プロローグ
「彼は友人だった……かけがえのない友だった……そして同じ屋根の下で暮らした兄弟だった……彼との絆は決して崩れるものではないと信じていた…そう信じていたかったんだ…………」
ここはルフィス。地球とは違う異界の星。
そこには人と同じ姿の生き物が文明を築き、繁栄を極めていた。
その他にも神獣や魔獣といった神秘的な生き物も生息している。
この物語は惑星ルフィスにある大陸、ミラムに築かれている王国、アルフォードに住む、一人の青年の物語である。
――とある城内にて――
今、一人の風格ある顔つきの勲章を胸につけ、肩には縦筋が四本入り、星が三つ入った軍服に身を包んだ人物が急ぎ足で場内の廊下を歩いていた。
その表情はえらく厳しい顔をしている。
男は衛兵が守る大きな扉の前で足を止めると、一呼吸置いて、名乗りを上げた。
「ノリス・ヒッターッ! ただいま参りましたッ!!」
決してばかでかいとは言えないがその芯から響く声で一瞬、衛兵がビクついた。
「ヒッターか、入るが良い」
「はッ!」
扉の向こうにいると思われる人物からの許しを得て、ヒッターは静かに扉をくぐった。
部屋の天井は非常に高く、ガラス張りで円形の形をしている。天井からは心地よい光が差し込み、部屋一面を明るく照らしている。部屋の奥の床は段上になっており、その頂点には玉座があり、一人の男が座っている。
玉座に座っているところを見ると恐らく国王なのだろう…その姿には威厳が感じられ、見る者を圧倒する。しかし、その顔は決して厳しくなく、むしろ優しく親しみのある顔だ。
ヒッターは段上の前までやってくると地面に膝を付き面を下げた。
「ヒッターよ、そう畏まらずとも良い。面を上げよ」
「はッ!」
王が言っても直畏まるヒッター、これはもはや性分なのであろう。
面を上げたヒッターの目に映ったのは、どことなく寂しい表情をした王の姿であった。
その表情に内心僅からながらも驚いていたが、表情には出さず口を開いた。
「アルフォード王よ、私にどのような用があったのでありますか?」
「…………」
ヒッターの言葉に、王は先ほどと変わらぬ表情で彼のまっすぐな目をじっと見つめていた。
両者の間に沈黙が流れる。
しばらく続いた沈黙であったがアルフォード国王はやっとの思いでその重い口は開いた。
「ヒッターよ、ディーベルクからの宣戦布告が出されて早半年近くになる。普通で考えればたったそれほどの僅かな時間しか経っておらぬ。だが、たったその半年近くの間で多くの大切な国の宝といえる兵士や民がその命を散らせて逝った」
「………………」
ヒッターは無言のまま王の言葉に耳を傾ける。
「ワシは、もうこれ以上の犠牲が増えることだけは避けたい。そのためにも力を貸してはくれまいか?」
「無論です。私如きの腕でよければ、幾らでも力を振るいましょう。全ては、国の平和のために……」
一問一答の如く即答したヒッターの言葉に、王は力強く頷いた。
二人の間には上下の事柄では無く親友のように絶対的に互いを信頼している証であると言える。
「しいてはヒッターよ、そなたに『特戦』を率いてもらいたい」
「『特戦』…ですか?」
「さよう、腕の立つものを集めてあらゆる任務に対応し生き延びることのできると言う考案を基に、私が独自に設立しようと思っている部隊だ。部隊の名は特殊戦略部隊、通称、特戦。その特戦をヒッター、お主にその部隊の司令官を勤めて欲しいと思っているのだ。【戦場の稲妻】として名を馳せたそなたにならできると思った。やってはくれまいか?」
「喜んでお引き受けいたしましょう」
「やってくれるか、礼を言うぞヒッター」
「お褒めの言葉もったいなく存じます」
アルフォード王からの感謝の言葉。
普通ならば謙遜するとこだがヒッターはアルフォード王との付き合いが長いためこういったものだと理解している。
それは、やはり絶対的な信頼関係で結ばれた者達だからこそであろう。
「既に何名かは私のほうで選抜しておる。ヒッターよ頼むぞ」
「承知いたしました」
「うむ、では第六控え室に待たせておる。行ってまいれ。それと、その後のメンバーの選抜は全てお前に任せる」
「はッ!」
最後にヒッターは一礼をしてその場を去った。
「頼むぞ、ヒッターよ…………」
それを見送った王はどこか寂しげにポツリと呟いた。
――第六控え室――
王が独自に設立した特戦。
そのメンバーであると思われる隊員四名がすでにこの控え室で待機していた。
男が三人に女が一人、男の方にはどう見ても十代と思われる者までいる。
「極秘の任務と言っているが軍は我々にどんな任務を言い渡すつもりなのかな?」
優しそうな青年が怪訝そうに周りに尋ねる。
それに反応して三人は青年の方に視線を注いだ。
その質問に真っ先に答えたのはこの中で一際大柄な長身の男だった。
「がっはっはっはっはっは! そんな細かいこと気にしてもしょうがないでさぁ。ま、告げられるまで気楽に待ちましょうや!」
豪快に笑った長身の男は、さも気にしないと言った風に青年の肩を叩きながら言った。
「そうだな、君の言うとおりだな。気にしていても仕方がないな」
優しい顔つきの青年が、長身の青年の言葉に強くうなずいた。
「不安なのは分かるけど、今は待ちましょう? ……ところで君は不安にならないの?」
