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桃源の願い

本日3話目

 パチパチパチ


 拍手の音が戦場に響く


「本当に心底、感動いたしました!」


 全員が一斉に振り返る


 そこにいたのは、桃の枝を手にした手のひらほどの小さな妖精だった


 薄桃色の着物のような衣装に身を包み、桃の花が髪飾りのように頭に咲いている



挿絵(By みてみん)



 その愛らしい姿は、まるで桃源郷から舞い降りた春の化身のようで



「あ、あの...申し訳ございません」



 妖精が慌てたように深々とお辞儀をする



「本来でしたら、人知れず消えていくつもりでございました」


「消えていく?」



 俺が驚く



「はい...わたくしめは長い間、わたくしめなんぞはは消えた方が世の為だと思っておりました」



 妖精の表情が悲しそうに曇る



「ですが、皆様の美しい心のやり取りを、新たな道を進む決断をする皆様の勇姿を拝見させていただいて...こんなわたくしめにも何かできるのではと、思わず心を打たれてしまいましたの」



 妖精が俺を見上げる



「竜将様、でございますね。皆様を幸せにするとそうおっしゃいましたね」


「うん、確かに俺は皆を幸せにするといった」


「でしたら、わたくしめの願いもお聞きいただけるでしょうか」



 妖精が希望に満ちた目で俺を見つめる


「もしそうであるならば、何卒わたくしめも、皆様のお仲間に加えていただきたいのです」


「もちろん、呼び出したからには全力を尽くすよ、でも君は一体...」


「申し遅れました」



 妖精が桃の枝を胸に当てて自己紹介を始める



「わたくしめは桃源郷で生まれた、名もなき桃の花の精霊にございます」


「桃源郷...」



 アピサルが驚いたような声を上げる



「全ての世界に枝葉を伸ばす、神々の楽園ですね」


「はい、そこでわたくしめは神の実を管理する役目をおっておりました」



 妖精の声が重くなる



「神の実とは、死者をも蘇らせる奇跡の果実...わたくしめは愚かにも、それを人々に分け与えてしまったのです」


「素晴らしい事じゃないか」


「いいえ、わたくしめはどうしようもない愚か者でした」



 妖精の目に涙が浮かぶ



「神の実を与えた人間たちに、予想もしなかった副作用が現れたのです」


「副作用?」


「力を得すぎて道徳を失い暴君となる者、神の力を受け入れきれず不完全な復活を遂げる者...」



 妖精の声が震える



「わたくしめが救おうとした人々が、かえって不幸になってしまいました。わたくしめの傲慢が多くの死を生み出してしまったのです」


「それで罰を受けたのか?...」


「はい、世界に存在を消され、虚無の世界へと向かう途中で、ここに呼び出されました」



 妖精が顔を上げる



「わたくしめは世界に否定された存在。消えたほうが良い存在...ですが!今日、同じような境遇でありながらも新たな希望を見出した皆様を拝見して思ったのです!」



 その瞳に希望の光が宿る



「もしかしたら、皆様となら...本物の桃源郷を作れるかもしれない、と」


「本物の桃源郷?」


「はい、誰もが幸せに暮らせる理想の国を」



 妖精が桃の枝を大切そうに抱きしめる



「竜将様の『みんなを幸せにしたい』というお気持ち、ロード様の『自分には成せなかった夢』を委ねた思い、アピサル様の『愛を渇望する』願い...」



 妖精が一人ひとりを見つめる



「皆様それぞれが素晴らしい気持ちがこの場にあふれ、わたくしめの枝に神の実が実ったのです」



 妖精が枝になった桃の実を手に取る



「なんと純粋で、なんと清らかな実でしょうか...これだけ清らかな神の実を実らせる皆様の願いの先にはきっと、私の夢見る、全ての願いが叶う場所が、桃源郷があるはずなのです」



