桃源郷の秘密会議
1章スタートです
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第10話「桃源郷の秘密会議」
「さて早速だけど...」
俺が周囲の状況を確認しようと立ち上がった瞬間、オルトレーンの杖が俺の前を横切る
「先ほど感じたことなのじゃが...」
オルトレーンの表情が先ほどまでの穏やかさから一転、深刻な色を帯びる。その変化に、仲間たち全員の注意が集まった。
「どうにものぞき見されていたようでな」
「のぞき見?」
俺は首をかしげた
「遠視の魔法らしき残滓を感じたのじゃ」
「誰かが俺たちを監視してたってこと?」
オルトレーンは重々しく頷く
「創成級の魔法が飛び交う戦いじゃ。見たものは相当警戒を強めたじゃろうな」
「ほぅ、余達の戦いぶりに感動した輩がいるということか?」
興味深そうに見下ろしてくるロード
15m級の巨体が少し動くだけで風圧を感じる
オルトレーンは風圧で乱れた髭をさすりながら言葉を紡いでいく
「しかも、その監視の魔術理論に見覚えがある......」
一瞬の沈黙、俺は嫌な予感を覚えた
「見覚えって...まさか」
「ワシが作った魔法理論を元にした魔法の可能性が高い」
今度は本当に静寂が草原を包んだ
風が草を揺らす音だけが響く
召喚されたばかりの世界に、オルトレーンの痕跡がある
(つまりここはオルトレーンが過去に生きていた世界)
これがオルトレーンが大往生した世界であれば何も問題はなかった
しかし、ガチャで呼び出した存在達はその誰もが神に否定され存在を抹消されようとしていた存在
つまりこの世界はオルトレーンを一度否定している世界。つまり
(オルトレーンにとって生きにくい世界ってことじゃないか...!)
皆の為に足掻くと決めた矢先に、現れた大きな壁
「それは確かなのか?」
俺が驚いて訊ねると、オルトレーンは確信を持って答えた。
「先ほど見たアピサル殿やキューレ殿といった異世界の魔法の組み方は、基礎理論から全て違ったようじゃ」
「その通りです、管理する神が違えば理も違います。全ては神の設計次第ですから」
出来れば違ってほしいという願いを打ち砕くようにマリエルが証言をする
天使のマリエルまでもが言うのであればオルトレーンの考察に間違いはないのだろう
オルトレーンが続ける。
「あれは確かにワシが作る理論に基づいた魔法。ここがワシがいた世界であるなら...」
表情がさらに険しくなる。
「この世界は4台列強国が終わることの無い戦争を繰り広げる世界じゃ」
その言葉に、俺は内臓がひっくり返る気がした
「終わることの無い戦争?そんなことがあるのか?」
「……少なくともワシの知る限り、戦争状態か解除されたという歴史は存在しない」
「そんな……」
オルトレーンは思いつめたように眉間にしわを寄せる
「カッカッカ!」
そんな空気を払拭するかのように武王丸が豪快に笑う
「何を恐れちょるじゃゼ!戦は男が名乗りを上げる一番の誉の地!この世界が乱世ちゅうなら一旗揚げりゃいいだけじゃゼ!」
「ぐはは!流石人の身でありながら余と渡り合った豪傑よな!その通りだ小童!我らの上に立とうとする者が戦を恐れてどうするか!」
そしてロードも周囲の空気を震わせながら号外に笑う
この戦闘狂達は戦争世界がうれしいらしい
「落ち着きなさい愚か物。まずは旦那様が安全に過ごせるのかどうかを確かめるのが先決です」
はしゃぐ二人をしかりつけるように冷たい声を出すアピサル
鈴の様でありながら針の様なその困惑的な声に、叱られてない俺までゾクっとしてしまう
「何を言うか!深淵の女王――」
そうロードがアピサルに反論しようとした瞬間、すさまじい勢いで赤黒槍が生成され、ロードの方へ飛んでいく
「ぬぅ!?」
「わらわは旦那様の妻、アピサルよ。もう深淵の女王等という存在ではないわ」
「ぐはは、小童、随分逞しい嫁をもったなぁ!」
巨大な二人はお互いに笑いながら戦気を飛ばし合う
「おふたりともおやめください!」
それを止めるマリエル
「オルトレーン様の話をしっかりと聞きましょう!そして主様の為に対策を練らなければ!」
(マリエルはやっぱり天使だなぁ)
