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深淵女王降臨

本日3話目

 最初にひび割れが走ったのは、最も大きな虹色の卵だった



 パキッ、パキパキッ…



 亀裂は蜘蛛の巣のように広がり、やがて卵の表面全体を覆い尽くし――



 ドロリ…



 ――卵の隙間から、まるで液体のような漆黒の何かが溢れ出してきた



「なんだ、これ…?」



 それは闇とも違う、深淵とでも呼ぶべき絶対的な黒


 光を吸い込み、音を殺し、存在そのものを無に帰すような恐ろしい黒が草原に広がっていく


 足元まで達した深淵は、しかし俺を飲み込むことはなかったが、代わりに世界を侵食し、何もかもが書き換わり始める


 青い空が漆黒に染まり、緑の草原が黒い大地へと変わっていく

 

 まるで創世神話を逆再生しているかのように、光ある世界が闇の世界へと塗り替えられていく



「俺は一体何を召喚してしまったんだ...」



 脳裏に浮かぶのは、己の力量を超えた悪魔を召喚し、食べられてしまう愚か者の物語


 不安に飲まれそうになる俺の目の前で、最も深淵が濃い場所から何かが這い出してきた


 最初に見えたのは、艶やかな黒髪


 まるで夜空そのものを編み上げたような美しい髪が、重力を無視するようにゆらめいている。



 次に現れたのは、白磁のような肌と赤く輝く目


 月光よりも美しく、雪よりも純白な肌と、雪原に埋め込まれたルビーのように輝く瞳が闇の中で淡く光を放っている。



 そして――



「...大きい」



 現れたのは女性の上半身だった。


 しかし、その大きさは人間の常識を遥かに超えていた


 上半身だけで10メートル近く、首をほぼ垂直に傾けなければならないほどのサイズ


 圧倒的な存在感

 

 そのあまりの迫力に、俺は思わず息を呑んだ



 そして――



「...大きい」



 圧倒的サイズの上半身には


 圧倒的サイズのモノが付いていた


 下から見上げてもわかる程の圧倒的サイズ


 183cmの俺が埋もれることも、横たわることも余裕だと確信できる、キングサイズのベッドを思わせる双房


 それが初日の出のように闇から現れた瞬間は、生涯忘れることの無い景色であると断言できる



(いかん、何を考えているんだ)



 邪念を振り払い、改めて現れる存在を注視する


 やがて現れたのは腰から下


 それは人間ではなく、巨大な蛇の下半身だった


 艶やかな鱗に覆われた蛇身は上半身の倍はあり、深淵を這うように動いている


 ぱっと見ただけで30mは超えるであろう圧倒的な存在が、あたりを見渡している



(これはすごい存在を引き当てた気がする)



 俺のステータス画面に情報が追加される



挿絵(By みてみん)


 名前 無し(深淵女王)


 基本ステータス

 STR:XXX(創成級)

 VIT:XXS(神話級)

 AGI:XXS(神話級)

 INT:XXX(創成級)

 DEX:XXS(神話級)

 LUK:SSS(英雄級)


 HP:50,000 MP:30,000

 身長:全長33m

 年齢:不明

 属性:闇・毒・魅惑

 保有スキル

 スキル

 深淵魔法: MAX - 虚無と絶望の概念操作

 魅惑術: MAX - 精神支配の概念体現 複数対象同時洗脳可

 毒魔法: Lv10 - 毒創造・無効化、概念毒

 政治学: Lv8 - 大陸規模統治の伝説級手腕

 料理: Lv2 - 不快感の少ない料理

 特殊スキル

 飛行: Lv8 - 飛行時、重力、空気抵抗を無効化する

 変身術: Lv7 - 魔力消費大幅軽減

 再生: Lv6 - 自然回復 欠損回復可能

 深淵の瞳: 見つめた対象に錯乱付与

 蛇腹攻撃: 下半身攻撃時、斬撃ダメージ9割軽減

 毒鱗: 接触者に毒付与

 女王の威圧: 自己領域内の敵全体ステータス1段階減少



(ステータスえぐっ!)



 あまりのステータスに衝撃を受け動揺したからか


 目の前の存在が俺に気が付き、見下ろしてきた


 そして――目が合った

 

 深い赤の瞳


 キリっとしたアイラインが性格のきつさを表しているようだが、ぷっくりとした唇に、左目の下と口の下にある二つの黒子が女性の柔らかさを示している


 可愛いと美しい、色気と艶を全て内包した神話的美がそこにあった



「貴方がわらわを呼んだのね」



 どんなオペラ歌手でも出すことができないであろうα派を内包した癒しと、どんなスター女優でも出すことができないであろう色気が混在した


 魔性の音色に頭がおかしくなりそうになりながらもなんとか返事をする



「は、はい!」


「何故?」


「え。何故って、それは...その、スキルの効果で...」


「...そう。よくわかってないのね…それなら」



 美が笑った


 その微笑みと共に、俺の脳内に甘い痺れが走る。


 アルコールを摂取しすぎて、全ての感覚が鈍る時に似てる


 とにかく目の前の存在がいとおしくてたまらない


 彼女の為なら何でもしたい、彼女を我が物にしたい


 突然暴走する精神に、わずかに残った理性がブレーキをかける



(なんで、急にこんな...そうか!)



 魅惑術: MAX - 精神支配の概念体現 複数対象同時洗脳可



 彼女のステータスにあった文字が思い出される



(やっぱり身の丈に合わない召喚は反抗されるのか!?)



 混乱しながらも、そんなことすらどうでもいいと思えるほど脳がクラクラしてくる



 (耐えろ、ここで理性を失ったら俺の第二の人生はここで終わる!)