穏やかな物腰で気品を備えた長髪の女性はなだめる様に青年に言うと、先ほどから古ぼけた本を読んでいる銀色の眼をした顔立ちの良い童顔の青年に質問をした。
「別に……」
女性の言葉に無愛想に青年は読んでいた本に目を向けようとしたその時……
コン、コン
ドアをノックする音と共に一人の男が部屋に入ってくる。
そこにはヒッターが立っていた。
「おはよう、諸君。私はノリス・ヒッター、君たちの上司となる者だ」
「「「「はッ! おはようございます! ヒッター司令官!」」」」
ヒッターの挨拶に勢い良く返す四人。
「今日から君たちは特殊戦略部隊。特戦の隊員となった。そこで一人ずつ名前を言ってくれ。まず、そこの青年」
「はッ! 自分はアルマン・ギルガネスでありますッ!」
「うむ、では次の者」
そう言ってヒッターはこの中で唯一の女性に目を向けた。
「レイナ・フランクであります」
「自分はマック・エイガーでありますッ!!」
「レオン・マッケインです…」
各々が自己紹介を追え、簡単な戦闘能力を見るための模擬戦闘をした。
内容は個人が扱う武具とそれにあった戦闘スタイルの確認。
模擬戦闘終え、ヒッターの前に来た四人は自らの司令官の渋った顔をしているのを見て不思議に思い、四人を代表してアルマンが疑問を問いかけた。
「司令、どうかなされましたか?」
「うむ、諸君らの戦闘力は申し分ない。しかし、これでは敵に接近戦や奇襲を用いられると対応しにくいのだ」
「「「「………………」」」」
そうなのだ。
全員が全員、近接戦闘の向いてはいない者が多かったのだ。
レイナは長距離精密射撃を得意とし、マックは機関銃を振るい、レオンの戦闘力は魔術士として高い力を持ち戦略を立てるのが得意である。しかし、呪文詠唱時は完全に無防備になってしまう。
唯一近接戦闘を得意とするのはアルマン、彼一人である。彼はオールラウンダで、近・遠の両方に対応できる。
「誰か、腕の立つ近接戦闘を得意とする者を探さなくてはならぬ……」
「「「「……………………」」」」
設立して間もないと言うのに関門にぶつかってしまった特戦。
しばらく全員が考えていると、アルマンが打開策があるのか、ヒッターに述べた。
「ヒッター司令、腕の立つ剣術使いに心当たりが…」
「なぬ!? そうか、それでその心当たりとやらは?」
「はい、兵士達の間での噂でして・・・その者の剣は兵士百人に匹敵し、その速さは矢の如し…と言う噂がありまして、その者の名は確か『ケン・シュナイダー』と言っておりました。今は確か、ここから五キロ程離れた『タッセル』と言う町の護衛に赴いている筈です」
その話を聞いたヒッターはしばらく考え込むと、意を決したかのような顔つきをした。
「全員、荷造りを始めろ。これよりタッセルまで赴き、ケン・シュナイダーと接触を試みるッ!」
「「「はッ」」」
そういうと各隊員は十分で支度を終え、剣士ケン・シュナイダーがいるタッセルへ向かうのであった。
第一部主な登場人物の紹介
〜アルフォード王国〜
―特殊戦略部隊―
アルマン・ギルガネス:隊長:26歳:男性:黒色の中髪:茶色の瞳:人柄がよく誰にでも好かれる人物。任務のために冷酷になろうと努力しているがいざとなると人命を優先してしまう。ギルガネス家の人間で超人的な運動能力を持つ。その運動能力は発射された弾丸を簡単に避けられるほど…。刃物から銃までありとあらゆる武器を使いこなすエキスパートでもある。
レイナ・フランク:副隊長:25歳:女性:紫色の長髪:緑色の瞳:隊の中では頼れるお姐さん的存在。狙撃の名手でその集中力は三日間、同じ射撃体勢でいられるらしい。
マック・エイガー:ムードメーカー:20歳:男性:茶色の短髪:青色の瞳。大柄で長身。細かいことは気にしない豪快な性格。バルカン砲などの重火器を使用して戦う。
レオン・マッケイン:天才:17歳:男性:水色の中髪:銀色の瞳:IQ200を越える超天才。言葉数が少なく、無愛想。その頭と魔法で数々の戦いを勝利へと導いてきた。また、ハッキングを得意とし、セキュリティー解除や、情報の奪取なども行う。
ケネス・フロイド:曲者:20歳:男性:黄土色の中髪:黒色の瞳:妙な言葉遣いをするお調子者だが任務の時には隠れた冷酷さを見せることがある。爆弾に関しては確かな腕を持つ。特戦の曲者的存在。
リリス・クラフト:オペレーター:16歳:女性:朱色の中髪:水色の瞳:性格は非常に明るく、特戦のマスコット的存在。彼女の存在が隊員の戦場で受けた心の傷を癒しているのは疑いようがないだろう。オペレーターとしての腕も確かなものを持っている。
ノリス・ヒッター:司令官:56歳:男性:灰色の短髪:茶色の瞳:若かりし頃は【戦場の稲妻】という二つ名で恐れられていた。今でもそのたくましい体つきは衰えておらず、また歳を取ったことでより一層その風格は増している。人としても戦士としても隊員達に影響を与える人物。ちなみに【戦場の稲妻】という二つ名は彼が使用するガントレットが電撃を流すことが由来。
―その他の人物―
アルフォードIV世:国王:45歳:男性:黒色の中髪:黒色の瞳:現、アルフォード王国の最高権力者として王座に座る者。国は民あってのものと考えており、常に民の事を考えている。この戦争を終わらすために特戦を設立することを決意する。