そんなやりとりを聞いてると、戦争世界という事実を知ってから感じていた寒気が無くなっていた
「うむ……簡単に説明するとしようかの......」
オルトレーンは魔法で空高く飛びあがる
あっという間にオルトレーンがどこに居るのか判断できない程高く上り、1分ほどで降りてきた
「うぅ、上は冷えるわぃ」
「ゥオン!」
ケルが身体から発する炎を強めながらオルトレーンの傍で丸くなる
「ほっほ、優しい子じゃ...さて」
かじかんだ手をケルの熱気で温めてたオルトレーンが指を動かすと、地面から砂が巻き上がり、砂粒一つ一つが動き、宙に地図を描き出した
それを見たモモが興奮しながら飛び回る
「すごすぎます!わたくしめには想像もつかない程繊細な魔法です!」
それを見たキューレが気持ち悪そうに顔をしかめる
「うぇ、じーさん、砂粒一つ一つ操ってんの?魔法技術気持ち悪過ぎない?」
「ほっほ、キューレも魔法で糸を操るじゃろうて」
「いや、数本の糸と、万超える砂粒一緒にしないでよ...ってか何で色分けまでされてんのよ……重力魔法しか使えないのよね?え?ちょっと意味わからな過ぎて自信なくすんだけど......」
魔法って何でもできるんだなとか浅い感想を抱いてた俺と違い、強者がドンびく程の技術が込められているらしい
(超越者は何でも簡単にやって初心者の心を折るんだよな......)
俺にはわからぬ超絶技巧は、立体的な地図を作りだした
「これがこの世界の地図じゃ」
そこに描かれたのは一つの大きな大陸
中央に黒く不気味に光る灰の平原と言われる場所があり
その周りを取り囲むように6つの国が存在する大陸だった
「どうやらワシ等が今おるのはここのようじゃな」
オルトレーンはヴェルディアと記された王国の少し右にある平原に桃を追加で記した
「ワシ等のいる場所から一番近いヴェルディア国までは徒歩で10日といったところじゃな」
人間が歩くのは1日20km程度って聞くし、徒歩で10日ならここからその国まで200km程だろうか
「......恐らく3日もせぬ内にここに聖騎士が派遣されてくるであろう」
「徒歩で10日なのに3日?」
「ヴェルディアの聖騎士はエレメントの奇獣を使役しておる。1日で体制を整え、2日で駆けてくるじゃろう」
エレメントの奇獣というものがどういうものか想像がつかないが、とにかく早い乗り物に乗ってるらしい
それにしても神話級存在っていうイレギュラーに対しても1日で支度が整うなんて、本当に戦争慣れしてるんだなとおもう
「聖騎士か...なんかカッコいいね、仲良くなれるといいんだけど」
「無理じゃな」
俺の希望をオルトレーンは即座に否定する
「え?なんで」
「この世界のすべての国は、亜人や異業種を駆逐対象にしておる」
「そんな...なんで」
「歴史があるのじゃ」
「それってどんな――」
「今は重要なことではない、今決めるべきは、場所を変えるか、迎え撃つかの選択じゃ」
あまりに物騒な選択肢に俺は言葉が紡げなくなる
「わたくしめの作る桃源郷は許可したものにしか見えません、そのセイキシさんがここに来ても認識できないと思います」
俺の暗い気持ちを晴らすように、モモが小さい身体を思いっきり誇らしそうにしながら明るい声を出す
「ふむ......であれば安心じゃが、この国の戦闘階級は皆神の加護を得ておる、警戒して損はない」
険しい顔をし続けるオルトレーン
俺は気になってた事を聞く
「本当にあきらめるしかないのかな」
「何?」
「亜人が、人間と仲良くなることだよ」
オルトレーンが聞き分けの悪い子供に向けるような目を向けてくる
「オルトレーンが言う歴史っていうやつが関係するんだろうけど、希望は捨てちゃだめだ、難しいアクロバットも難しい夢も一緒。どんなに道が険しくても怖くても、出来ると信じて進む助走と努力が成功を掴むカギになるんだ」
俺はオルトレーンをまっすぐ見て伝える
「それに、過去の情報で世界を歪んでみる事はしたくないんだ...この世界の人がどんな考えを持ってるか、俺はまだ何も知らない。」
嫌な奴と聞いていたのにあってみるとすごくいやつだったなんてことはザラにある
「偏見を持って世界と向き合う事はせず。まずは自分の目で確かめて、それから答えを見つけたい...だからこそ、そのやってくるっていう聖騎士の人と話をしてみたいと思うんだけど」
