3
エリアスが不思議な夢を見てから数日後、バルドと共にエリアスは街外れの花屋付近を訪れていた。
「あの花屋がエリアス様が密かに通われていた場所になります」
「うーん……見覚えはないし、何も思い出せない」
エリアスの夢を頼りに、実際にその場所に足を運んでみようという話になったのだ。エリアスとバルドの他に、シャロンとアレクシス、そしてカリーナも同行してあの日のエリアスの足取りを全員で辿った。
「森に入ったとなると、この方向に馬車を進めた可能性がありますね」
「この方向はネレイシアとの国境に近い。村の位置を考えても、その可能性は高いな」
街外れにある花屋の方向から考え、一同は馬車を森に向けて進めた。馬車の中から帝都の街並みや花屋を見ていたエリアスだが、夢で見た光景と酷似していて内心驚きを隠せずにいた。
「夢と同じ気がする……」
「自分の記憶としてはどうだ?」
「記憶としては、あんまり見覚えはないかも」
「そうか。何かの拍子に思い出すかもしれないから、気をしっかりな」
「うん、分かった」
漠然とした不安を抱き、エリアスは顔が強張る。そんなエリアスを知ってか知らずか、シャロンが足元にぎゅっとしがみついてきた。
「かかさま、シャロンがいるからだいじょうぶだよ!」
「ありがとう、シャロン。ぎゅってしててくれる?」
「いいよ!」
エリアスたちを乗せた馬車はどんどん森の中へ入っていき、あるポイントを通り過ぎた時に「ちょっと停めて!」とエリアスは声を上げた。
「どうした?」
「ここら辺で馬車を停めた気がする」
昼間だが森の中は薄暗く、馬車から出たエリアスはある木の元まで駆け寄った。一見なんの変哲もない木に見えるが、その幹には十字の傷が深く刻まれていたのだ。
「この木を見かけて馬車を停めた。それで、この脇道を歩いて……」
エリアスたちの後ろからついてきていたアレクシスとカリーナも馬車を降り、小道を進んでいくエリアスたちに続いて歩みを進める。シャロンはバルドに抱かれたまま森の中をきょろきょろと興味深そうに見回している中、エリアスだけは何か確信でもあるかのように前に進んだ。
「……崖だ」
小道を抜けた先にはエリアスが見た夢の通り、下には川が流れている崖が待ち受けていた。
「一応この周辺に証拠がないか確認しながら歩いてみましたが、目ぼしいものはありませんでした」
「だが、エリアスの夢が偶然とは思えない。この崖から落ちたと見るのが正しいだろうな」
「こんな高いところから落ちたのに、指輪の力だけで助かったのは奇跡じゃない?」
「そうだな……この高さから落ちたとしたら、水の中に落ちたとしても体への打撃や負担がすごかっただろう。そういえば、お前の体に傷跡はあるのか?」
「村長に聞いた話では、頭を打って出血がすごかったらしい。当時、村にいた凄腕の医師が処置をしてくれたって」
後頭部を触ると傷跡が分かるのだ。エリアスは怪我をしていた時は気を失っていたので全く覚えていないが、傷跡に触れると何となく鈍い痛みが走るような気がしている。
本当にこの高さから落ちたのなら命を失ってもおかしくない。今エリアスの指に輝いている皇后の指輪の効力は凄まじいのだなと、ある意味恐ろしいものだなと感じた。
「……一度、検証してみたいんだけど」
「検証?」
「落ちてみる」
「は……?」
「人数がちょうど揃ってるから、俺が三人を見上げながら落ちてみたら何か思い出すかも」
エリアスは良かれと思ってそう言ったのだが、一瞬でバルドの纏う雰囲気が変わった。まるでヴェルデシア村で初めて会った時にエリアスを殺しかけた時のような威圧感がエリアスを襲う。久しぶりに竜の鱗が出現し瞳孔を細めて怒っているバルドの姿を見て、エリアスの肌がびりっと痺れた。
「自分が何を言ったのか分かっているのか?」
「俺はただ、その時と同じ状況になってみたら何か思い出すかもと思っただけで……」
「お前が叩きつけられるのをただ見ておけと言うのか」
「そ、そうだね、確かに……!」
エリアスは当時のことを思い出したいがために提案したことだが、崖から落ちた後のことを考えていなかった。落ちた後はそのまま川に叩きつけられることになるので、バルドが怒るのも無理はない。エリアスが縮こまって謝罪をすると、バルドから優しく抱き寄せられた。
「……俺が助けに行く」
「え?」
「お前が落ちて三人の姿を確認した後、川に直撃する前に俺が助けに行く。だから安心してくれ」
「皇帝陛下!?」
「お前の言うように、やってみる価値はある。3年経ってやっと掴んだ手がかりだ……やれるだけやってみよう」
先ほどまで激怒していたバルドだが、すりっとエリアスの頭を撫でるバルドの指が後頭部の傷跡を掠めた。




