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【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る− 【全年齢版】  作者: 社菘
第1章:迷子の竜

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 エリアスの首を掴みながらベッドに押させつけている彼の顔にはどんどん鱗が出現し、竜に変異しようとしていた。


「ととさま、かかさまのこといじめちゃダメーっ!」


 シャロンが叫びながら、竜の鱗に覆われつつある太い腕にしがみつく。男はエリアスからシャロンに視線を移し、眉間に深く皺を刻んだ。


「……誰の子だ」

「俺の子ですっ! お願いですからその子には手を出さないでください!」

「父親は誰だ」

「知らない、分かりません! 俺が一人で産んで育てた、命よりも大事な息子なんです……っ」

「知らない? 言えない、の間違いだろ。そうか、全て分かった……お前は子供(ソレ)を隠すために俺から逃げたのか」

「だから、なんの話か分かりません!」


 このままではシャロンが危ない――


 エリアスの首を押さえつけている腕をどうにか外そうともがいたが、少し力を加えられるだけで息が止まりそうなほど圧迫された。


「お願い、お願いだから……シャロンだけは傷つけないでくれ……!」

「……シャロン?」


 手の力が緩んだ隙にエリアスは男の手から逃れ、しがみついていたシャロンを引き剥がして部屋の端に避難した。背中にシャロンを隠して腕を広げ、ベッドの上から鋭く二人を見つめている男をエリアスはキッと睨みつけた。


「あんたが誰なのかは知らないが、助けてもらっておいてその態度はないんじゃないか」

「……」

「河岸に倒れていたと聞いた。大量に出血をしていて、俺の治癒能力でも止められなかったんだ。それをこの子……シャロンの力をもらって傷を塞いだ。何があったのか知ったこっちゃないけど、息子に危害を加えるつもりなら今すぐ村から出ていってくれ!」


 エリアスは精一杯声を振り絞ったが、体は全身震えている。初めて自分に向けられる殺意や脅威が肌に突き刺さり、びりびりと痺れる感覚が痛い。


 それでも自分には守るべきものがあるからと必死に盾になり、目の前の狂った竜人に『出ていけ』と叫んでみたが、その彼はベッドの上で膝をついたまま気絶したかのように動かなかった。


「あ、あの……薬だけは持っていっていいので、出ていってください。あなたを助けてくれた村長たちには俺から説明しておきますから……とにかく、このままあなたをここに置くわけにはいきません」


 呆けているようにも見える彼にエリアスの意思をしっかり伝えると、ベッドからゆらりと動き出す。ひたりと床に足をつき、部屋の端で小さくなって震えるエリアスとその背中に隠れるシャロンの前に立ちはだかった。


「〈真実を教えろ〉」

「へ、ぁ……っ」


 ずっしりと重みのある声で放たれたコマンドに、エリアスは上から押しつぶされるかと思った。あまりに色んなことが起こりすぎて忘れていたが、見知らぬ彼はアルファとしてのオーラを放っているのに加え、エリアスと同じく第三の性を持つDomなのだ。


 こいつのコマンドを受け入れてはいけないと頭では思いつつ、体の奥底から這い上がってくる『欲』がエリアスを支配する。


 逆らえないという感情と、もっと命令してほしいという感情がひしめき合って、頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱された。


「しんじつ、とは……」

「誰との子だ。ソレを隠すために逃げたのか」


 冷たい瞳がエリアスを見下ろす。男の威圧感に萎縮したエリアスは全身から力が抜けていくような感覚がしたが、シャロンを守るため、震えながらも男をキッと睨みつけた。


「……っ本当に分からない! 3年前にこの村の人に助けてもらったけど、それ以前の記憶がないんだ! 自分の名前すら覚えてないし、助けてもらった時はすでに妊娠した状態だった!」

「は、何を馬鹿げたことを……記憶がないだと? そんな話を信じられるか。自分の不貞を隠すために嘘をついているだけだろう」

「そんな、違う! 本当になにも覚えていないんだっ! 不貞なんて知らない!」

「コマンドを使っても嘘をつくのなら、これからどうなっても文句は言えまいな?」

「まっ、待って!」


 このままではサブドロップしてしまう。第三の性であるDomとSubのプレイやコマンドの実行は信頼関係があるからこそ幸福感を得られ、欲求が満たされる。でもそれを無理やり実行すると、サブドロップというパニック状態に陥るのだ。


 不安や緊張が高まりサブドロップに陥ったSubは、最悪の場合は死に至ることもあると言われている。


「ととさま、かかさまにおこっちゃメッ!」

「しゃ、シャロンっ!」


 エリアスの後ろから出てきたシャロンが、激昂している彼の腕にぴとりと手を添える。エリアスが慌てて引き剥がそうとしたが、それよりも前にシャロンの銀色の髪の毛をぐいっと掻き上げたその人は「……白銀で緑の瞳の竜か」と呟いた。


「む、息子がすみません! でもどうか命だけは――っ」

「……もういい。その代わり、しばらくここに滞在する」

「は!?」

「ヴラド」

「え!?」

「俺の名前だ。何があってこの村の河岸に流れ着いたのか覚えていない。記憶が混乱しているから、君をもう会えない俺の知り合いだと勘違いした。……怖がらせて申し訳ない、許してほしい」


 今までの威圧感が嘘だったかのようにスゥッとオーラが消え失せて、エリアスのほうにヴラドの腕が伸びてきてびくっと体を震わせた。


 ヴラドの手が一瞬止まったが、そのままエリアスの肩を優しくぽんっと叩く。先ほどまでの態度の変わりようにエリアスは驚きよりも疑いのほうが勝ってしまったが、シャロンがニコニコしながら「ととさま、えらいねぇ!」と言いながら腕に抱きついているので更に混乱した。


「迷惑をかけた詫びに、ここにいる間は何でもする。遠慮せず使ってくれ」

「いや、それは……」

「じゃあ、ととさまはシャロンとあそぶかかりね!」

「こら、シャロン!」

「何でも良い。俺が遊び相手として面白いかどうかはさておき」

「待ってください、勝手に話を進めな――」

「帰る場所がないんだ。上手く動けるようになるまでの間だけでいい」


 相手は目覚めたばかりの重症人で、いくら傷が治っていても体力が戻るまでは時間がかかるのは医師のエリアスには分かっている。


 何があったのか分からないのだと記憶を失っていることを示唆するヴラドに、昔の自分を重ねてしまった。


「……治るまでの間でいいのなら」

「ああ、構わない」

「ただし! 俺と息子には絶対に手出しをしないと約束を。先ほどみたいなことが今後もあるのなら、俺はあなたを今すぐ村から追い出します」

「君にも息子にも、村の住人にも手を出さないと約束しよう」


 上手く丸め込まれたような気がしないでもないが、エリアスは了承するしかなかった。




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