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殺し屋は詐欺師に跪く  作者: 男鹿七海
7/9

相互選定

 イタリア。湿った夜の空気が、街灯やネオンの光に揺れる。

 七条は、一週間の間で三剣を見つけた。裏カジノのVIPルーム。

 扉の隙間から覗くと、スーツ姿の三剣がカードを配っている。指先が滑らかにカードを操り、客は笑い、金が動く。完璧な詐欺の瞬間。

 七条は扉を開けず、静かに見守った。その目は冷たくもあり、執着と興味で光っていた。

 その時、背後から低い声が響く。

「動くな」

 振り返ると三人の男。裏カジノの用心棒達で、拳銃が突きつけられていた。

「ここは会員制だ」

「知ってる」

 七条は落ち着いて答えた。

「だから来た」

 銃口が背中に押し付けられた瞬間、ナイフが閃く。

 一瞬で一人目の喉が裂け、二人目は銃を落とし、三人目は床に崩れた。

 血の匂いだけが残る。七条はナイフを拭き、ゆっくり扉を開けた。

 VIPルームの中では、ゲームがまだ続いていた。

 三剣はカードを置く。

「フルハウス」

 客の顔が青ざめ、金が動く。

 詐欺は成功した。三剣はゆっくり立ち上がり、七条の存在に気付く。

「……何人?」

「三人」

「早いな」

 三剣はため息混じりに言った。

「だから来るなって言ったのに」

 七条は静かに答えた。

「守った」

 その目は、狂気にも似た執着で光る。唯のDomとしての力ではない。

 相手の意思を尊重しつつ、存在そのものを守ろうとする強さが、七条の瞳に宿っていた。

「お前は俺の弱点だから」

 三剣は数秒黙り、小さく笑う。

「本当に重いな」

 夜、イタリアの屋上。

 三剣は手すりにもたれ、ネオンの街を見下ろしていた。

 七条が一歩近づく。

「何で来た」

「お前を探した」

「連絡切ったのに?」

「関係ない」

 三剣は少し笑った。

「怖い男だ」

「帰るぞ」

「嫌だ」

 即答だった。

「テストだ」

「……?」

「君がどこまで壊れるか、だ」

 七条は怒らず、寧ろ笑った。その笑みには、相手の自由意志を確認する好奇心が混ざる。

「結果は?」

 三剣は距離を詰め、目の前で言った。

「合格」

 七条の目がわずかに揺れ、三剣は低く言った。

「龍二」そして命じる。「跪け」

 風が吹き、数秒後、七条は迷わず膝をついた。

 ネオンの街の屋上で、膝をつくその姿は、力関係を押し付けるものではなく、信頼と承認の表現だった。

 三剣は見下ろし、静かに言う。

「いい子だ」

 七条は笑った。

「満足か?」

 三剣は小さく頷く。

「うん」そして言った。「やっと安心した」

 七条が尋ねる。

「何が」

 三剣は答える。

「君が俺を、本当に選んでるって」

 七条は立ち上がり、囁いた。

「逆だ」

 三剣が目を上げる。七条の目が暗く光る。

「選ばれたのは俺だ。だから、もう逃がさない」

 三剣は数秒見つめ、静かに笑った。

「いいよ」

 小さく呟く。

「逃げないさ」

 二人の間には、支配でも従属でもない、互いを認め合う力の均衡が生まれていた。

 膝をついた男も、立つ者も、互いの意思と執着を理解した上での信頼の瞬間。

 その夜の屋上で、二人は初めて、完全に向き合ったのだった。



 

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