「お待ちください!」
マリエルが声を上げ心配そうに前に出る。
「お気持ちはわかりますが危険です。どうしてもというのであれば、私たちが敵を完全に制圧した後に――」
「制圧なんてしたらそれこそ二度と友好関係は結べないよ」
「であれば私たちがその者たちと話して――」
「俺が直接見て感じる事が、俺がみんなの願いを叶える為に必要なことだと思うんだ」
「そうなんですか?」
「あー、えっと、うまく言えないんだけど」
俺は皆の心配する心を否定するつもりではなく、その上で自分の信念を貫きたい。その思いが伝わるように言葉を紡ぐ
「お芝居やってた時もそうなんだけど、例えば過去の偉人を表現するときって、その人の事良く知らないとダメなんだよ。今ってスマホ一つでパパっと調べられるから、お手軽に色々な情報が手に入るから、昔に比べたらすごく楽なんだけど...でも、やっぱり人に聞いた情報を軸にすると、ちょと、浅くなるんだ」
「ピー?」
「第三次情報っていうのかな、人が調べた情報って、第一次情報、自分で見て、感じたものとは、情報量が同じに見えて、全然違うんだ。自分でその偉人の生まれ育った地に足を運ぶと、写真じゃ見えない景色とか、空間の奥行とか、匂いとか...五感すべてで感じることができて、表現が深まる」
俺は過去の記憶を思い出しながら言葉を紡いでいく
それは舞台で主役が台詞を完全に忘れた時の事
皆が適当に役作りをしてた現場で、1つ1つ丁寧に作り上げていた俺だけが、アドリブを行いその場をしのぐことができた経験だ
(まぁ、それでもその日の飲み会でプライドを傷付けられた主役に余計な事しやがってって怒られたんだけど...)
脇役が主役を助けた、あの感動は忘れることはない
何事も自分事で、自分自身で向き合う事が、いざという時助けになる
これはどんな事でも一緒だと思う
俺は真剣な表情で続けた。
「俺は、この世界の初心者だ。だから危険は承知でも自分の目で見て、自分の心で色々なものを感じていかないといけない。じゃないと大事な時に判断を誤るかもしれない」
俺の周りくどい発言を、仲間たちが静かに聞いてくれている
それだけですごく勇気がもらえる
「そしてみんなの主人として、土壇場での判断ミスは絶対にしたくない。俺は皆の為に最善を選び取る責任がある、だから、やらせてほしい」
「旦那様のお好きにしてくださいな」
俺がドキドキしながら言葉を発すると、アピサルが優しく声をかけてくれた
「アピサル様!?」
「主は己だけの道を歩み、臣下が支え守る。それがあるべき姿ではなくて?マリエル?」
アピサルの言葉にマリエルは天使としての矜持を刺激されたのか、ハッとした後に、決意の表情を浮かべる
「……わかりました、主様自信も主様の道のりも、このマリエルが全力でお守りいたします!」
「ぐははは。余を前にして戦う意欲があれば良いのだがな!」
「ピィピィ!!」
「異国の武士!楽しみじゃゼ!」
皆が俺を否定することなく、思い思いの言葉を紡ぐ
「......しかたないのぅ、細かい作戦はまた練るとして、とりあえず小僧に経験を積ませる方向で考えるか...」
そしてオルトレーンも認めてくれた
「あぁ、ありがとう!!」
主役級の輝きを放つ皆が俺みたいな存在を認めてくれる
それがどうしようもなくうれしくて、不思議と笑顔になってしまう
そんな俺を見て、アピサルがさらに優しく微笑む。
その笑顔に思わずドキッとしてしまった瞬間、俺の腰に何か温かくしなやかなものが巻き付いた。
「わっわぁ!!」
アピサルの尻尾が俺を持ち上げたのだ。スタントで落ちる、という経験はあるが、急上昇するという経験は無かった。初めての感覚に完全にパニックを起こしてしまう。
空中で手足をバタバタさせていると——
ぽにょん
――柔らかい感触を全身に感じた。
訳がわからず周りを見ると、アピサルの美しい顔がすごく近くにあった。深紅の瞳と魅力的な笑顔に、思わずゾクっとする。
「え、えっと...」
慌てて立ち上がろうとすると——
ぷにぷに
柔らかい感触にうまくいかない。足が沈み込んでしまい、バランスを崩してしまう。
よくよく自分がいる場所を見ると...
