表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
最終巡 結ノ章 ― 天道 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/56

第四十一話 戦支度

 目を開ければ、そこは本殿の中だった。

 目の前には、静かに座すましろの姿がある。


「……ましろ?」


 名を呼ぶと、震えるような息遣いが聞こえた。


「……お前さま……」


 不安でいっぱいな朱い瞳は、涙に濡れているようにも見える。

 膝の上で震える手を握り締め、額に口付けた。


「大丈夫だよ。きっと、大丈夫」


 私の言葉で少しは安心できたのか、(こわ)ばった身体が、ゆっくりと弛緩(しかん)していく。


「まずは、社務所に行かねば……皆の無事を確認せねば……」


 ……と、ましろが立ち上がろうとしたところで、(ふすま)が勢いよく開いた。


「蛇神さま! 大丈夫ですかっ!!」


 凛と響いたおりんさんの声に、ましろの瞳が確かに潤む。

 続いて、他の巫覡(ふげき)達もぞろぞろと本殿の中に入ってきた。「蛇神さま、すみません……! 油断しちまいました!」「蛇神さま、怪我は無いっすか!? 何もされてませんか!?」……と、皆、口々に「蛇神さま」を案じるような言葉で話していて、ましろが本当に慕われていることを再確認させてくれる。


「……本当に、大事ないか……!?」

「はい……! ……でも……あんまり、時間はないかもです。あの『術』……本当に、誰も気が付かなかったのが怖くて……」

「……そうじゃな。それだけ、覚范が力をつけていることの証じゃ」


 ましろは静かに頷き、立ち上がる。


「時間がないようじゃ。儀式の準備を頼む」

「……! わかりました!」

「みんな、キビキビ働くよ!」

「おおーっ! やってやろうじゃねぇか!」

「ついに……この時が来たんすね……!」


 巫覡たちは一斉に駆け出し、掛け声や足音が本殿に反響する。

 その様子を少しの間眺め、ましろは、私の方へと向き直った。


「秤、次は蔵じゃ。刹鬼に、刀を渡さねば」

「……うん。一緒に行こう!」


 私が手を差し出すと、ましろはおずおずと手を重ねてくれる。

 不安はある。恐怖もある。……それでも、先に進もう。


 私たちの希望は、潰えていないのだから。


 


 ***


 


 蔵の鍵を開けると、白い子蛇達がみんなで出迎えてくれる。

 そういえば、刹鬼が取り乱した時。この子達が体当たりして助けてくれたんだよね……。


「よく、忍び込んで遊んでおるのじゃ。ここで産まれた子も多いゆえな、落ち着くのじゃろう」


 立てかけてある刀を手にし、ましろは(いつく)しむように言う。

 ……可愛いよね。この子達。単為生殖ってことはましろのクローンみたいなものだし、それも当たり前か。

 ましろ本人が可愛いからね。うんうん。


「……お前さま、何か変なことを考えておらぬか」

「そ、そんなことないよ! ほら、刹鬼に渡しに行こう!」


 まずい。雑念に気付かれかけてしまった。

 話を逸らし、門番の詰所の方角に足を向ける。……と、足元に子蛇ちゃん達が次々と擦り寄ってきた。


「え、な、何?」

「手伝いたいそうじゃ。連れて行ってやってくれぬか」


 ましろが翻訳してくれる。私が「そうなの?」と聞くと、子蛇ちゃんたちは胸を張るような仕草を見せてくれる。ほんとに可愛い。


 眷属を引き連れ、刀を持ったましろと共に門番の詰所へと向かう。

 詰所の入口で、髑髏と刹鬼は既に待機してくれていた。面を外した(たたず)まいは「異形の怪異」そのものだけれど、その表情からは、どこか静謐(せいひつ)な覚悟が(ただよ)っている。


「……! ギリギリまで寝てて良かったのに」

「こっちにも、心構えってもんがあるからな」

(われ)らのことは、気にせずとも良い」


 髑髏はいつものように飄々としているし、刹鬼もいつものように落ち着いては見えるけれど……大丈夫かな。二人とも、無理してないかな。


「……確かに、少しは回復しておるようじゃ」

「ちっとばかし賭けにはなりましたけど、精気の交換を試してみましてね。……上手くいって良かったな、刹鬼」

「……ッ、わざわざ言うことでもあるまい……!」


 にやりと笑う髑髏に、耳まで真っ赤になる刹鬼。

 ましろは「ふむ……?」とピンと来ない様子だけど、私には何となく分かる。

「精気」の交換ね。体液を使うとか、そういう感じかな。なるほどね。


「刹鬼。いよいよ最後の大いくさじゃ。……これを」


 ましろに刀を差し出され、刹鬼の表情が強ばる。

 

「……! 『哀哭(あいこく)』……!」


 哀哭。……きっと、それが、あの刀の名前だ。

 

(うぬ)の愛刀じゃ。今の己であれば、正しく振るえるじゃろう」


 ましろの言葉には静かに頷き、刹鬼は両手で恭しく刀を拝領する。


「……ありがたき、お言葉にございます」


 緊張した面持ちからは、不安も感じられる。……けれど、それ以上に、誇らしさの方が大きいように見えた。


「行くぜ、相棒。暴れてやろうじゃねぇか」


 髑髏の表情は晴れやかだけれど、どこか、憂いも感じられる。……やっぱり、不安だよね。力も万全ではないわけだしさ。


「ああ。……これが、吾らの最後の仕事となろう」


 対し、刹鬼は刀を返されたことで、しっかりと覚悟を決めたように見えた。

 武士としての矜恃(きょうじ)ってことかな。……髑髏からすると、複雑かもね。そもそも、本当なら怪我の一つもして欲しくないだろうし。


 とはいえ、その辺は一晩でしっかり話し合ったのだと思う。表情にも発言にも、後悔の色はなさそうだった。

 

「秤も、頼んだぜ。お前さんなら、『依代』を見つけられるさ」

「時間は吾らが作るゆえ、心配なされるな」


 ……そう。私にも果たすべき役割がある。

 宮寺の中から覚范の「依代」を探し出さないといけないんだ。


 本当に見つけられるのか、不安がないわけじゃない。

 でも。

 ここにいる、みんなもきっと同じ気持ちだ。


「やるしかない」……そう思って、ここに立っている。


「行こう、みんな。悔いがないように、やり切ろう!」

「「応!」」


 髑髏と刹鬼の声に呼応するようにして、子蛇ちゃん達もキリッと私の方を向く。

 ……さぁ、ここからが正念場だ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