第六話 門番
さて――子蛇はついてきているものの、ようやく「一人」になれた。
蛇神のことを信じるにしても疑うにしても、今はとにかく情報が足りない。……かと言って、どこをどう調べれば良いのか、見当すらつかないんだけど……
門番の二人に話を聞く?
それとも社務所に行く?
本殿の中を探るのもいいかも。
……あるいは、あえて忠告を破って宮寺に行ってしまう……とか。
悩んだけれど、ひとまずは門番の二人に話を聞くことにする。社務所は忙しくしているらしいし、警備の仕事であれば、有事以外は暇にしているはずだ。……たぶん。
参道を、来た時とは逆の方向に歩いていく。
門が見えたかと思えば、二人の武者の影もどんどん大きくなる。何やら門の近くにうずくまって、何かを話しているようだ。
「だぁから言ってんだろ。そりゃ猪だ。鬼じゃねぇ」
「……ならば……これが、鬼か」
「そっちは鹿だよ鹿! ……ったく、いつものことだが、その目で『門番』ってのも変な話だよな……」
「腕を買われた」
「そうだったな! 『目』の方はおれに頼りゃいいしよ!」
「いつもかたじけない」
「……カーッ、育ちが良いねぇ。かえって嫌味になってらぁ!」
やいのやいの(特に髑髏武者の方が)騒がしいけれど、どうやら花札で遊んでいるらしい。……本当に暇そうだった……。
「……ん? どうしたい、嬢ちゃん」
「あ……っ」
どうやら目がいいのは本当らしく、近づいてくる私にいち早く気付いたのは髑髏武者の方だった。髑髏武者の声に刹鬼武者の方も顔を上げ、「何用か」と問うてくる。
「え、えっと……この社について知りたくて……」
「おっと、蛇神様から聞いてねぇのかい?」
「聞いてないわけじゃないんですけど……分からないことの方が多くて」
「ま、混乱するのも無理ねぇか」
髑髏武者は気さくな態度でハツラツと語る。
その横で、刹鬼武者は静かに成り行きを見守っている。……面を被っているのは同じでも、性格は真逆らしい。
「なら、案内してやろうか?」
「……え。良いんですか?」
「構いやしねぇ。どうせ暇だしな」
からからと笑う髑髏武者に、刹鬼武者が釘を刺す。
「髑髏の。門番の仕事は如何する」
「一寸ぐらい大したことねぇだろ。向こうから襲ってくる痴れ者なんざ、滅多にいねぇ」
「……ならぬ、責務を忘れるな」
空気がひりつき、わずかに冷たくなる。
……もしかすると、私は余計なことを言ってしまったのかも……なんて、思っていると――
「あー! もう最悪! 仕事増えるなんて聞いてないー!」
「まあまあ、休憩はもらてえるんで……」
「文句はあのタコ坊主に言えよ。昨夜もちょっかいかけて来たんだろ?」
賑やかな声が、思考の狭間に割り込んでくる。
聞こえてきたのは、確か、社務所の方角……?
「……そんじゃ、失礼しますよっと」
「はい?」
私が状況を認識する前に、身体をひょいっと担ぎ上げられていた。
腕は思ったよりも痩せてガリガリだけど、さすがは武者。力持ちだね……って、言ってる場合じゃない!
「あ、あの! 強引すぎませんか!?」
「刹鬼のは堅物だからな。これぐらいしねぇと埒が明かねぇ」
軽い口調で語りつつ、髑髏武者は社務所から出てきた巫覡の集団に平気で突っ込んでいく。
あまりのためらいのなさに、開いた口が塞がらない。
「ほらよ、っと!」
「……ん? 髑髏、これ鈴? どっかで見たような……」
「うお、こっちは眷属だ! 何でここに!?」
「預かっておくんな!」
ついでに私の持ち物をしれっと押し付け、髑髏は私にしか聞こえない声で囁いた。
「……『蛇の目と耳』は押し付けた。これで気兼ねなく遊べらぁ」
……やっぱり、監視の意図があったってことかな。
あの鈴と、蛇……
「……髑髏の。仕事中だ」
「あのー、刹鬼さん。あたし巫女です。巫女のおりんです」
「……ならば、貴殿か」
「おいらは覡っす。彦五郎っすね」
「…………見失ったか…………」
遠ざかる背後から、途方に暮れた声が聞こえる。
「あーあ……もう少し追いかけて来れると思ったんだがな」
自分で撒いておきながら、髑髏武者は心底残念そうに言う。
……見失った? この距離で?
嘘でしょ、本当に目が悪いんだ……。