(こっ、これは!?)
そう、俺が寝転がっていたのは、アピサルのすごく大きな双房の上だった
西洋の家具店でしか見ないような巨大なソファーのようなサイズのそれは、勢いをつけて触ればトランポリンのように弾力があり、そっと触るとスタント用のスポンジプールのように沈み込み、全ての衝撃を受け止めてくれる包容力があった。
肌から伝わるアピサルの体温が、ひんやりしていてとても気持ちいい
「旦那様。今日はたくさんの事があって、お疲れでしょう?どうぞわらわの胸の中でおくつろぎくださいませ」
アピサルが優雅に微笑みながら言う。その声には深い愛情と心配が込められていた。
「あ、ありがとう...でも、えっと...」
前世なら確実にアウトな状況に俺は頬を赤らめながら
(い、いいのかな...?)
優しく微笑むアピサルの表情をみて、この信じられないほど柔らかく温かい場所に身を委ねた。
確かに、さっきまでの緊張が嘘のようにほぐれていく。
「うぐぐ、アピサル様...さすがでございます」
マリエルが険しい顔でほほ笑むという器用な表情をしている
「かっかっか!さすが大将の奥方じゃゼ、桁が違うわ!」
「ガッハッハ!女の胸に溺れるとはまだまだガキだな!」
「お?巨鬼よ、ヌシは尻派か?」
「ほう?神殺し、貴様はわかるか?」
「かっかっか!胸は女の入り口、序の口じゃゼ」
ロードと武王丸が楽しそうに笑い合う。
それを見たキューレが呆れたように
「いい話したのかと思いきや、オスはどんな種族でも結局これよね」
うんざりしたように木を背に目を閉じる
「ピィ?」「……」「ウォン!」
ヴァイオレットは獣たちと戯れながら我関せず
「と、桃源郷も負けてはいられません!」
モモはなぜか闘志を燃やしていた
そして両手を飢えに掲げて叫ぶ
「いでよ!楼閣!!」
モモが手をかざすと、草原の一角に美しい光が舞い踊った。光が収束すると、そこには2階建ての大きな楼閣が登場していた。
「おおおおお!!」
今日何度目になるかわからないファンタジーに俺は思わず声を上げてしまった。
アピサルが優しく微笑みながら俺を下ろしてくれたので、楼閣の中に駆け出す
「うわぁ...これはすごい」
楼閣の中は今まで見てきたどんな旅館や観光スポットよりも美しく、まるで絵画の世界に入り込んだようだった。
空気も澄んでいて、なんだか心が軽やかになる。
大部屋にはセミダブルサイズのベットが用意されていて、俺は思わず飛び込む
布団とシーツは天女の絹と言われても信じてしまいそうな程サラサラだ
「あぁ...極楽すぎる...」
仕事を終え、子供を助け、訳も分からぬ状況に巻き込まれて疲れていたのか
部屋を確認したらオルトレーン達と話をしようと思ってたのに、俺の意識は闇に飲まれていった
うっすらと残る意識の中、モモが
「えへへ、リュウ様を癒すことができて幸せでございます」
そう優しく布団をかけてくれたのを感じた...
