第十九話 外法僧正
気が付けば、私は宮寺の縁側に座らされ、覚范入道とおりんさんに挟まれていた。
どうしよう、この状況。
そもそも、「宮寺には近寄るな」って言われていたのに、どうしてこうなっちゃったのかな……。
「そう固くなるな。愚僧はな、お主のような年頃のおなごにはめっぽう優しいぞ。いや、おなごにはだいたい優しいがな! がっはっは!」
「は、はあ……」
豪快に笑う「外法僧正」こと覚范入道。
「普通のおじさん」と呼ぶには、声や雰囲気に凄まじい覇気のようなものを感じる。こういうのを、カリスマ? っていうのかな。
……とはいえ、女好きの生臭坊主ってだけのように見えるし、そんなに害がある感じはしないけど……
「……あの。『蛇神さま』が、宮寺には近づくなって……理由は、わかります……?」
「おおかた、愚僧が手を出すとでも思っておるのだろうな。……あの神、なかなか悦い尻をしておるだろう? 出会うたびに撫でておったら、此処から出られなくなってしもうた。はっはっは」
「……あー、そうですか……」
うん、確かにどうしようもないスケベおやじではある。
それは警戒されても仕方がない気がするし……でも、そっか。
私が大事にされていたっていうのも、本当なんだ。
「覚范さまもね、この村を救ってくださろうとしてるんだ!」
「そうだの。此処は、元を言えば愚僧の荘園。求道者としては、存分に相応しかろう」
「……救う、かぁ」
怪訝そうな私に、覚范は「ふむ」と向き直る。
「ひとつ、愚僧の説法を聞いてはくれんか」
「な、なんでしょう」
覚范の仕草は改まった雰囲気ではなく、ゆったりとした姿勢を崩していない。
むしろその態度こそが、余裕の表れにも見えた。
「愚僧は欲も、煩悩も否定せぬ。あるがままに生きることを否定せぬ。世のすべては、どう足掻いても御仏の掌の上。人は人として、浅ましく醜く生きて構わんのだ」
にやりと笑い、覚范は人間の業を肯定する。……僧としてはどうかとは思うけれど、はきはきとしたその言葉には、不思議な説得力があった。
「……それで……あなたの言う『救い』は、何?」
「簡単なことよ。定めを受け入れ、御仏の慈悲に縋ることこそ、救いに外ならん」
何となく、言いたいことは分かった。
蛇神は村の復活を望んでいて、覚范は村が滅びる定めを受け入れようとしている――そういう解釈でいいのかな。
もっとも、当の「蛇神さま」の話を聞いていないから、そちら側の考えがどこまで把握できているのかわからないんだけどね……。
「ところで秤、あの観音像が見えるか?」
「え、ええ。綺麗ですよね」
「あれには、深い由縁がある。もう少し、近くで見せてやろう」
由縁、か。
妹なら退屈だと突っぱねていたかもしれないけれど、私は、ついつい興味を惹かれてしまっていた。
蛇神の社がある「犬首村」は、かつて覚范入道の荘園内にあった。……もしかすると、この村について、何かわかるかもしれない。
「良いなあ、秤。その中、あんまり入れてもらえないんだよね」
羨ましそうなおりんさんの声を背に、私は、覚范入道の後に続いた。……この先に待っている「真実」を、想像すらできないままに。