 妖精は神の実を抱きしめるように呪文を唱える――



「桃源郷召喚」



 ――その瞬間、世界が変わった





 神の実から放たれた薄桃色の光が空間全体を包み込む



 荒涼とした草原が、見る見るうちに美しい楽園へと変貌していく


 足元には柔らかな苔が敷き詰められ、色とりどりの花が咲き誇る


 桃の木、桜の木、梅の木が辺り一面に現れ、花びらが舞い踊る


 空気は甘い花の香りに満ち、そよ風が頬を優しく撫でていく


 小川のせせらぎが聞こえ、清らかな水が光を反射してキラキラと輝いている



「これが...桃源郷」



 俺が息を呑む


 戦いで傷ついた体から痛みが消えていく


 それどころか、体の奥底から力が湧き上がってくる



「あら、体が...」



 アピサルが驚いたような声を上げる


 傷ついた彼女の肌と鱗も、出会った時以上に艶がでてきれいになっている



「治癒魔法でも癒すのに時間がかかった傷が...完全に癒えています」



 マリエルが自分の翼を見つめる


 先ほどまでの戦闘の痕跡が跡形もなく消えている



「異形殺しの因果すらたやすく打ち払うか」



 ロードが笑いながら拳を振り上げる


 雷ので作っていた義足も、元の足に戻っている



「ピッピー!」



 ピー助が嬉しそうに宙を舞う


 小さな体が金色に輝き、まるで太陽の欠片のよう


 皆の顔に安らぎと希望の表情が浮かんでいる


 桃源郷の力が、心の傷までも癒しているかのようだった



「わたくしめの望みは全ての望みが叶う、桃源郷を超える桃源郷を作ること...この世界では皆様の望みが具現化されます...わたくしめの力で作れる桃源郷では完成には程遠く全てをかなえることはかないませんが。それでも皆様に記された不浄な因果を取り払い癒しを与えることは出来ます」



 妖精が神の実が無くなった枝を見つめる



「今はまだ不完全な桃源郷ですが、この先皆さまから溢れる純粋な想いがあれば、もっと大きな、もっと美しい楽園を...きっと」



 彼女の願いは自分の為と言いながら、誰かを助けるための願いだ


 誰かのために全力を尽くすその姿に俺は今日何度目になるかわからない強い感動を覚えた



(ピー助のときも危なかったけど、この子は人間に近くて感情移入しやすいからか、涙腺が決壊しそうだ)



 俺は涙をこらえながら言葉を紡ぐ



「君の過去も、願いも、全部分かった」



 妖精の前にしゃがみ込む



「君の名前は『モモ』だ。桃源郷の希望を込めて、そう名付けよう」





名前 モモ 桃源郷の精霊


基本ステータス

STR:F(非戦級)

VIT:F(非戦級)

AGI:F(非戦級)

INT:XSS(神話級)

DEX:F(非戦級)

LUK:XSS(神話級)


HP:1,000 MP:20,000

身長:15cm

年齢:不明

属性:自然・回復・癒し・禁忌


スキル

回復魔法: Lv9 - 治癒の神話級能力

生命力付与: Lv8 - 寿命延長の伝説級技術

自然魔法: Lv9 - 植物操作の神話級技術

動物会話: Lv9 - 生物意思疎通の神話級能力

天候操作: Lv6 - 局地気象制御の達人級技術

禁忌知識: Lv7 - 生死の理の理解

料理: Lv7 - 仙界美食の技術


特殊スキル

園芸: Lv8 - 桃源郷管理の伝説級技術

桃源郷召喚: Lv8 - 理想郷投影の伝説級能力

神実創造: Lv9 - 神の実生成の神話級能力

神実の恩恵: 潜在能力を神級まで一時引き上げ

桃源結界: 桃源郷の力で空間隔離

癒しの花びら: 範囲回復・精神浄化

自然との調和: 植物がある場所で魔力無限供給



「モモ...」


 妖精の体が仄かに光る


「美しいお名前をありがとうございます、竜将様」


「俺の事はリュウって呼んでくれて構わないよ」


「承りました、リュウ様」



 モモが深々とお辞儀をする



「これからは皆様と共に、本当の桃源郷作りに励ませていただきます」


「あぁ、一緒に頑張ろう」



 俺は改めて仲間たちを見渡す



「みんな、聞いてくれ」



 全員が俺に注目する



「モモの話を聞いて、俺の決意が固まった」



 俺は拳を握る



「俺たちはまだこの世界の事を何も知らない。だからどれだけ時間がかかるかはわからないけど、俺は必ず、みんなの願いを全て叶えて見せる...その為の国がないって言うなら、俺が作る」



 ロードが豪快に笑う



「グハハハ!何を今更...と言いたいところだが、配下に方向性を宣言するのは良い事であるな」



 アピサルが微笑む



「どこまでも旦那様をお支えいたしますわ」



 マリエルが翼を広げる



「主様のためなら、何でもします!」



 ヴァイオレットが短く



「ボス、ついていく」



 武王丸が刀を振る



「我ゃも大将と誉を築くんじゃゼ!!」



 オルトレーンが杖を突く



「ほっほっほ、さてさてどう転ぶかのぅ」



 キューレが照れながら



「まあ...アンタに付き合うって決めたしね」


「ワォン!」


「ピッピー!」



 ケルが吠えピー助が羽ばたき、そしてモモが桃の枝を掲げる



「わたくしめごときが皆様の様な方々と肩を並べるのは恐縮ですが、皆様と共になら、きっと...」



 俺は空を見上げる



「よし、これで決まりだ!この世界で、俺は皆を輝かせて、皆の夢をかなえて、皆に認められる本当の主人公になって見せる!!」








###ヴェルディア王国




 その頃、草原から最も近い大国、ヴェルディア王国では...



「聖騎士団長殿!」



 宮廷魔術師が慌てて聖騎士団長――ガルバード・ヴォルフの元に駆け込む




挿絵(By みてみん)



「大変な事態です!」


「落ち着け、いったいどうしたというのだ」



 あわてる魔術師を、重厚で無骨な振るプレートアーマーに身を包み、身丈ほどもある両手剣を背負い、赤いマントをはためかせるヴォルフがなだめる



「先ほど、国境付近で観測された魔力反応ですが...」



 魔術師の顔が青ざめる



「測定不能の魔力量を感知しました!」



 その言葉に、普段であればイケオジと表現されるヴォルフの眉間にしわが寄り、歴戦の戦士ですら震え上がらせる迫力がにじみ出る



「何を馬鹿な、つまり神話級の魔力を感知したとでも言いたいのか?」


「確かな情報です」


「魔道国か、聖皇国か、降神でも行ったのか?」


「わかりません、しかし測定不能の魔力は複数確認されました」


「有りえん!神話級魔力が複数だと!?魔王が降臨したのか!?」


「確かなことは言えませんが、間違いなく何らかの戦闘が行われた魔力波動です」


「我らの神からの神託は?」


「今、急ぎ確認中です。しかしこの魔力反応は戦闘をしたのち、パタリと消えました」


「神話級魔力が消えただと...そんなことがあり得るのか?神が降臨されたとしても、その残滓はしばらく残るだろう」



 魔術師が震え声で続ける



「神を超える何かが、現れたのやもしれません」



 ヴォルフの表情が厳しくなる



「不敬な。我が神は絶対、超えるものなど存在せん。しかし、脅威に備えるのも私の務め...急ぎ国中の英傑たちを集める」


「はい!では『七つ星勇者』の召集を?」


「傭兵崩れなど当てに出来ん」



 ヴォルフが窓の外を見つめる



「『十二聖騎士団』の総動員だ。国境線で戦ってる者もすべて含めて緊急招集をしろ。何者の陰謀であろうが、我らの敵であれば切り伏せる」


「はっ!」



 魔術師が慌てて駆け出していく


 ヴォルフが一人つぶやく



「神よ...新たな試練を乗り越え、貴方様に捧げて見せましょう...」



 ヴォルフの目は不思議な程光り輝いていた





挿絵(By みてみん)




ここまででPROLOGUEが終わります

お付き合いいただきありがとうございました


明日からの王国編は正午の毎日投稿となります

感想が活力になりますので、何卒宜しくお願い致します。

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