表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛇神譚 犬首村六道繪巻 ― 誰そ彼の契り ―  作者: 譚月遊生季
序章 神の社へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/31

第二話 邂逅

 引き返せ。

 本能が叫ぶ。


 すくんだ足を無理やり奮い立たせて、(きびす)を返した。

 

「……あれ」


 通ったはずのトンネルが、そこにはない。

 ()り立つ岩壁が、何人たりとも通すまいと行く手を阻んでいた。


「う、そ……」


 思わず息を飲む。

 立ち尽くす暇もなく、私の耳に、何かを引きずるような音が聞こえ始めた。 

 

「お前さま」


 続いて、声。

 不思議な声だった。

 男かも、女かもよく分からない。

 ……それなのに。


 それはそれは美しい、心を揺さぶるような声だった。


 ずるずる、ずるずると、「それ」は近付いてくる。


 ……人間の足音じゃない。


 恐怖で動けない私の耳に、再び、声が届く。


「恐れるでないぞ。(わし)はお前さまの味方じゃ」


 この声は……男性?

 先程の声と同じなのは分かる。……けれど、もっと中性的な……女性のような声だった気も……


 おそるおそる、背後を振り返る。

 可能な限り細めた瞳に、「彼」の姿が映った途端。私は、思わず目を見開いてしまった。


 美しい人だった。

 

 長い白髪に、黄昏(たそがれ)の空のように(あか)い瞳。

 青白い顔と着流しから覗く肌には、ところどころ鱗のようなひび割れが見えている。

 絹のような白い着流しには、細かな金色の刺繍が見て取れる。こんな廃村に似つかわしくない衣装だと、見ればわかった。


(はよ)う共に参れ。丁重(ていちょう)にもてなしてやろうぞ」


 饒舌(じょうぜつ)に話す口元から、二つに割れた舌先がちろちろと覗く。

 ……聞いたことがある。


「犬首村」の土地神は、「蛇の神」だ、と……


「……ふむ。年頃の女子(おなご)()()姿()を好むと聞いたが、そうでもないようじゃの」


 私が固まっている間に、男は勝手にぶつぶつと話を続ける。


「お前さまが望むなら、()()()の姿でも構わぬのじゃが」


 途端に筋張った体躯(たいく)が丸みを帯び、着流しの胸元からたわわな乳房が覗く。

 思わず、ごくりと唾を飲んだ。存在自体の「美」も、中性的で謎めいた雰囲気も何も変わらないままに、肉体の構造だけがするりと置き変わってしまったようで……

 言葉が出ない。目の前の存在が「彼」であろうが「彼女」であろうが……間違いなく、()()()()()


「ええい。何か話さぬか。(わらわ)とて、暇なわけでは……」


 頭の中がぐちゃぐちゃになり、目の前がぐにゃぐにゃと歪む。

 意識が遠くなり、目の前の「彼女」が何を言っているのかすらよく聞こえない。


 視界が白ずみ、思わず膝をつく。

 意識が途切れる間際、柔らかい腕に抱き上げられたのがわかった。


 ――(はかり)。アナタには力があるの


 母の声が、呪いのように蘇る。


 幼い頃から、私には霊感があった。

 この世ならざる者を感知する力を「霊媒師の才」というのであれば、私には間違いなく才能があったのだろう。


 ……それこそ、人ならざる化生(けしょう)に目をつけられてしまうくらいには。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