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殺し屋は詐欺師に跪く  作者: 男鹿七海
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雪夜の邂逅

 機内は静かだった。エンジンの低い振動だけが、一定のリズムで体に伝わる。七条はシートに深く沈み込み、目を閉じていた。隣では三剣が窓の外を見ている。

 雲海の上。白い世界。


 その白が――ゆっくりと、別の白に変わる。雪だ。


 ◆七条視点

 二年前。雪の降る夜。街の裏通り。ネオンも届かない細い路地裏に、静かに雪が積もっている。足音は吸い込まれ、音がしない。

 仕事の帰り道、七条はその影の中に立っていた。煙草を咥え、ぼんやり雪を見ていた。白い息が夜に溶ける。

 路地の奥で人影が動いた。黒いコート、スーツ姿。整った顔立ちの若い男。

 男の前にもう一人。揉める声。

「金は払っただろ」

「足りないって言ってる」

 次の瞬間、喉元でナイフが光った。

 一瞬の出来事で声も出せず、男は崩れ落ちる。赤が白に滲む。雪は降り続く。

 ナイフを持った男は、笑っていた。狂気ではない、楽しそうな笑い。七条は煙草を口から外す。

(……なんだ、こいつ)

 普通じゃない。殺した直後の顔じゃない。退屈が晴れたような顔。

 男は倒れた相手のポケットを探り、財布を抜き取る。

「はずれか」

 その瞬間、男の目がふと七条の方向を向いた。暗闇の奥、七条は動かない。男は数秒で興味を失い、視線を外す。距離数メートル。その目──冷たい、だが面白がっている世界を見るような目。七条の心臓がわずかに跳ねた。

(……見つけた)

 久しぶりに、面白いものを見つけた。七条龍二は低く笑った。


 ◆三剣視点

 雪が降っていた。三剣龍之介はコートのポケットに手を入れ、ゆっくり歩く。白い息が広がる。

「……つまらないな」

 一週間同じ夜だった。殺す、金を取る、また殺す。失敗した詐欺師の気分転換。それだけ。

 路地の奥で声がする。

「金は払っただろ」

 振り返ると、怒った男に三剣は嘘の返答をする。次の瞬間、ナイフが喉へ。赤が白に滲む。

 三剣は少しだけその色を眺めた。

「……綺麗だな」

 背後の気配に気付く。暗い路地の影、距離数メートル。冷たい、だが楽しそうな目。少しだけ面白くなる。ナイフをポケットにしまい、歩き出す。影の横を通り過ぎる。その瞬間、街灯が少し男を照らす。

(……へえ)

 なるほど。面白い目だ。数歩歩き、思う。

(つけてくるかな)

 雪が降り続く静かな夜。

 三剣はまだ知らない。あの影の男――後に自分を世界中で探す男であり、二年後には狂わせる男であることを。

「……変な男だったな」

 言い捨てると同時に、雪の中へ踏み出す足取りが軽くなる


 七条は目を覚ました。三剣は窓の外の雲海を見ている。

「……夢見た」

「どんな?」

「雪の夜」

 三剣は答えを知っているように、敢えて何も言わなかった。

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