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エリアスとバルドの二回目の結婚式は王宮ではなく、帝都の大聖堂で行われた。
気持ちを新たに二人はアルバディア帝国の皇帝と皇后として国民の前に姿を現し、国民との距離が近い君主を目指すために大聖堂での結婚式を執り行うことを決めたのだ。
「カリーナ、本当にこの格好で大丈夫かな? 俺、裾を踏みそうなんだけど」
「大丈夫です! とってもお美しいです、皇后陛下」
裾を引きずるほど長い純白の衣装に身を包み、薄くキラキラと光っているベールを頭から被っているエリアスは、これからバージンロードを歩く際に裾を踏んで転けてしまわないか心配していた。
「かかさま、きれいだねぇ!」
「本当? ありがとう、シャロン」
「あのね、シャロンね、ととさまと一緒にあるくんだよ! お約束したの」
「シャロン、また後でかかさまとも会おうね」
「うん!」
アルバディア帝国では新郎新婦は別々の扉から入場し、バルドは純白のバージンロードを、エリアスは金色のバージンロードを歩き、二人が合流して神官の元までは白銀のバージンロードとなっている。
今回はシャロンを迎えての結婚式なので、シャロンはバルドと共に純白のバージンロードを歩くのだと前日から張り切っていた。
そして今回はエリアスの実家であるアーノルト家も参列してくれて、久しぶりに親子の再会を果たして幸せを感じた。今まであった出来事を両親に話すとシャロンのことも受け入れてくれたので、これからきっと良い交流が続いていくだろう。
「――皇帝陛下、皇后陛下、そして第一皇子のご入場です」
扉が開くと、反対側からバルドと手を繋いだシャロンが歩いてくる。中央で合流をするとバルドがエリアスを抱き寄せて額に口付け、シャロンを真ん中にして三人で神官の元へと歩いて行った。
「……やはりお前は綺麗だ、エリアス」
「褒めても何も出ないけど?」
「酷いな。今夜、お前の時間くらいはほしいものだ」
「……それくらいでいいのなら、いつでも」
神官の前まで来ると、シャロンをカリーナたちに預ける。バルドとエリアスが神官の前に二人で立ち、愛の誓いを行うのだ。
「アルバディア帝国の皇帝として皇后を慈しみ、バルド・ストックデイル・アルバディアとしてエリアス・ストックデイル・アルバディアを生涯愛すると誓います」
バルドが誓いの言葉を口にしてから、顔にかかっていたベールをそっと外してエリアスの肩に優しく触れた。隻眼になってしまったが緋色の瞳は慈愛に満ちていて、大聖堂のステンドグラスに反射する光がバルドの瞳に反射してキラキラと光っている。
「誓いの口付けを」
神官の重厚な声が響くと同時に、バルドの顔が近づいてくる。エリアスがきゅっと目を瞑ると、そっと触れた唇からは愛が伝わってきた。
「……愛してる、エリアス。死ぬまで俺と一緒にいてくれ」
「俺も愛してる、バルド……もう離れないって約束する」
涙が滲むエリアスの目尻にバルドは口付けて雫を掬い、二人は多くの国民に見守られながら本物の家族へと関係を変えた。
「――皇后陛下!」
結婚式を終えた後、エリアスはたくさんの民衆に囲まれた。花束を手渡されたり小さな子供から手紙を渡されたり、予想外の出来事にエリアスは目を丸くした。
「皇后陛下のおかげで、居場所ができました」
「え?」
「ヴェルデシア村に移住することにしたんです! 俺にもちゃんと居場所があるんだと思えて……そう決断できたのは皇后陛下のおかげです!」
「あのね、私のパパは皇后陛下のお薬のおかげで怪我が治ったの! 本当にありがとう、皇后陛下!」
「物資や薬をたくさん配給してくださり、医者も各地に配置していただけて本当に助かってます……!」
「抑制剤は高価なものなので今まで手が出せませんでしたが、皇后陛下のおかげで十分な配給がありました。それに、抑制剤になる薬草の栽培の方法も教えていただき……皇后陛下は本当に命の恩人です」
エリアスが皇后の名で支援をしたり寄付を行っていた帝国各地から、二人の結婚を祝福しようと帝都に人が押し寄せてきたらしい。たくさんの民衆がエリアスに礼を述べたかと思えば、全員が一斉に膝をついて頭を下げた。
「我らが皇后陛下に、未来永劫の忠誠と愛を誓います」
エリアスの両手はたくさんの贈り物を持っていて涙が拭えない。ボロボロと溢れ出る涙はとめどなく流れていき、震えるエリアスの肩をバルドが抱き寄せた。
エリアスはぐすっと鼻を啜りながら、ぼやける視界を拭うこともできずバルドの胸元に顔を埋める。感極まっているエリアスの頭を優しく撫でるバルドもこの光景を目に焼き付けるように見渡し、アルバディア帝国を今よりもっと美しい国にしていくことを胸に誓った。
そして、その夢を実現するにはバルドとエリアスが必要で、どちらも欠けてはならない存在なのだ。
「お前はもう“名前のない皇后”ではないな、エリアス。アルバディア帝国初の、歴史に残る混血の皇后だ」
国に、国民に、歴史に認められるには実際もっと長い時間がかかるだろう。ただそれでも、エリアスにとっては長年夢に見てきた光景で、やっと最初の一歩を踏み出せた瞬間だった。




