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ヴラドとプレイをして数日後、エリアスは意を決してエイデンにその事実を伝えた。
「エリアスが納得してることなら口出ししたくはないけど……本当に脅されてるとか、そういうことではないのか?」
エイデンの心配はもっともだ。彼をこれ以上心配させたくないがほとんど脅迫にも近かったヴラドの言葉や態度を思い出すと、エリアスは『自分の意志です』とは言えないなと苦い顔をする。
ただ、ヴラドがこの村に滞在している間はどうせ監視されるのだろうし、窮屈な思いをするのならいっそのことパートナーになったほうが安全かと考えたのだ。
「シャロンを人質に取られているとか?」
「それはない。近づかないでほしくてもシャロンのほうから行っちゃうし……あの人、子供好きなのかも。シャロンには何も言わないというか、俺を脅す盾にはしてない気がする」
「そうか……それなら、まぁ……。でもあの人、見るからに白竜だろ? 皇族じゃなくても帝国の貴族っぽいし、一緒にいて本当に大丈夫なのか?」
ヴラドがいくら隠しても髪の色は誤魔化せない。大体の人が髪の色と同じものなので、村の住人もヴラドが白竜なのは察しているだろう。
ただ、この村には帝国の貴族だった者も住んでいたことがあるような村。いわゆる島流しに近い。一族の汚点だと言われるような者たちがこの村に集い、それなりに生きて、天寿を全うする。
ヴラドがこの村から帰りたがらないということはそれなりに何か事情があるのかもしれない、と村長のアイオンも滞在を容認しているのだ。ただ、ヴラドが妙な動きをすればもちろん村から追放か、最悪命を奪うことにもなりえる。
監視という意味でも、エリアスがヴラドの近い存在になっておく必要があるのだ。
「あんまり心配しないでも大丈夫だよ。それより、エイデンには自分の幸せも考えて欲しくて……もともと俺が無理にパートナーを引き受けてもらっちゃったからさ。何年も縛りつけちゃったし、恋人を作ってみたりするのはどうかなと思って」
「……そんなにすぐすぐ、気持ちの切り替えができたら苦労しねぇよ」
「え?」
「いや、何でもない」
エイデンは村の住人からも人気の好青年で、狙っている人は多いだろう。エリアスの事情に巻き込んでしまっていたのでいまだに独身だが、彼もそろそろいい年齢だ。結婚を考えるような年だろうと老婆心が今更働いたのである。
「何か困ったことがあればいつでも頼ってくれ。俺はエリアスの味方だから」
「うん、ありがとう。その言葉で十分嬉しいよ」
パートナーの解消を申し出るのは正直気が進まなかったが、いざ話してみるとエイデンがきちんと受け止めてくれたのでほっと胸を撫で下ろす。エイデンのために紅茶を淹れたが口をつけずに帰ったのでカップを洗おうと診療所の簡易キッチンへ足を運んだエリアスは、裏口の外に立っている人物の気配を感じてドアを開けた。
「盗み聞きですか」
「そうではなく、空気を読んで入らなかったと褒めて欲しいところだな」
「そうですか、それはどうも」
「なんだ、怒ってるのか?」
使ったカップを洗っているエリアスの背中にずしっとした重みが乗っかって、後ろから伸びてきた腕がエリアスの腕を掴んで水に濡れる。耳元で低く囁かれると条件反射のようにぶるりと体が震え、思わず小さな声を漏らした。
「あいつと別れさせたからご立腹なのか、お前は」
「……そうじゃない。あんたの行動全てが意味不明で頭痛がするからだよ」
「俺の行動の意味なんて至って簡単で、分かりやすいだろう」
「は?」
「お前のために行動してる。それだけではない他の理由が必要か?」
片手はエリアスの腰を抱き、片手は水に濡れる腕に添えられている。エリアスの頭に口付けられている感触もあり、かぁっと体が熱くなるのを感じた。
「こ、こういうことをするのは、パートナーの行為には含まれていないと思う!」
精一杯絞り出した言葉だった。ヴラドはDomとして、エリアスはSubとしてプレイをするためのパートナーになることは了承したが、こういったいわゆる『恋人同士の触れ合い』のような行為はプレイの一環ではない。
エリアスがそう抗議すると、後ろから小さく舌打ちが聞こえた。




