異世界の目覚めと運命のガチャ
2話目です。1話が上がっております
さわさわと、頬をくすぐる感触
ひんやりとしながらもどこかチクチクした感触も覚えるそれには、身に覚えがある
アクションで散々顔を沈めた、自然の草の感触だ
(...あれ?...俺...生きてる?)
意識を失う前の感覚を思い出す
(俺、子供助けようとして、それで、車に、頭、飛ばされて...)
そう、確かに俺は――
「死んだはずだ!」
勢いよく体を起こすと、心地よい風が顔を撫でた
目を開くとそこは一面の緑
そこを目的地にして旅行に行かなければ、まずお目にかかれない程の雄大な自然に囲まれた草原だった
「あれ...ここどこ?確かに俺死んだはずで...ここが、まさかあの世?」
想像とは違う死後の世界に戸惑いながらもなんとか身体を起こす
「あれ?痛くない?」
日ごろのアクションで酷使しすぎて、立ち上がるときには必ずいたんだ腰が全く痛くなかった
「関節もポキポキ言わないし、やっぱり死後の世界ってことなのかな?」
身体が痛くないのは喜ばしいが、一面の草原にポツンと一人。いったい何をすればいいのかがわからない現状に途方に暮れる
「流石に転生するための扉を探しましょうとかじゃ...ないよなぁ。あ、まさかもう転生してたりして、まさか2,5次元舞台の世界じゃあるまいし...ステータス!なんて、ってうぉぉぉ!?」
散々関わった2.5次元舞台お決まりのセリフを言ってみたら、なんとびっくり仰天、目の前にゲームであるあるの半透明のウィンドウが浮かび上がってきた
「え?まじで?これ?え?夢じゃなくて?」
頬や耳をつねりながら現実かどうか確かめているとおぼろげにここに来る直前の記憶が浮かびあがる
「たしか、真っ白な空間で...誰かに...ダメだ、何も思い出せない...でもまさかこれ、ほんとに異世界転生ってやつなのかな...」
あり得ないという思考が脳内を埋め尽くすが、もしもこれが本当に異世界転生だとすると
「これ、まさか、俺、選ばれたのか...」
単独の異世界転生をするのなんて、そう、あり得ない、あり得ないんだ
「主役以外にあり得ないんだぁぁぁ!!!!」
どれだけ抓っても、頬も耳も痛いだけで、夢から覚める気配もない
俺はもしかしてもしかすると、本当に選ばれたのかもしれない、念願の主人公ってやつに
「ははは、マジかよ!マジかよぉぉぉ!!」
俺は全力で雄たけびを上げた
反響するものが何もない大空に、俺の声は溶けて消えていく
「あああああ!もう夢でも何でもいい!今この瞬間を楽しみ尽くさないとだめだ!」
異世界と言えば転生、転生と言えばチート
俺は有頂天でステータス画面を眺める
「さて、俺にはどんな才能が――」
竜将
HP:1,000 MP:1,000
STR:C
VIT:C
AGI:C
INT:C
DEX:C
LUK:C
属性:無
保有スキル
武芸基礎 Lv4
演技 Lv6
指導 Lv4
戦術知識 Lv3
特殊スキル
10連ガチャ:使い捨ての召喚能力
「なんだよこれ!?全部Cって何!?転生者って普通SとかSSSとかじゃないの!?」
Cと言えばどのゲームでも平均かそれ以下のステータス
「いや、まだわからない!」
俺はステータス画面のCの部分をタップしてみる
「実はFが一般的でCはそこそこ高いってことも――」
C:(一般級)
「――ないんかい!」
あまりに絶望的な表示が記されていた
更にステータスの一般級の部分をタップすると
XXX創世級
神すら超える超常の力。世界の法則を捻じ曲げる。
XXS神話級
世界に語り継がれる神や怪物の領域。常識外の超越存在。
XSS伝説級
人智を超えた存在だが、神とまではいかない。現実に起きる伝説。
SSS英雄級
世界に名を轟かせる英雄や魔王クラス。歴史を変える者。
SS王者級
国家レベルでの頂点。1国を統べる王、最強クラスの戦士。
S超人級
常人では勝てない圧倒的実力者。1人で軍隊に匹敵。
A強者級
エリート。国家のエースや精鋭部隊に属する力。
B熟練級
一定の経験と戦闘能力を持つ。上級兵士〜中堅冒険者。
C一般級
基礎訓練を終えた一般兵士レベル。
D新兵級
鍛え始めた新人レベル
E初心級
鍛えていない者。民間人以下の実力。
F非戦級
戦力価値・才能なし。
(長年鍛えた俺の体が一般的って...まぁでもこの世界がよくある剣と魔法の異世界で魔物と戦争する世界とかなら...)
魔物の居ない日本の江戸時代ですら普通の娘が米俵一俵担げたという。
もしもこの世界が江戸時代より過酷であるなら、仕事の為に1日数時間鍛えた程度の身体なんて大したことが無いに決まってる
(むしろ平和ボケした日本出身で、異世界の基礎訓練を終えた一般級になれたならそれは誇るべきこと...だよな...?)
日本基準で一般人とは何もトレーニングをしていない人間の事だが、異世界では基礎訓練を終えた人間を一般人というらしい
危険と隣り合わせの世界に来てしまったようだ
(ってことはLVも大したことないのかな)
Lv1: 実戦級
Lv2: 戦場級
Lv3: 熟練兵士級
Lv4: 上級兵士級
Lv5: 師範級
Lv6: 達人級
Lv7: 宗師級
Lv8: 伝説級
Lv9: 神話級
Lv10: 極限級
Lv MAX : 概念級
(んー、アクション俳優としては、そこそこ認められたって喜んでいいのかな…)
この世界での熟練やら上級の基準が分からいので何とも言えないが、プロとして活動してきたlvとしては悪くない気がする
(って言うか俺の名前が何で芸名の竜将なんだよ、俺の名前は...)
