第4話【確変の冒険者】~ダンジョン脱出で評価も一変?~
その後も、ボクとミミーは、罠や魔物を回避しながらダンジョンの出口を目指した。
最後に立ちはだかる、出口近くの、壁から飛び出す仕掛け矢の通路。ミミーの持っていた鉄の鎧で防ぎながら走り抜ける。
そして、ボクたちは、ようやく──外へ出ることができた。目の前に広がるのは、夕焼けの空。だがダンジョンの暗闇と比べれば、眩しいほどに感じられた。
「はぁ……なんとか、帰ってこれた」
「ふー。久しぶりの娑婆の空気は、やっぱええなぁ」
「……どこで覚えたの、それ」
そうツッコミつつも、胸の奥の緊張がじんわりと緩んでいった。と同時に頭をよぎったのは、パーティの皆は……無事だろうか。それと──
「……依頼は、失敗だな」
「依頼?」
「ミスリルの回収、ボクたちそのためにこのダンジョンに来たんだ」
「ミスリル?」
「青白く光る、すごく貴重な鉱石で……」
そこまで言ったところで、
「その鉱石ちゅうのは、これか?」
ミミーが、べーっと舌を出した。なんとその上に、ミスリルの塊が、ゴロンと乗っていた。しかも、手のひら大のサイズ。
「……え?」
「ほれ」
「うわっ!」
ミミーが放り投げたそれを両手で受け取ると、ずっしりとした重量感。夕焼けの光を反射して輝いていた。
「昔どこぞで拾った石ころや。使えそうか?」
「……十分すぎるよ!」
急いでミスリルをバッグにしまい、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドには、無事先に戻っていたカークスたちや他の冒険者たちがおり、ひょっこり姿を見せたボクを見るなり──驚き、そして安堵の声をあげた。
「心配してたんだ……」
心のこもった表情で駆け寄るカークスとアイリス。ただ一人、気まずそうに目をそらすビザル。それでもこわばった笑みを浮かべて言った。
「……あの時は悪かったな。肩、ぶつかっちまってよ」
ボクは黙って、うなずき返す。思うところはあった。でも今は
──生きて帰ってこれたことを、素直に喜ぼう!
帰還報告の後、ミスリルを見せると、ギルド内は二度目の驚きに包まれた。そのまま高値で買い上げてくれた。その上さらに、
「お祝いに、ギルド特製ビールを進呈しよう!」
副ギルドマスターだと言う男が、ビールの樽を指さした。
「いや、ボク未成年なんで……」
《──ごくり。》
どこからともなく、大きな喉の鳴る音が聞こえた。これって……ボクが視線を落とすと、ショルダーバッグの奥の暗闇から、二つの目がじっとこちらを見つめている。
「い、一応、もらっておこうかな」
そうして、ビールの樽を受け取ると、それをそのままバッグにしまう。その瞬間、
「……え? いつの間に、マジックバッグを?」
三度目の驚きが、ギルドを包んだ。そして、次の依頼の約束を取り付けるとボクは冒険者ギルドを後にした。ちなみにミミーのことは気味悪がられそうなので黙っておくことにした。
宿へ戻ると、すぐにミミーは「ボン!」という音とともに、宝箱に姿を変えた。
「は~、やっぱこっちのほうが落ち着くわ」
部屋の一角を陣取り、くつろいだ声でそう言った。
ボクは無事の帰還を記念し、ささやかな祝宴を開くことに。奮発して買った、モロ牛の厚切りビーフサンドを広げる。
「ミミーも食べる?」
「わいクラスは魔素さえあれば十分や! ……ただし」
いつのまにか用意した木製ジョッキに、樽からビールを注ぎながら続けた。
「こいつは別腹や」
そのままぐいっと一気に飲み干す。
「ぷはーっ!」
空いたジョッキに流れるような早さでつぎ足した。
「けど、トモヤが話のわかるやつでよかったわ」
「え?」
「このビールや。ワイの気持ち、わかってるみたいやったな」
「気持ち、か」
(時々聞こえるあれ……ボクのスキルと何か関係があるのかな?)
「まあ、今はそれより……」
そう言ってボクはサンドイッチにかぶりつく。口に広がる柔らかな肉質、甘みのある肉汁。
「うまーっ!!」
一人その美味さに没頭していると……
「げふ……ガタン!」
「?」
「げふ……ガタン!」
目をやると、宝箱姿のミミーがげっぷをするたびに、蓋が閉まってガタン……。
「ミミー、うるさい!」
そう言いながらも……今は、文句を言える相手がいることが、ただ嬉しかった。一方、文句を言われたミミーは……
「そやかて炭酸が……げふっ……ガタン!」
一向におさまる様子はなく、思わずクスクス笑いがこぼれた。
(こんなに笑ったのっていつ以来だろう……)
異世界に来てからも辛いことばかり……だけど、ミミーと一緒なら、この世界でもやっていけるかもしれない。口に頬張ったサンドイッチとともに、ボクはそんな思いを噛みしめていた。
「げふ……ガタン!」




