表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
第三巡 業ノ章 ― 地獄道 ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/44

第十九話 外法僧正

 気が付けば、私は宮寺の縁側に座らされ、覚范入道とおりんさんに挟まれていた。

 どうしよう、この状況。

 そもそも、「宮寺には近寄るな」って言われていたのに、どうしてこうなっちゃったのかな……。


「そう固くなるな。愚僧はな、お主のような年頃のおなごにはめっぽう優しいぞ。いや、おなごにはだいたい優しいがな! がっはっは!」

「は、はあ……」


 豪快に笑う「外法僧正」こと覚范入道。

 「普通のおじさん」と呼ぶには、声や雰囲気に凄まじい覇気のようなものを感じる。こういうのを、カリスマ? っていうのかな。

 ……とはいえ、女好きの生臭坊主ってだけのように見えるし、そんなに害がある感じはしないけど……


「……あの。『蛇神さま』が、宮寺には近づくなって……理由は、わかります……?」

「おおかた、愚僧が手を出すとでも思っておるのだろうな。……あの神、なかなか()い尻をしておるだろう? 出会うたびに撫でておったら、此処から出られなくなってしもうた。はっはっは」

「……あー、そうですか……」


 うん、確かにどうしようもないスケベおやじではある。

 それは警戒されても仕方がない気がするし……でも、そっか。

 私が大事にされていたっていうのも、本当なんだ。


「覚范さまもね、この村を救ってくださろうとしてるんだ!」

「そうだの。此処は、元を言えば愚僧の荘園(とち)求道(くどう)者としては、存分に相応(ふさわ)しかろう」

「……救う、かぁ」


 怪訝(けげん)そうな私に、覚范は「ふむ」と向き直る。


「ひとつ、愚僧の説法(せっぽう)を聞いてはくれんか」

「な、なんでしょう」


 覚范の仕草は改まった雰囲気ではなく、ゆったりとした姿勢を崩していない。

 むしろその態度こそが、余裕の表れにも見えた。


「愚僧は欲も、煩悩(ぼんのう)も否定せぬ。あるがままに生きることを否定せぬ。世のすべては、どう足掻(あが)いても御仏(みほとけ)の掌の上。人は人として、浅ましく醜く生きて構わんのだ」


 にやりと笑い、覚范は人間の業を肯定する。……僧としてはどうかとは思うけれど、はきはきとしたその言葉には、不思議な説得力があった。


「……それで……あなたの言う『救い』は、何?」

「簡単なことよ。定めを受け入れ、御仏の慈悲に(すが)ることこそ、救いに(ほか)ならん」


 何となく、言いたいことは分かった。

 蛇神は村の復活を望んでいて、覚范は村が滅びる定めを受け入れようとしている――そういう解釈でいいのかな。

 もっとも、当の「蛇神さま」の話を聞いていないから、そちら側の考えがどこまで把握できているのかわからないんだけどね……。


「ところで秤、あの観音像が見えるか?」

「え、ええ。綺麗ですよね」

「あれには、深い由縁(ゆえん)がある。もう少し、近くで見せてやろう」


 由縁、か。

 妹なら退屈だと突っぱねていたかもしれないけれど、私は、ついつい興味を惹かれてしまっていた。

 蛇神の社がある「犬首村」は、かつて覚范入道の荘園内にあった。……もしかすると、この村について、何かわかるかもしれない。


「良いなあ、秤。その中、あんまり入れてもらえないんだよね」

 

 羨ましそうなおりんさんの声を背に、私は、覚范入道の後に続いた。……この先に待っている「真実(じごく)」を、想像すらできないままに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