##夜
竜将が眠りについてから数時間後、桃源郷にある広間にガチャメンバーが集まっていた。
「がははは、モモの酒は実にうまい!これほどの美酒は世を統べた余でも飲んだことがないぞ!」
「へへへ、気に入っていただけて恐縮です」
「お代わりじゃゼ!」
「はい!ただいま!」
一部メンバーは酒盛りをしているがその他の面子は深刻な表情を浮かべている
「この世界の目的は永遠の戦争...ということは主様の夢は......」
「叶わぬであろうな」
マリエルが悔しそうに拳を握りしめる
キューレは少しけだるそうにため息を吐く
「はぁ、戦争続きの大陸なら、一つの国奪い取るか、建国するかして、理想郷にしちゃえばいいんじゃないの」
「それも難しいであろうな...先ほども言ったが、この世界の国にはそれぞれデミゴッドがついておる、それを倒すとなれば...神が出てくるであろうよ」
「......」
竜将が寝た後にオルトレーンの語った歴史の悲惨さを思い出し、一同の顔が暗くなる
「オルトレーン、わらわ達は今日思う存分力を振るった。そのことが原因でこの世界の管理者に眼をつけられたとおもう?」
「そう判断するのは時期尚早。ワシらの存在が紐づけられたのは、異世界出身の小僧じゃ。いかな神と言えど、監視網には映らないはず。しかし現地人の目を通してワシらの力が露見する可能性は十分に考えられることじゃ、つまり――」
オルトレーンが仲間たちを見回す。
「――力を隠さねばならん」
酒を飲みながらも会話を把握していたロードが少し不満そうに言う。
「余の威厳を隠せというのか?」
「致し方あるまい。小童を守るためじゃ」
いらだちを隠さないロードにモモが飛び寄り
「ご安心くださいませ、桃源郷は神にとっても憩いの場。許可がなければ、神と言えど覗き見ることは叶いません」
「どの道、外では力を隠さねばならぬという事ではないか」
「あぅ...すみません」
ロードの指摘に小さい身体をさらに小さくするモモ
「ピィィっ!」
それをみたピー助が目を吊り上げながらロードに突きを入れる
しかしロードはまったく気にした様子がない
「ピィ!?」
渾身の突きが蚊ほどにも感じられずショックを受けるピー助
「ピー助は...こっち」
「ピィィ!?」
そしていつの間にか近づいていたヴァイオレットの胸の中に拉致られる
「あんたらホント自由ね」
呆れた様子のキューレがモモに話しかける
「モモ、アンタはすごいんだから、胸張んなよ」
「ですが、わたくしめの力が及ばぬばっかりに...」
「出来ない事じゃなくて、できる事に目を向けなよ。実際皆アンタの力に癒されてる」
「はい......」
そんなやりとりを横目にマリエルが不安そうに口を開く。
「先ほどオルトレーン様より語られた歴史、そして私たちの知るこの世界の真実。それを主様にお話ししなくてもよろしいのでしょうか?」
オルトレーンは首を振った。
「小僧は優しすぎる故、知りすぎれば背負い過ぎ、つぶれることになる。まずはこの世界で生きて行けるよう、ワシらで支えようではないか」
アピサルが頷く。
「わらわも同感ね。どのように過ごそうが最終的に神の介入は必至。そうなれば心休まらぬ日々が続くでしょう。旦那様には少しでも心穏やかに過ごしていただかねば」」
「幸いにして小僧が話したがっている聖騎士がここにたどり着くまでにいくばくかの余裕がある。明日は儂がヴェルディア王都へ小僧を連れてテレポートし、己が会おうとしているのがどんな国のモノなのか、体感させるのが良いじゃろうて」
「私もお供します!」
当然のように動向を申し出るマリエルに続き、ピー助をがっちりホールドしてるヴァイオレットが冷静に言う。
「ボスの為に、情報...取ってくる」
「ピィ...」
モモをお腹に載せながら寝そべっていたキューレがため息交じりに
「人間の国に行くなんて気が滅入るんだけどなぁ」
人間嫌いのキューレが人間を守るために人間の国へ行く
その発言に皆はおどろく
「何よ?アタイがいったらいけないの?」
オルトレーンが優しく答える。
「ほっほ、小僧なら、いつか...成し遂げられるのかもしれんのぉ」
オルトレーンはそういうとロードの元へ行き、盃を手に取る。そして人数分の酒をそれぞれの手元に魔法で運ぶと
「儂等は虚無の彼方に消え去るところを、数奇な運命によってであった。」
盃を抱えながら皆を見つめる
「無力なくせにワシ等の夢をかなえたいと抜かすあの小僧を共に支え、小僧の願いをかなえて見せようぞ」
それぞれがそれぞれの決意を秘めた盃が交わされ、余は更けていく
##ヴェルディア王国
同じ頃、遠く離れた王国の城では、アリシア王女が執務室で報告書を読んでいた。
「神話級存在の可能性?」
王女の美しい顔に驚きが浮かぶ。
「神が降臨されたのでしょうか。そうであれば何十年ぶりか...」
「魔道国の仕業か、魔王の誕生を危惧し、聖騎士が出動の支度を整えています」
王女が勢い良く立ち上がる
「外へ行く支度を」
侍女が青ざめる。
「王女様、それは危険すぎます!」
しかし王女の決意は固かった。
「私には国を導くものとして、成さねばならぬことがあるのです」
王女は窓の外、星空の向こうを見つめた。その視線の先には、竜将たちが休む桃源郷があった。
運命の歯車が、静かに回り始めていた。
楽しんでいただけるように頑張ります