終幕
都会の片隅。
人気のない路地裏に、黒々とした裂け目が現れ、人影が二つ、姿を現す。
路地裏の隅。身を隠すようにして蹲る亡者を見、人影の片方……白い長髪の男が口を開いた。
「この子、保護よねぇ」
長髪の男は、日傘を開きながら淡々と語る。
華やかな女物の着物を身につけ、女性らしく振舞いながらも、その声には男性らしい低さと艶がある
「まあ狩るなら俺っちの仕事だけどね。悪さしなさそうだし、保護でいいんじゃない?」
もう片方……赤髪の男が飄々と言う。
柄物のスーツと色付きのサングラスを身につけ、その顔にはしっかりと傷痕が刻まれている。何も知らない相手が見れば、「堅気ではない」と感じることだろう。
「あのねぇ、ちゃんと仕事しなさいね? 外法を斃すのがあんたの仕事。弱った化生の保護はアタシの仕事。いいこと?」
あくびをかみ殺す赤髪の男に、白髪の男は呆れ気味に突っ込む。……が、赤髪の男はへらへらと笑いながら、忠告を右から左へと聞き流している。
「ホラ、ましろちゃん優しいからさ。そんなに人をこき使うタイプじゃないと思うのよ。誰かさんと違って」
「あんたが不真面目すぎるのよっ! というか、うちの上司をなんて呼び方してんの!?」
ワイワイと騒ぎながらも、白髪の男は発見した化生の背後に裂け目を作り出し、そのままどこかへと「転送」する。
それを横目に、赤髪の男は古びた手帳を取り出した。
「……で、次はこの城島灯ちゃんって子を庇護しに行くの? なんで? そんな重要?」
「特殊な血筋なのよ。城島――秤さまの血筋ね。上手く噛み合ってりゃいいけど、その子の場合はほぼ最悪。とっとと助けに行くわよ」
コンパクトミラーを取り出し、化粧と髪型を気にする白髪の男。赤髪の男に比べ、仕事へのやる気は十全のようだ。
「ありゃま……やることが多いねぇ」
「あんまりサボってると刹鬼さまにどつかれるわよ」
「うげ。キリキリ働かせていただきます」
「ま、髑髏さまは助けてくれるかもね」
「わかってないねぇ。怖いのはむしろそっちだって……」
渋い表情で肩をすくめる赤髪の男を、白髪の男はぎろりと睨みつける。
コンパクトミラーをパタンと閉じ、白髪の男はドスの効いた声で赤髪の男に釘を刺した。
「――良いかい。朱雀。己たちはこの世界の綻びを繕うために『怪異』から『守護』になったんだ。拾われた温情にゃ応えるべきだぜ」
「へいへい、分かってるよ。――白虎」
「救われし者」二頭は、そのまま都会の雑踏へと歩みを進める。
新たに救いを求める魂のために。
「神」に救われた「怪異」として、恩義に報いるために。
「でもよ、やることやったら、後はテキトーで良いわけよ。変に真面目だから怨霊に身を堕としたんじゃないの」
「うるっさいわね! あんただって相当暴れてたくせに!」
「いきなり女形モードになるのやめてくんない? ビックリするから」
「黙らっしゃい。こっちのが落ち着くのよ! 良い? 現世のアタシのことは『山名万葉』って呼ぶのよ!」
「うわぁ……すげぇキャラ付け捻った感じ……」
「何よ、文句あるの『赤松治五郎』!」
「いやあ……俺っちだって斃した怪異の名前そのまんま貰っただけだし……つか、どうする? すげぇ目立ってんだけど」
「……お互い、服装は間違えたかもしれないわね……」
やいのやいのと騒ぎながらも、朱雀こと「赤松治五郎」、白虎こと「山名万葉」は人の波を気にすることなく乗り込んでいく。
……こうして、物語は繋がり、歴史は未来へと進んでいく。




