相互選定
イタリア。湿った夜の空気が、街灯やネオンの光に揺れる。
七条は、一週間の間で三剣を見つけた。裏カジノのVIPルーム。
扉の隙間から覗くと、スーツ姿の三剣がカードを配っている。指先が滑らかにカードを操り、客は笑い、金が動く。完璧な詐欺の瞬間。
七条は扉を開けず、静かに見守った。その目は冷たくもあり、執着と興味で光っていた。
その時、背後から低い声が響く。
「動くな」
振り返ると三人の男。裏カジノの用心棒達で、拳銃が突きつけられていた。
「ここは会員制だ」
「知ってる」
七条は落ち着いて答えた。
「だから来た」
銃口が背中に押し付けられた瞬間、ナイフが閃く。
一瞬で一人目の喉が裂け、二人目は銃を落とし、三人目は床に崩れた。
血の匂いだけが残る。七条はナイフを拭き、ゆっくり扉を開けた。
VIPルームの中では、ゲームがまだ続いていた。
三剣はカードを置く。
「フルハウス」
客の顔が青ざめ、金が動く。
詐欺は成功した。三剣はゆっくり立ち上がり、七条の存在に気付く。
「……何人?」
「三人」
「早いな」
三剣はため息混じりに言った。
「だから来るなって言ったのに」
七条は静かに答えた。
「守った」
その目は、狂気にも似た執着で光る。唯のDomとしての力ではない。
相手の意思を尊重しつつ、存在そのものを守ろうとする強さが、七条の瞳に宿っていた。
「お前は俺の弱点だから」
三剣は数秒黙り、小さく笑う。
「本当に重いな」
夜、イタリアの屋上。
三剣は手すりにもたれ、ネオンの街を見下ろしていた。
七条が一歩近づく。
「何で来た」
「お前を探した」
「連絡切ったのに?」
「関係ない」
三剣は少し笑った。
「怖い男だ」
「帰るぞ」
「嫌だ」
即答だった。
「テストだ」
「……?」
「君がどこまで壊れるか、だ」
七条は怒らず、寧ろ笑った。その笑みには、相手の自由意志を確認する好奇心が混ざる。
「結果は?」
三剣は距離を詰め、目の前で言った。
「合格」
七条の目がわずかに揺れ、三剣は低く言った。
「龍二」そして命じる。「跪け」
風が吹き、数秒後、七条は迷わず膝をついた。
ネオンの街の屋上で、膝をつくその姿は、力関係を押し付けるものではなく、信頼と承認の表現だった。
三剣は見下ろし、静かに言う。
「いい子だ」
七条は笑った。
「満足か?」
三剣は小さく頷く。
「うん」そして言った。「やっと安心した」
七条が尋ねる。
「何が」
三剣は答える。
「君が俺を、本当に選んでるって」
七条は立ち上がり、囁いた。
「逆だ」
三剣が目を上げる。七条の目が暗く光る。
「選ばれたのは俺だ。だから、もう逃がさない」
三剣は数秒見つめ、静かに笑った。
「いいよ」
小さく呟く。
「逃げないさ」
二人の間には、支配でも従属でもない、互いを認め合う力の均衡が生まれていた。
膝をついた男も、立つ者も、互いの意思と執着を理解した上での信頼の瞬間。
その夜の屋上で、二人は初めて、完全に向き合ったのだった。




