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「……この者は皇后エリアスと同じく第二性がオメガ、第三性がSubで一致している。うなじには結婚初夜に俺がつけた噛み跡、普段は服で見えない部分にあるホクロも確認済みだ。これ以上に確かな証拠を出せと?」
普段は服で見えない部分にあるホクロなんてエリアス自身も把握していないのだが、いつバルドに見られていたのかと驚いた。そして確かにエリアスは首元にうなじを噛まれないように防止するチョーカーをつけておらず、そこにはくっきりと噛み跡が残っている。これは番がいる証であり、それをつけたのはバルド自身だと本人が言っているのだ。
これ以上の確かな証拠はないと思うが、アベルはぎりっと奥歯を噛んで何かを考え込んでいた。
「……では、シャロン殿下が陛下の血を分けた子供だという確かな証拠はございますか?」
「もういいだろう、アベル。これ以上は押し問答だ」
「これだけはどうしても不思議でたまらないのです。混血種の黒竜である皇后陛下との間に、純白よりも高位種である白銀の子供が生まれるとは到底信じ難いことですので……」
ヴェルデシア村にいた時もエリアスやエイデンが度々気にしていたことだ。混血種であり、バルドの話では人間の血のほうが濃いというエリアスから白銀竜の子供が生まれるのは奇跡にも等しい。
エリアスでさえいまだに信じられないのだから、アベルだって信じられないのはもっともな理由だった。
「……誰か、シャロンを呼んできてくれないか」
バルドがそう言うと、アレクシスが慌ててシャロンを迎えに行った。そして眠たそうに目を擦っているシャロンを抱えたアレクシスが戻ってくると、バルドはその腕にシャロンを抱いた。
「起こしてすまないな、シャロン」
「んーん……ととさま、どうしたの? かかさまは何であそこにいるの?」
「少し難しい理由があるんだ。シャロン、ととさまの話が分かったら返事をしてくれるか?」
「うん……?」
きょとんとしているシャロンに、バルドはよく分からない言語を使って話しかける。エリアスにはそれが『言葉』として認識できないほど意味不明な言葉だったが、シャロンは笑いながら「明日はシャロンの大好きなお魚料理をつくってくれるの?」と嬉しそうに返事をした。
「シャロン、ととさまが今お話したことが全部分かったか?」
「うん! 明日の朝ごはんは、ととさまのお魚料理!」
「正解だ。ちゃんと理解できて偉かったな」
しっかり答えられたシャロンの頬にキスを贈るバルドは満足げに微笑んでいて、エリアスは何が何だか分からない状況に首を捻り、アベルは悔しそうな顔をして唇を噛み締めている。
そんなアベルを横目に見たバルドは「皇族の血筋、それも皇帝の器の者にしか古代語は受け継がれない」と言い放った。
「古代語……?」
「ああ。正確には古代竜語だな。皇族の中でも皇帝になるには条件がある。一つは純白竜であること、もう一つは古代竜語が受け継がれていること。この古代竜語というのは勉強する術がなく遺伝子として組み込まれていて、生まれながらに習得しているものだから見よう見まねではできまい」
バルドが言うには、古代竜語というものは色んな神事や儀式の際に用いられることが多いらしい。また、皇族に多い純白竜よりも最高位だという白銀竜は能力が高く、シャロンは3歳ながらに古代竜語を理解していることから『本物』であると証明できるのだ。
「で、ですが、皇后陛下が本当に出産なさったかどうかは、これでは証明できませんよね?」
これもアベルの言う通りではある。いくらエリアスがお腹を痛めて産んだ子供だと言い張っても、それを確認する術は今のところないのだ。
「シャロン。かかさまと力を合わせて、ととさまの怪我を治してくれないか?」
「うん、いいよ!」
「エリアス。俺の腹の傷を治してくれた時のように、シャロンの力を借りて治してみてくれ」
バルドが腕を差し出し、持っていた剣の切先で肌を傷つける。柔い肌からは血が溢れてきて、慌ててエリアスは傷口に手をかざした。そしてそんなエリアスの手に小さなシャロンの手が重なると、重症を負ったバルドがヴェルデシア村に運ばれてきた時と同じように緑と白銀の光が混ざって、ものの一瞬で傷口が塞がった。
「シャロン、今度はアベルと一緒にこの牢の鍵を壊してみてくれ。アベル、力を借りてもいいか」
「は、はい……」
真紅の竜は戦いの象徴といわれ、攻撃力が凄まじい。エリアスが閉じ込められている牢の鍵に向かってアベルが手をかざすと赤い光が放出されたが、シャロンが手を重ねても白銀の光は出てこなかった。
「これが答えだ、アベル。シャロンの力は母である皇后としか混ざらない。そして古代竜語を理解できる白銀竜は正真正銘、俺とエリアスの息子だ。お前は一定期間の謹慎と……その後の処分は追って決める」
バルドから一から十まで証明されたアベルは無言で俯いた。皇后を独断で牢屋に放り込み、シャロンを実の子供ではないと疑った罪は重いらしい。謹慎後の処分は第一皇妃の廃位を示すのか、アベルは力無くその場に座り込んだ。
「……行くぞ、エリアス。お前はそんなところにいる人間ではない」
牢屋の鍵がガシャンっと激しい音を立てて落下する。キィ、と古びた音と共に扉が開き、差し出されたバルドの手をエリアスは強く握った。




