾に関しては確かな腕を持つ。特戦の曲者的存在。



リリス・クラフト:オペレーター:16歳:女性:朱色の中髪:水色の瞳:性格は非常に明るく、特戦のマスコット的存在。彼女の存在が隊員の戦場で受けた心の傷を癒しているのは疑いようがないだろう。オペレーターとしての腕も確かなものを持っている。



ノリス・ヒッター:司令官:56歳:男性:灰色の短髪:茶色の瞳:若かりし頃は【戦場の稲妻】という二つ名で恐れられていた。今でもそのたくましい体つきは衰えておらず、また歳を取ったことでより一層その風格は増している。人としても戦士としても隊員達に影響を与える人物。ちなみに【戦場の稲妻】という二つ名は彼が使用するガントレットが電撃を流すことが由来。




―その他の人物―


アルフォードIV世:国王:45歳:男性:黒色の中髪:黒色の瞳:現、アルフォード王国の最高権力者として王座に座る者。国は民あってのものと考えており、常に民の事を考えている。この戦争を終わらすために特戦を設立することを決意する。





〜ディーベルク王国〜


―ツイン・バルベルト―


レギオス・ザルバン:赤鬼:26歳:男性:金色の長髪:茶色の瞳:バルベルトと呼ばれる槍と両刃の斧を合わせたような武器を巧みに扱う者。性格は非常に冷静でどんな窮地に陥ろうとも理性を失うことはない。唯一、アルマンのことになると感情を表に出す。【赤鬼】という二つ名でアルフォードの兵士から恐れられている。アルマンとは意味深な関係。



ザムス・ロドリゲス:青鬼:22歳:男性:黒色の短髪:黄土色の瞳:レギオスの相棒。とても豪快な性格でその自慢の力で敵をなぎ倒す。【青鬼】という二つ名で敵から恐れられている。ザムスの使用するバルベルトの刃はレギオスのものの二倍。マックとキャラが似ている。




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