静かな交差点
背中に残る鈍い違和感が、ページをめくる指を鈍らせる。気にするほどじゃないが、消えたわけでもない。それでも三剣は、何事もないように文字を追っていた。
「龍二、くすぐったい」
視線だけを上げる。抗議というほどの強さはない。唯、触れていることを前提にした声音だった。
「髪触ったら駄目か?」
指先は止まらない。許可を求めているようで、その実、もう続けるつもりでいる。
「いいけど、ずっと触られるとくすぐったい」
言いながらも払いのけはしない。触れられている一房だけが、いつの間にか細く編み込まれていた。
「ところで、何でピアスケース持ってきてんの」
三剣の視線が、七条の膝の上に落ちる。開いたケースの中で、小さな金属が光を拾っていた。
「俺があげたやつ以外で、どんなのつけてるか見てた」
膝の上に置かれたままのそれが、やけに自然にそこにあった。
「もしかしてどれか欲しいのあった?」
「何で分かった」
「欲しそうな目してる」
「そんな目してたか」
やり取りの端で、七条の指が一つを選び上げる。迷いのない動きに、三剣は眉を寄せた。
「これ、紫呉から誕生日に貰ったやつだから、それ以外なら……って、何その勝ち誇った顔」
言い終わるより先に、選ばれたそれを軽く掲げられる。
「龍之介、これ」
「え? ああ、そのイヤーカフなら、片方未使用のあるから、そっちあげるよ」
差し出すような言葉に対して、七条は受け取ろうとしない。
「俺、まだ一応怪我人なんだけど」
言葉とは裏腹に、距離だけが詰まる。七条は自然な動作で三剣の膝に頭を預け、視線だけで続きを促した。
その無防備な姿に、三剣は思わず目を見開く。まさか膝に頭を乗せてくるとは──意外な一面を見せられ、少し戸惑いながらも悪くないと思った。
「俺が居れば治る」
「何それ。龍二クリニック?」
どこか可笑しそうに返しながらも、手は止まらない。




