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第3話【逆転の知恵】~ダンジョン・アイテムをチートに活用~

 さっきまで宝箱チェストだったミミックは、見事にショルダーバッグへと姿を変えていた。革の質感、デザイン、サイズ感──どれも自然で生き物だとは思えない仕上がり。


 早速、手に取り肩に下げる。


「……うん! いい感じ」


 軽い。それに、肩ひもの長さも丁度で、しっくり体に馴染む。


「しかもこれ……」


 ボクはそう言いながら、先ほどミミックが並べていた鎧や盾を拾い上げ、次々と収納していく。


「マジックバッグにもなるんだね! すごいよ……ミミック最高!」


「そうやろ、そうやろ」


 すっかりご満悦な様子のミミック。


「まぁ、ワイみたいに年季の入ったレジェンド級ミミックやからできる芸当やけどな」


 ショルダーバッグの出し入れ口をパクパクさせ誇らしげに言った。


「そうなんだー。さすが、ミミ……」


「おん?」


「やっぱり、名前、あったほうがよくない?」


 一瞬、バッグが静かになった。


「……別にええよ。ミミックで」


 なぜだか、やけに消極的だ。


「でもさ、ミミックって呼ぶのも味気ないし。それに、レジェンド級なんでしょ?」


「……まあ、勝手にせい」


 投げやりな返事を返してくる。


「じゃあ……ミミックだから……」


「だから?」


「ミミー! ってどう?」


「……全然レジェンド感ないやないかい!」


「あはは! でも、名前は憶えやすくて、呼びやすいのが一番だよ」


 少し間があって、


「……はー。まあ、ええわ」


 呆れたような声で承諾した。


「よろしくねミミー」


「……はいはい」


 投げやり……だが、どこか照れたようにも聞こえる返事を返した。


 ミミック改めミミーを肩から下げたボクは、ナイフとロープを手に、洞窟の奥へ進んだ。さきほど見つけた、三メートルほどの高さにある岩壁のくぼみへ。


「まずは……」


 岩壁の前でひざまずくと、ロープの先にナイフを結びつける。刃先を上向きにし、しっかり固定。


「何する気や」


「ちょっと、試してみたいんだ」


 そう言うと、くぼみをめがけて、ロープ付きナイフを投げる。


 カーン!


 弾かれた。もう一度。


 ガッ!


 今度は、何かに引っかかった。慎重に引く……落ちてこない。さらに強く引いてみる。


「よし!……いけそうだ」


「おお、やるやん」


 松明をしまうとボクは慎重に体重を預けた。ギリッ……と、嫌な音がする。だが、ロープは耐えている。なんとかくぼみに手をかけると、一気に這い上がる。


「ほ~、何とかなるもんやな」


 ミミーが嬉しそうに言った。


 くぼみに身を滑り込ませると、その先は細い穴が続いていた。腹ばいで進むと石畳の道へ出る。松明で照らすと、道はわずかに坂になっていた。脱出するなら登りだろうと見当をつけ上がっていく。


 しばらくすると、両脇に檻のような鉄格子が現れた。暗くて中はよく見えず、不気味なほど静かだ。


「……嫌な感じがする」


 つぶやくボクに、ミミーが聞いた。


「魔物の気配か?」


「そういうのわかったりする?」


「まぁ、強い奴ならな」


「今は?」


「……するような、せえへんような」


「はぁ……」


 あきらめて慎重に進んでいくと、道の途中にレバーのようなものがあった。だが今は早く抜けたい……構わず行こうと、足を速める。


「なんやこれ?」


 ショルダーバッグから、にゅっと腕が伸びる。


「ちょ、触らな──」


 ガタンとレバーが引かれ、直後に


 ガラガラガラ……


「……え?」


 檻が、一斉に開いた。


「ミミーッ!」


 だか、開いたあとは静寂が続いた──と思われた、次の瞬間。


──コトン。


 前方に、檻から足を踏み出す白骨が一体、姿を見せる。手には剣。アンデッドだ。


──カタン。


 背後からも音が……振り向くと、別の白骨が、こちらを向いていた。


「魔物の気配や!」


 バッグを揺らしミミーが叫ぶ。


「いやわかってるし! てか、何してくれてんの?」


「すまんすまん。ああいうの見ると、つい」


(たく、非常ボタン押す子供か!)


 すぐに、前方のアンデッドが迫り、骨の腕が剣を振り上げた。あわてて腰の剣を抜く。


──ガキン!


 攻撃を何とか弾く。幾度かの打ち合いの末、振り下ろした渾身の一撃。アンデッドは崩れ落ちた。だが、迫る背後からの気配。振り向いた時、既に敵の剣が目の前に。


(間に合わない!)


 思わず、目をつぶった。


 ガッ!


 伝わる衝撃……だが、痛みがない。目を開けると、ミミーがショルダーバッグから取り出した盾で、剣の攻撃を防いでいた。


「ふっー」


 安堵もつかの間、周囲を見回すと、わらわらと湧いた複数のアンデットに囲まれている。


「キリがない……」


 目の前の敵を、足で蹴り返すとそのまま走り出す。迫りくるアンデッドの群れ、そこから次々と繰り出される剣。それらを時に払い、時に躱し、石畳を駆け抜けていく。


 石畳の道を抜けると、大岩が転がる空間へ出た。その先に見えるのは──断崖と吊り橋。近づくと、ボロボロの橋は、今にも崩れ落ちそう。だが、躊躇している暇はない。一歩踏み出すとバランスを取りながら足早に吊り橋を渡っていく。


 途中、揺れが激しくなる。振り返ると、アンデッドたちも橋を渡り始めていた。


(急がないと!)


 踏み出した瞬間。


 バキッ。


 橋板が割れ、抜け落ちた。


「──っ!」


 下半身が沈む。剣を手放し、前方の板を掴む。手から離れた剣が、闇へ落ちていく。


「くそっ」


 腕に力を入れ、身体を引き上げようとした、その時。


 べりっ。


 橋板が裂けた。


「わあぁっ――!」


 全身が落下。


 が……止まった。


 見ると、ミミーの両手が、吊り橋の縄を掴んでいた。


「ミミー、ナイス!」


「おうよ!」


 だが、この間にもカタカタとアンデッドが迫ってくる。


「……このまま向こうに行けない?」


「しゃーないな」


 ミミーが、雲梯うんていのように腕を交互に動かし、橋の下を進み、なんとか渡りきった。振り返ると、数体のアンデッドは橋の真ん中を過ぎ、こちらに迫っていた。


「ミミー、油の瓶ある?」


 ボクの問いかけに、ショルダーバッグから瓶を取り出すミミー。


「どないするんや?」


「これを……こうして」


 布切れを瓶の口に詰めると、松明をかざして火をつける。アンデッドたちの足音が近づいてくる。その足の手前へ──ボクは即席の火炎瓶を投げつけた。


 炎が一気に広がり、吊り橋が燃えあがる。千切れたロープの弾かれるような音が続く。やがて炎はアンデッドをも包み込み、そのまま橋ごと落ちていく。


 ばらばらと、アンデッドの骨が闇へ消えていった。


「……はぁ、はぁ」


 なんとか切り抜けたようだ。谷底へ散っていく残り火を見ながら、ボクはその場に座り込む。


「ヒュ~♪」


 肩から下げたミミーが、短く口笛を吹いた。

 

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