表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
最終巡 結ノ章 ― 天道 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/56

第四十二話 決戦開始

「お前さま」


 宮寺に向かう直前。ましろに呼び止められる。


「わらわは……これより、わらわの為すべきことを為すつもりじゃ。されど……」


 ふっと、朱い瞳が伏せられる。


「村を浄化した『先』に何が起こるかは、分からぬ。それが恐ろしくないといえば、嘘になるのじゃ」


 神にさえ、分からない未来。

 怖いのは当たり前だ。……私だって、本当は怖いんだから。


「大丈夫。……その『先』でも、私はそばにいるから」


 亡者のままでは存在が保てないなら、今度は、以前とは違う覚悟を持って眷属に生まれ変わろう。

 もし、それすら叶わなかったとしても、今度は忘れない。転生したって、覚えていてみせる。もし離れ離れになったって、探し出してみせる。


 もう、ましろに寂しい思いなんかさせない。


「また何か怖いことがあっても、一緒に乗り越えよう」


 今にも崩れ落ちそうな身体を抱き締め、そっと囁く。

 ましろは「……うむ」と柔らかく返事をし、ゆっくりと身体を離した。


「ありがとう、秤」


 大輪の花が咲くような、満面の笑みだった。

 この神域に来て、私は初めて、彼女の心からの笑顔を見た。……ようやく見れた、とさえ思う。


「わらわは、必ずや成し遂げよう。……その時は、お前さま。わらわを、たくさん褒めてくれるか?」

「うん。いっぱい褒める。嫌になるくらい褒める」


 唇にひとつキスをして、背中に回した腕をゆっくりとほどく。

 まだまだ名残惜しいけれど、時間は限られているし、仕方がない。


 本殿に向かうましろの背を見送り、私、髑髏、刹鬼は、数匹の子蛇たちを連れて宮寺へと向かう。


「……もう少しぐらい、欲張っても良かったんじゃねぇか? 舌入れるとか」

「髑髏の、余計なことは言わずとも良い」


 横から夫婦漫才が聞こえてきたので、にやりと笑って言い返しておいた。


「その辺は……頑張ったご褒美ってことで」

「言うねぇ。蛇神様も、良い伴侶を見つけたもんだ」

「……。吾は何も言うまい」

「なんだい? 刹鬼のもご褒美に欲しいってか」

「い、要らぬわ……!」


 

 

 ***




 宮寺に辿り着くと、子蛇ちゃんが一匹、ぴょんと肩に乗ってくる。

 不思議に思っていると、脳内に、具足を着た足元の映像が流れ込んできた。


「……お? 二人の足元が見える……?」


 私の疑問には、刹鬼が答えてくれた。


「秤殿は確か、霊媒師の才があるゆえ……今は、眷属殿の視界が見えておるのでは?」

「はぁー、便利だねぇ。離れた場所にいても、おれ達の様子が分かるってこったろ?」


 髑髏の補足に、なるほど、と頷く。

 この子達はクローンだから、視界の共有ができているってことか。……というか、視界が共有できるから、ましろが遠くの様子を見るのにも役立ってたんだっけ。


「……うん。何かの役に立ちそう! ありがとね」


 子蛇ちゃんの頭を撫でると、嬉しそうに頭を擦り付けてくれる。本当に可愛いなぁ。……蛇だった頃のましろも、こんなふうに懐いてきた気がする。

 ……なんて、戯れている間に、髑髏が宮寺に違和感を見いだしたらしい。


「……っと、結界を貼ってやがるな。警戒してんのはあちらさんも同じってこった」


 辺りに、ひりつくような緊張感が漂う。


「されど……此処を守るということは、すなわち。此処が、弱点だと申しておるに同じ」


 刹鬼の声に、髑髏は「そうさな」と頷き、骨の腕を宙に翳した。


「『餓者髑髏』散華(さんげ)――『斬骸(ざんがい)』」


 そう呟いたかと思うと、地面に大きな裂け目が現れる。黒々とした裂け目から、白骨の欠片が吐き出されるように飛び散り、髑髏の顔や身体に鎧のようにまとわりつく。

 骨の手の中には白骨で組み上げられたような槍が現れ、髑髏は身の丈より大きなそれを片手でくるくると回した。 


「自分で槍を振るわなきゃならねぇのは面倒だが、節約には持って来いだ」


 そのままあっさりと結界を斬り裂き、髑髏は先導するように宮寺の中へと足を踏み入れる。


「吾らも行くぞ」

「うん……!」


 私も、刹鬼と共に髑髏の後に続いた。

 境界を超えた途端、息苦しいまでの禍々(まがまが)しい空気が私を押し潰す。鼻が曲がりそうな血の臭いに、肌を焦がすような熱気……それでも、どうにか耐えて踏ん張った。


「……早速、出迎えか」

「景気がいいこった」


 刹鬼と髑髏の視線の先には、(うごめ)く亡者たち。

 血塗れの亡者、焼け爛れた亡者、身体に穴の空いた亡者……様々な亡者が、宮寺の入口を埋め尽くすように立ち塞がっている。


「……みんな、それじゃ覚范の味方してるのと一緒だよ……! 本当にそれでいいの!?」


 私の問いかけに呼応するように、一斉に歪な声が沸き上がる。


 ――ダマレ!

 ――奴ニハ責メ苦ガ足リヌダケ

 ――奴ニ復讐スルハ我ラダ!

 ――神ノ慈悲ナド要ラヌ

 ――地獄ハ地獄デナケレバナラヌ……!!


 怨嗟の叫びを聞いて、理解した。

 ……もはや、話の通じる相手じゃない。

 もちろん、彼らは本来被害者だ。怨みすら利用されてしまって、哀れだとも思う。


 だけど、このままにはしておけない。


「……髑髏、刹鬼。お願い」

「ハッ……言われなくても分かってらぁ!」

「『哀哭(あいこく)』よ。……出番ぞ」


 髑髏は骨の槍を構え、刹鬼は愛刀に手を伸ばす。

 刹那。

 両断された亡者たちの凄まじい悲鳴とともに、道が開けた。


「行け。『依代』を探し終えるまで、吾らが持ち(こた)えよう」


 刹鬼の腕の先で、抜き身の「哀哭」がぎらりと輝き、私の進むべき道を指し示す。

 

「おうおう……はりきっちまって……」


 髑髏はへらへらと笑いながらも、刹鬼の斬撃が届かなかった亡者を、槍の一閃でなぎ倒していた。


「……ありがとう! 二人とも、また後でね!」

 

 そうしている間にも、宮寺の中からは際限なく亡者が溢れ出す。

 怯えている暇なんかない。意を決し、道を塞がれる前に内側へと飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