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【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る− 【全年齢版】  作者: 社菘
最終章:名前のない皇后

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 ――バルどの腕の中で眠りについた夜、昔の夢を見た。


「アーノルト家の混血が王宮医師として就職するらしいぞ」

「噂では純血より強力な治癒能力を持っているんだとか」

「全く、神聖な王宮に混血の者を配属するなんて、バルド皇帝もまだまだ青いな」


 前皇帝と皇后が逝去してから、純白竜の息子が18歳にして皇帝の座についたという大ニュースは帝国中に知れ渡っていた。そして、その皇帝を支える侍従として混血の平民を従えているという噂や、帝国内では迫害されがちな混血の者でも能力があれば積極的に採用している変な皇帝と言われているのもエリアスの耳には入っていた。


 そして、王宮医師として試験を合格した自分が王宮に出入りすることをよく思っていない純血の者がいることも、陰で混血の悪口を言われていることも、エリアスは知っている。


 新しい皇帝が即位してから帝国の在り方に変化の風が吹いている印象があるが、まだまだ純血主義という考え方が根深い歴史がそうそう変わるわけでもない。


 ただ、王宮に勤めるという人生最大のチャンスを逃すわけにはいかない。これからエリアスはひっそりと王宮医師として過ごし、自分にできることを精一杯やっていくつもりだった。


「うわっ、すみませ……!」


 薬草やハーブを育てている庭園からの帰り道、急いでいたエリアスは角から出てきた人物と思い切りぶつかった。持っていた医学書や摘んできた薬草がバラバラと床に散らばり、ぶつかった相手も「すまない」と言いながら拾うのを手伝ってくれる。


 自分の不注意だったと謝罪しようとしたエリアスが顔を上げると、まるで太陽を宿しているような緋色の瞳がエリアスを見つめていて、文字通り時が止まってしまった。


「――名は?」

「え?」

「お前の名は何という?」

「あっ! え、エリアス・アーノルトと申します、皇帝陛下」


 エリアスがぶつかった相手は皇帝のバルドだったのだ。ぶつかった挙句に物を拾わせたと知られれば『皇帝を馬鹿にしている卑しい混血』だという噂が瞬く間に広まるだろう。


 いくらバルドが混血種を何人も王宮に招き入れているといっても、よそ見をしていて皇帝にぶつかってしまうなど前代未聞。彼の機嫌が悪ければ、最悪処刑されかねない出来事である。


「エリアス……王宮医師として配属された、稀代の治癒能力の持ち主か」

「わ、私のことをご存知なのですか……?」

「配属させたのは俺だから、知らないわけがない。そうか……貴殿の活躍には期待している」


 そう言って微笑んだバルドに、エリアスは胸を射抜かれた。心臓が早鐘のように脈打ち、頬が紅潮するのが分かる。


 エリアスは今まで、混血というだけで人を判断しないでほしいと常々思っていた。それなのに、皇帝であるバルドは変わり者なだけでどうせ純血主義の冷徹な人物なのだろうと勝手に想像していたのだが、彼の微笑み一つでエリアスの世界が変わってしまったのだ。


「また会おう、エリアス。きっと……再び会う運命だ、俺たちは」


 そんな意味深な言葉を言い残し、バルドと別れてから数週間後。バルドのほうから求婚され、エリアスたちは再び顔を合わせることになった。


 一目惚れで初恋の相手と結婚することになり、人生で初めて最大の幸せを感じていた。


 ――ずっとバルドの側にいたい、バルドに愛されて、愛したい。


 そんな気持ちを一度は忘れてしまったけれど、バルドがエリアスのことを諦めないでいてくれたので、再び誰かを愛おしいと思う心を思い出せた。


 そして、誰かに愛されるという喜びを二度も味わうことができたのだ。


「ん……どうした、エリアス……眠れないのか?」

「昔の夢を見て起きちゃっただけ」

「昔の夢?」


 エリアスが見ていた夢はいやにリアルだったので時間が巻き戻ったのかと感じたが、目が覚めると二回目の結婚式を終えた日の夜だった。エリアスはバルドに激しく抱かれ、これでもかというほど中に子種を注がれてくったりしている体には重みを感じるので、夢の中から現実に引き戻された。


「バルドと出会った時の夢」

「……どちらの?」

「どっちがいい?」

「できれば一度目の出会いでお願いしたいところだな」

「どうして? 俺を殺そうとしたから?」

「……それはもう言ってくれるな」

「ふふっ」

「こら、からかうんじゃない」


 エリアスがくすくす笑っていると、バルドがムッとしながら顔中にキスの雨を降らせた。バルドの唇の感触がただただくすぐったくてエリアスが声を上げて笑っていると、ふと唇が塞がれる。


 エリアスの呼吸さえも奪ってしまうような深い口付けをされ、バルドの唇が離れていくとエリアスは甘い吐息を漏らした。


「俺のこと、好き?」


 バルドの頬を撫でながらそう聞くと、驚いたようにバルドは目を見開く。だがすぐに目を細め「好き、なんて言葉で済むものか」と答えた。


「俺が誰かを愛おしいと思う気持ちは、お前だけのものだ。シャロンを愛しているのとエリアスを愛している気持ちは別物で、お前に対してのこの気持ちは今後も一生、お前以外には抱かない。愛してる……エリアス・ストックデイル・アルバディア。俺の皇后」


 エリアスが欲しい言葉の正解をバルドはいつも伝えてくれる。


 バルドは昔から愛情表現は惜しみなくするタイプだったけれど、今の彼は少し違う。エリアスを思いやって、エリアスの気持ちも尊重した言葉を口にしてくれている気がするのだ。


 そんなちょっとした変化が嬉しいなと思えるので、昔の記憶が戻ってよかったと心の底から安堵する。辛いことや悲しいこともあったけれど、失くしていいと思える記憶は一つだってなかったのだから。


「俺も一生、愛してる。バルド……俺にはバルドしかいらない」


 愛を見つけた番の竜は、アルバディア帝国の長い歴史の中で最も偉大な皇帝と皇后と名を残し、幸せの象徴である神竜の番として祀られている。




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