第十三話 異変
「……あ、あった!」
木の洞に手を入れると、やっぱり、そこには鍵(と、巨大な蛇の抜け殻)があった。
これで確信する。
あの夢は、ただの「悪夢」や「白昼夢」なんかじゃない。
「これ、何の鍵だと思う?」
刹鬼に見せると、彼は「蔵の鍵に見える」と即答してくれた。
……あれ? 何だろう、この違和感。
……そうだ。忘れてた。刹鬼って、目が悪いんじゃなかったっけ……?
「……? 如何した」
「あ、えっと……ううん、なんでもない。蔵って、どこにあるか分かる……?」
もやもやした思いはあるけれど、とりあえず保留にして、蔵の方向に連れていってもらう。
蔵を見たら、今度こそ社務所に行こうかな。巫女さん達とも話したいし……と、思っていたら。
「せ、刹鬼さぁぁぁん!!」
その「巫女」らしき誰かが、半泣きでこちらに向かってきた。
おかっぱに切り揃えられた髪型と緋袴に、見覚えがある。……けれど、追憶に浸る暇はなさそうだった。
「あの蔵! 何か居ます! 絶対いる!!」
「……吾の仕事か」
涙目の巫女が指差す先には、古びた蔵がある。
刹鬼はためらうことなく、その扉に手をかけた。
「……鍵が……」
その呟きで、何となく悟った。
さっき見つけた鍵って、もしかして……?
「早く何とかしてくださいぃ! さっきから物音が凄くってぇ!」
巫女は慌てふためいた様子で、ガタガタと震える。
放っておけないので、持っていた鍵を刹鬼に渡した。
「たぶん、これだと思います!」
「……かたじけない」
刹鬼は一瞬だけ悩む素振りを見せたけれど、意を決したように鍵を開け、封じられた蔵を解き放つ。
真っ暗闇の中、確かに、ガサガサと何かが蠢く音がする……。
「下がれ」
刹鬼の冷静な声かけに、頷いて一歩下がろうと――したところで、肩の子蛇が動いた。
子蛇は闇の中に向け、一目散に突進していく。
「えっ、危な……っ」
私が言い切る前に、積まれた書物の隙間から、もう一匹の影が飛び出す。
……その影も、子蛇だった。
「なんだ……ただの、迷子だったんだね」
ほっと息をついたのも束の間。
隣の刹鬼の様子がおかしいと、気が付いた。
「……っ、あ……」
刹鬼は呼吸を乱し、暗闇を見つめている。
何もないところに、何かを見いだしたかのように、そこに何者かが存在しているかのように、じっと――
「ど、どうしたの? そこには何も……」
ガタン、と、蔵の入口で何かが倒れる音がする。
「あ、あの太刀。前に、蛇神さまが仕舞っていた――」
巫女の声と同時に。
弾かれるかのように、刹鬼の腕が動いたことだけ分かった。
その後は、見えなかった。
「え……?」
気が付けば、私の腕からは血が流れ出している。
痛みは、遅れてやってきた。
「い……っ! な、何……?」
子蛇が体当たりをしたからか、刹鬼の面が外れている。……おかげで、私は腕を斬り落とさずに済んだらしい。
「ぅ……ウゥ……」
呻く刹鬼の表情は、何かに怯えているのか、何かを恐れているのか……
鬼の面の下は、整った顔立ちの若武者だった。……白目の部分が真っ黒に染まり、その中央で、血のように緋い瞳が爛々と輝いていたとしても。
私から見て左半分の顔面が真っ赤に変色し、両の額から緋い角が突き出ていたとしても。
その表情が、恐怖と苦悶で歪められていたとしても――
かつて、気高き美丈夫だったことを疑わせないほどの面影が、そこにはあった。
「……ッ、アァ――――――」
刹鬼は悲痛な叫びを上げ、再び刀を私に向ける。
何が何だか分からないまま、白刃が、音もなく奔る――