そこでふと気が付く――
(あれ、俺、名前が思い出せない...?)
――自分の記憶に欠損があることに
職業や、夢、自分がどんな人間であったかは事細かに思い出せる
しかし、その自分の名前が思い出せない
「...ま、いいか」
実名を思い出せなくても長年芸名で過ごしてきたからか、特に悲しい気もしない
むしろ芸名を思い出せない方が悲しいかもしれないまである
どのみち現状どうしようもない以上、考えても仕方ないと割り切る
(それより気になるのは...)
保有スキル
10連ガチャ:使い捨ての召喚能力
(使い捨てなのがネックだけど、右も左もわからない一般人が生き残るためには、召喚はありがたい!)
異世界の召喚と言えば頼りになるモフモフや、神話級のドラゴンなどが定番
(モフモフ召喚で癒しと戦力を確保!ついでに探知能力が優れてるおかげで素材や水場、人里なんかもサクサク見つかっちゃったりして!)
そして街につくなり、初めて見る存在に街中の人間が興奮しながら近寄ってくるに違いない
(まさしく主役!いや!もはやスターと言っても過言ではない!)
止まらぬ妄想に思わず弾み高鳴る胸
思わず握りしめた拳を天に突きつける
「よし!それじゃあやるとしますか!」
そして叫ぶのだ、己の魂を込めて
スポットライトを浴びた主役が放つキメ台詞のように
「じゅうぅぅぅれんっっ!ガチャアアアアアアアアアア!!」
叫んだ瞬間、足元に淡い光の線が走った
最初は細い一本の線だったそれは、まるで生き物のように這い回り、複雑な幾何学模様を描いていく
光の線は円を描き、その中に星型を、さらにその中に古代文字のような謎の記号を刻み込んでいく
直径3メートルほどの魔法陣が完成すると、淡かった光は急激に強さを増し、俺の影を長く地面に投げかける
「うわっ!」
魔法陣が突然拡大を始める
3メートルから5メートル、8メートル、そして遂に直径15メートルの巨大な魔法陣となった時、その外周に何かが浮かび上がってきた
「これは…卵?」
2個、3個、5個…最終的に10個
鈍い銅色に光る、人の頭ほどの大きさの卵が宙に浮いている。
「これが召喚!?」
とんでもない光景に声が裏返るが、しかし、それで終わりではなかった
シャラン
という鈴の音のような音色と共に、銅色の卵全てが地面にたたきつけられ、その衝撃で表面に亀裂が走る
そこから溢れ出した光に包まれる、卵は美しい銀色へと変化していた
これはまるでソシャゲであるあるのクラスアップ演出
再び、あの鈴の音が鳴る
シャランッ!
今度はさっきよりも甲高く、より衝撃的に卵がたたきつけられる
今度は10個の卵のうち、8個が眩い金色へと変化した。まるで太陽の欠片のように輝く黄金の卵たち。
「8個も金枠!?え?これ確率どうなってる感じ!?」
レアリティ上限も確率もわからないガチャの説明書を求めるもそんなものあるわけも無く
これは運がいいのか悪いのか、頭を悩ませていると、止まると思われた魔法陣が急に再稼働し、激しく発光しだす
「生まれるのか!?」
そして、三度、あの音が
シャラァァァンッッッ!!
今度は数段高く、情熱的な鈴の音
「まだランクアップするのか!?」
俺の驚きをよそに、金色の卵のうち2個がさらなる変化を見せ始めた。
虹色の光が螺旋を描きながら卵を包み込み、表面に七色の輝きを宿していく。
「虹色の卵...」
先ほどの金色とは違い、間違いなく、最高のレアリティだと確信できる色
それが2個
「これは間違いなくラッキーだよな!?」
リセマラなどない現実のガチャで初手から最高レアリティ2個引きが出来た感動に脳汁がとんでもないことになっていく
そして、そんな興奮する俺の目の前で卵はさらなる変化を遂げていく
ゴゴゴゴゴ…
地響きのような音と共に、虹色の卵がゆっくりと巨大化していくのだ
人の頭大から人の背丈、そして小屋ほどの大きさへ
「え...?」
気づけば俺は見上げるような姿勢になっていた
2個の虹色の卵は成長を止めることなく、高さ10メートルを優に超える大きさになる
魔法陣の光がさらに強くなり、草原全体を照らし出す
草の間に隠れていた鳥たちが一斉に飛び立ち、小動物たちが慌てて逃げ惑う
そんな中、俺だけが茫然と立ち尽くしていた
「これを...俺が召喚したのか」
技名を叫んだだけで起きてしまう超常現象
それは、刀を少し握るだけで、CGによる無数の斬撃が飛ぶ主役の斬撃よりも、現実味がなく
目の前で起きているはずなのに、どこか遠い物語を聞いているのかと思ってしまうほど雄大で
でも、だからこそ改めて確信する
「間違いない」
ドッドッドッドッ、と自分でもはっきりと感じ取れる鼓動の高鳴り
その鼓動に呼応するかのように10個の卵が脈動している
「主役だよな...俺」
俺のつぶやきに応えるように、最初のひび割れが走った
本日3話まで上がっております