 芸能界で数え切れないほどのアイドルや女優と仕事をしてきた。


 美しさを武器にする女性たちが、他者よりも自分を輝かせてほしいと強請る誘惑に幾度となく打ち勝ってきた。


 男性アイドルと仕事をしようものなら、そのファンが少しでもつながりを得ようと、俺みたいな末端に身体を差し出そうとしてくることもざらだった。


 でも一度誘惑に負けたが最後、どんどんドツボにはまり、いずれ露見し業界から干されるのだ



(緊張で震えるアイドルを励ましたら「口説いてる」と勘違いされ、どう見ても堅気に見えない人たちに詰め寄られた絶望を思い出せ!)



「人間に抵抗されてるなんて、どうやら本来の力が発揮できていないようね..大丈夫、全てを委ねなさい。貴方をわらわの愛で包んであげるわ」



 圧倒的美声が、再び俺を惑わしてくるが、良かれと思った行動で上げ足を取られ、数々の仕事を失ったあの日から



「俺にとって女の色香は敵だぁぁぁぁぁ」



 俺は雄たけびと共に自分で自分の顔を全力で殴る



(いてぇ!?)



 この世界に着て、少し調子のよくなった身体から繰り出されるパンチは想像以上の力で

 口の中が血だらけになったのを感じる



「はぁ…はぁ…」


「あらあら、我慢は毒よ?」



 息を荒くしながらも、何とか術から逃れた俺



(ってか、いくら緊急時とはいえ、顔殴るなんて役者失格だろ)



 しかし脳内は相変わらずのパニックなのか、どうでもいい事に思考が回る



(こんなんだからいつまでたっても俺は主役にはなれなかったんだ――)



 そして、ふと気づく。



(あぁ、そうか...最初からおかしかったんだ)



 彼女の美しさ、その圧倒的な存在感、神々しいまでの威厳


 どう見ても、小さく弱い自分よりも遥かに格上の存在



(まるで大スターがエキストラで、無名のド素人が主演を張るようなミスキャスティングじゃないか)



 俳優として数々の現場を見てきた


 そして度々、エンタメよりビジネスを優先したときに起きる配役の不自然さ、バランスの悪さに出会うことがある


 そんな作品は決まって――



(特定コアファンしか見ない駄作になるんだ...)



 死ぬ直前だって、そんな現場を見てきた


 その現実に嫌気がさしていながらも、食っていくためには受け入れるしかなかった



(まさか、俺も駄作への道を進もうとしていたなんて)



 権力を持つと人間は変わるというが、まさしくその通り


 俺だけは違うなんてこと起きるはずもなかった



(主役ってのは...配役を当てられたら主役になるんじゃない)



 彼女は俺に反旗を翻したのは当然だった



(スタッフに、観客に主役と認められて初めて本当の主役になれるんだ)



 だって彼女は、完璧だから


 主役として必要な要素は全て持っているから


 それに引き換え



(俺は何も変わってない...多少身体が動くようになったとしても所詮は全てCランクの一般人。なのに、なぜ主役になれたなんてうぬぼれたんだ?)



 思わず失笑が零れ落ちる


 自責の念に駆られた俺は、こちらを興味深そうに見ていた深淵の女王を見上げて言った



「君が望むなら…開放してもいい」



 女王の美しい眉がわずかに動く。



「あら?それはなぜ?わらわは必要ない?」



 再び魅惑の術を掛けられてるのかと錯覚するほどの甘い衝撃に耐えながら


 懸命に目を見つめ、言葉を紡ぐ



「違う、そうじゃない、君は未来を自由に選択するに足るだけの、魅力あふれる人だから」


「え?」



 それは俺が心の底から欲した要素



「偽物のアイドルと本物のスターを見てきたから分かる。君は本物だ。圧倒的なスターだ」



 俺があこがれた夢の存在そのもの



「俺なんかの下にいるべきじゃない」



 凡人の俺は、見ることすら許されぬ頂



「だから、君は君の好きに生きていい」


「わらわを開放したら、こんなまどろっこしいことをせずに貴方を殺すかもしれなくてよ?」


「それが君の選択なら、俺はそれを尊重する。でも、きっと君は...」



 彼女に送るのはどんな言葉がふさわしいか、必死に頭を回転させる



「これだけ魅力あふれながらも、俺と話すときにしっかりと目を見てくれる君は、とても心優しくて、愛に満ち溢れた人だと思うから...だからそんなことにはならないと思う」



 その言葉を聞いた瞬間、女王の瞳が動いた


 そして、今までの誰かを魅了しようとする笑みではなく、純粋という名がふさわしい笑顔が、作り物ではない、生まれ持った真の美しさがそこにあった


 やっぱり彼女は完璧だ



「言われ慣れてるかもしれないけど…」



 俺は素直に思ったことを口にする



「君は術なんて使わなくても十分魅力的だ。俺の目には魅力の塊にしか映らない」



 その言葉に、女王の唇に今度は本当の微笑みが浮かんだ



「...ありがとう」



 自然体、そう感じられる声で彼女が言う



「いいわ、とりあえず主と認めてあげる」


「いいのか?」


「ええ、だってすぐにお別れじゃ悲しいでしょ?」


「あぁ、それは勿論――」



 俺の疑問の声は




 バリバリバリバリ――――!!!




 激しい稲光と共に響き渡った轟音によってかき消された


 激しい光に視界がやられ、轟音で耳がおかしくなる



「だって」



 そんな中でも彼女の声は自然と耳に届く



「あれから守らないと、あなた死んじゃうもの」



 その瞬間――



 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ



 天を裂くような


 激しい雷鳴にも似た雄たけびが響いた

今日はここまで

明日また3話アップです

ここまでの感想頂けたらとてもうれしいです

もし見た方いたら何卒リアクション頂けたら幸いです

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