第三話 社
──夢を見た。
髪をおかっぱに切り揃えた少女が、「私」に向けて楽しそうに笑いかけている。
緋袴も白衣も古着のようにボロボロだけれど、辛うじて巫女装束だと見て取れた。
「さぁ早うお食べ! おまえも腹が減っているんだろ?」
あの子はいったい、誰なのだろう……?
***
気が付くと、着流しの背中の上で揺られていた。
「ようやく目を覚ましたようじゃな。儂を脚に使えること、光栄に思うが良いぞ」
声は男性の低さに戻っている。
……その方が「背負いやすい」と思ったのかもしれない。
「ほれ、顔を上げよ。これが儂の社じゃ」
言葉の通り顔を上げる。
目の前には、真っ赤な鳥居がこれでもかとばかりに主張していた。
……もう隠す気もない。彼(彼女?)は、土地神だ。
鳥居の向こうに本殿へと向かう参道があり、仁王像でも祀られていそうな豪奢な門がある。
……と思えば、門の内側に二つの影を見つけた。
仁王像にしては小さいが、右側は「阿形」の代わりに鬼の面、左側は「吽形」の代わりに髑髏の面を身に付けている。
「うわ、趣味が悪い」と思いながら通り過ぎ──かけた、その瞬間。
髑髏の面の方が、言葉を発した。
「今回は、結構遅かったんですねぇ」
背筋が凍り、心臓が縮み上がる。
言葉を失っている私に、土地神らしき「彼」は平然と語った。
「紹介せねばな。門番の『髑髏武者』と『刹鬼武者』じゃ。どちらがどちらかは……まぁ、見ればわかるじゃろう」
紹介され、「髑髏武者」の方が頭を掻きながら「へぇ……よろしく頼みやすぜ」と気だるげな声を放つ。
「刹鬼武者」の方は「髑髏武者」の挨拶を待った後、「よしなに」と静かに言い、しっかりと礼をした。
……彼らも人間かどうかは怪しいけれど、少なくとも自我があって動くなら、早めに言っておいて欲しい。
「あちらの社務所に、巫覡が集っておるが……まあ、挨拶は後でも良いじゃろう。いつも忙しくしておるからの」
「ふげき……巫は普通の巫女で、覡は、男性の巫女ですか。珍しい」
「そうか? 人間はやけに雌雄を気にするものじゃな」
土地神は、何でもないことのようにしれっと語る。
どちらにでもなれるからこそ気にしないのか、そもそも自らの肉体にそういう概念がないのか……。つくづく、人間の感覚では計り知れない存在だ。
「社務所の向こうに宮寺があるが、決して近寄ってはならんぞ」
「神仏習合……授業で習いました。色々複雑なんですね」
「……まあ、どう解釈しても構わぬ。じゃが、儂は本気で言うておる」
空気が変わる。
黄昏を映したような朱い色が、わずかに昏く陰る。
「宮寺には、近寄ってはならぬ。……絶対にじゃ」
殺気にも似た鋭い気配が、針で刺すような痛みを伴って私に迫る。
……これ以上は、触れない方が良さそうだ。
「さぁ、参るぞ。お前さまの身は、儂がしかと匿ってやろう」
そういえば、この土地神、「伴侶にする」だとか「下僕にする」とは一言も言っていない。
いったい、何が目的なのだろう。
「儂のことは『蛇神』とでも呼べ」
もしかして。
──曰く。血に飢えた土地神がすべてを喰らい尽くしてしまった……
……私のことを、食べるつもり……?




