第七話 髑髏武者
本殿のちょうど裏手に差し掛かったところで、髑髏武者はようやく私を下ろしてくれる。
「ほい。ここまで来りゃ、刹鬼も追ってこねぇだろ」
「……うーん、良いのかなぁ……」
周りをぐるりと見回してみたけれど、塀と土蔵しかない。本当に、端の方まで来てしまったみたいだ。
「さて、嬢ちゃん。案内するなら蔵か庭、どっちがいい?」
「……庭が気になりますね」
「ほう、風流な趣味だねぇ。そんならこっちだ。ついてきな!」
私の手首を掴んだ手に、思わずぎょっとする。
気安い声もろくに耳に入らず、その「手」から目が離せない。
……骨と皮、なんてものじゃない。
これは、骨そのものだ。
「……おっと、驚かせちまったか」
髑髏武者はばつが悪そうに呟くと、骨の指でぽりぽりと面の頬を掻いてみせる。
そのまま腰をかがめ、固まっている私と目線を合わせるようにして面を外した。
「こりゃ失敬。……個性ってことで、ひとつ――どうだい?」
その面の下も、半分は骨だった。
私から見て右側の顔から、ごっそり肉が削げ、頭蓋骨の形が丸見えになっている。
……けれど、残された半分の顔には、へらりと気の抜けた笑みが浮かんでいる。少し頬がこけてはいるが、タレ目が優しげで、ほっとする顔立ちだ。
短い髷の結われた頭に、ぱらぱらと不精に散った前髪――この人はもしかすると、生前から「武者」だったのかもしれない。
「……やっぱり、怖いかい?」
眉を下げ、髑髏武者は気まずそうに視線を逸らす。
思わず、骨の手を取った。
「そんなことないっ!!」
……そう、言わなきゃいけない気がした。
「あんがとよ。嬢ちゃんは、優しい子だねぇ」
へらへらと笑う表情は、明るくて、楽しげで――一瞬だけ、「亡者」の風貌を忘れさせてしまうほどだった。
「あの、髑髏武者さんは、どうして門番を……?」
「髑髏で良いよ。それと、敬語もやめとくれ。お互い、気楽に行こうや」
不思議な感覚だ。
明らかに「生きている人間」とは違う、異形の姿なのに――彼はどこまでも人間臭く、親しみやすい。
「……分かった。よろしく、髑髏」
「おうよ。こっちこそ、よろしく頼むぜ」
「私は……私の名前は、城島秤。秤でいいよ」
「んじゃ、遠慮なく呼ばせてもらうかね」
その笑顔が、その話し方が、私に伝えてくる。
なんだか仲良くできそう。……そんな、月並みな予感を。
「うちの庭はな、四季折々の景色が四六時中どこかに見られるんだ。あっちは春の庭で、向こうは夏の庭。もっと向こうまで行きゃあ、秋と冬も楽しめる」
「へぇ……なんだか贅沢ですね」
「蛇神さまの趣味らしいがね。……なんつぅか、やりすぎて有難みがねぇ」
「あははっ、確かに!」
少し話しただけで、私はすっかり髑髏に絆されてしまっていた。
何も知らないけれど、楽しい人だと思ったから。
――本当に、何も知らなかったくせに。




