第四十七話 還る
その後、「犬首村」は自治体によって整備され、新たに人々が住むようになった。
長い間放置されていたのが嘘のように、瞬く間に交通網も発展し始め、土地は新興住宅地として売り出され始めた。
住宅地からわずかに離れた場所に、「白蛇神社」という神社がある。白蛇神社の巫女や従業員が災害復興の手助けをした……などと、役所内では評判でも、彼らがどこから来たのか知る者はいない。
都会から離れた場所ではあるが、住み良い田舎町として旧「犬首村」――現「あさひ町」は、この二十年のどかな田園風景を保ち続けている。
神社の宝物殿に由緒正しい刀や珍しい文化的資料があったことで、学者やマニアの出入りも増えてきており、博物館の建設計画も進められている。まあ、人が増えるのは悪いことではないのだけれど……
「こら。祠にイタズラしちゃダメだよ」
山の上にある旧社跡。
大半の人々は綺麗に掃除してくれたり手を合わせてくれたりするのだけれど、たまーに、夏休み中の悪ガキが落書きをしようとしたりする。
「あ、出た、バチ当たりってやつだ」
「そんなの言うの、ジジババだけだろ」
うーん、憎たらしい。親御さん、ちゃんと教育してあげてください。
……まあ、落書きぐらいましろは許すんだろうけど、なんだかね。
「そこ、大事な思い出の場所なの。バチがどうこうじゃなくて、大切に扱って欲しいなって」
「うへー、説教?」
「長くなりそ?」
「うん、祟ってやろうかコノヤロウ」
「祟り」。今の私には不可能じゃないんだけど……まあ、大人気ないので、やめておこう。余裕を持って接してあげなきゃね。
……せっかく、ましろが守った土地なんだからさ。
「そのサッカーボール、サイン入りだよね」
「うん! バッカムのサイン!」
「すげーだろ! パパがイベント当ててくれてさ!」
「……それに落書きされたら、どう思う?」
「え」
「やだ! 絶対やだ!」
「同じだよ。想いが込められてる。……そのサッカーボールも、大事にしなよ」
子どもたち二人は顔を見合わせ、「はぁい」と項垂れる。……うん、思ったより素直でいい子たちだ。健やかに成長するんだよ。
「……さて、そろそろ行かないと。あの子を待たせちゃう」
ざあっと風が吹き抜ける。
そろそろ、目が覚める頃だからね。……おはようって、真っ先に言ってあげたい。
「あ、おねーちゃん、これってお供え物いる?」
「あれ、あの人どこ行った?」
やば、話しかけられてた。……まあいいや。
お供え物したくなる気持ちだけで充分だよ。その「想い」こそが、ましろの力になってくれるはずだから。
さぁ、ましろに会いに行こう。
あの子と「同じ」になった私を、見てもらおう。
髑髏と刹鬼も元気にやってるって、伝えてあげなきゃね。
鳥居を潜り、社務所に「ただいま」と声をかける。
私のことが見えていなさそうな巫女の奥で、見覚えのある顔がひらひらと手を振ってくれる。
階段を駆け上がり、扉をすり抜け、本殿の奥へと向かう。
光を浴びて身じろぐ白い身体に、思わず笑みがこぼれた。
「――おはよう!」




