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縁の下の脇役

毎日投稿していきます

大体300話程での完結を目指しております

プロットは完成しているので完結まで止めることなく書き続けていきたいと思います

PROLOGUEは全九話までは1日3投稿でテンポよくいきますので

どうかお付き合いください




イメージ補完の為にミッドジャーニーの機能を使って画像を生成しています

AI画像に忌避感がある方はお気を付けください

挿絵(By みてみん)




 手に持つのは一本の刀



 己が長く愛用してきた業物だ。


 数多の汗を吸った柄はそのグリップ力を確かなものにし、脱力をした掌にも吸い付いてくれる



 刀を振る際に必要なのは僅かな力と、脱力、しかし




 ジリ...ジリ...




 頭では理解していても、俺の目の前で圧倒的な覇気をまき散らす武士の前では身体が脱力を許してくれない




 ジリ...ジリ...




 いくら間合いを調整しても次の瞬間には己が斬られる未来しか思い浮かばず


 しかし目の前の武士を斬らねば愛する家族の元へ帰ることはできない



「ふぅぅぅぅぅぅ――」



 俺は圧倒的に格下、であれば呼吸を見切られる事は承知で無理やり心技体を整え――



「シャアアアアアアアアアアアア!!!」



 死への恐怖を雄たけびで克服しながら会心の斬撃を繰り出し――――――




 チャキンッ




 ――世界が止まった間に振るわれたとしか思えぬ程の圧倒的速度の刃によって





 俺の人生は終わった...













「っカァァット!」



 その一言が放たれるまでは



「お疲れ様でしたー!」


「タオルお持ちします」


「セットチェンジ急いで」


「次シーン5の俯瞰からいきまーす」



 そう、俺がやってたのはチャンバラ映画の撮影


 幼いころから芸能界に入り、今ではアクション俳優として、様々な現場で主役を輝かせる為のわき役として活躍してる



「いやぁリュウが斬られると、華があっていいねぇ」


「有難うございます。監督」


「次も華をじゃんじゃん添えちゃってよ!あの子、事務所の肝いりらしいからさ!」



 監督からお褒めの言葉の通り、そこそこ業界では名が知れてるのだがそれは業界だけの話。


 作品のクレジットに名前が載るときにわかりやすいように漢字四文字の本名ではなくて、先輩に頂いた「竜」の文字を使った芸名を名乗っている


 しかし、そもそもエンドクレジットの後半をまじまじと見るのなんてそれこそ変人か関係者だけ。どれだけ作品に出ようが、世間一般に知れ渡ることはない




「ま、それはそれでやりがいはあるんだけどさ」




 それでも俺では一言貰えればラッキーな監督が、経験のないアイドル主役におべっか使ってるのを見ると複雑な気分だ



(わかってる...あくまで俺の仕事は主役に華を添えるだけ)



 芸能界は結局のところコネが全て。

 たたき上げの実力があろうが、コネがない人間が主役になることはない



「いい役者が良い役につくのではない、売れてる役者が良い役につくのが日本の芸能界だ」



 子供のころ先輩がぼやいていた言葉の意味を真の意味で理解したときには、俺は若手としての旬を超えていた


 だから残された道は、技術を磨いて、引き立て役になることのみ


 己を磨くためにひたすらに行ってきたあらゆる基礎稽古を、芸能界に食らいつくために年をとっても行い続けたた



 50台でも現役で特撮をしていた先輩が


「年を取ったらぱたりと基礎をやらない奴が増える、そうなった奴で俺の年まで続けられた奴はいない」


 と若い俺にぽそりとつぶやいたボヤキがいつも心に残っている


 おかげでアラフォーの年齢になった今でも食うには困らぬほどの仕事、つつましく暮らせるだけの稼ぎはもらえている。


 だがいくら鍛えようとも、大手事務所が売り出す若手俳優とCG加工による神速の斬撃には勝てない



「アクションさん早く着替えて~」



 若手ADに雑に扱われながら、次のシーンで斬られるための着替えを行う



「SNSだの配信だのの才能があれば、俺も主役になれたのかなぁ...」



 最近では縦型ドラマなるものが現れ、コネも実力も無い人たちが自主制作ドラマを撮影して話題になっているというが、そんな道に足を踏み出す勇気は無い


 TV業界にお世話になってる俺がSNSに手を出せば、周りから冷遇されるのは目に見えてる


 俺の居場所は地味だが、それでもこのポジションを狙ってる人間はごまんといるのだ


 俺は俺の道を、地味だけど、どこまで続くかの保証もないけど、それでもこの道を精一杯進んでいくしかない…




「いつか...俺も主役になれればな...」




 それでもつい望んでしまう、叶わぬ夢


 夢を持ちこの業界に入り、夢に生かされながら、夢に殺されている...そんな無限の牢獄にいるかの様な錯覚



「いや、俺は確かに主役にはなれないかもしれないけど、主役に華は添えられてるんだ。俺だからこそ輝かせられる瞬間がある!間違いなく俺は誰かの笑顔の支えになってる!それでいいじゃないか!皆の幸せは俺の幸せ!...贅沢は敵だぞ!俺!」


「ちょっと!アクションさん早くして!」


「あ!行きます!!」



 俺は又誰かを輝かせる為に走り出した






 ……




「つっかれたぁ~」



 帰り道


 明日の動きに支障が出ないように、コンビニで買った氷でアイシングをしながらとぼとぼ歩く


 最近じゃ腕を動かすたびに方がポキポキ言うようになって来た



「パパビューンってして!」


「よしきた!!」


「きゃはは!早い早い!!」



 視線の先では、20台であろう父さんに肩車をしてもらい、無邪気にはしゃぐ子供の姿


 ただそれだけの景色なのに自然と涙腺がゆるむ




(もし俺が結婚して子供を授かることができたら、その子供にとって、俺は唯一無二の主役になれるのかもしれないな)




 そんな事を思いながら歩いていたからだろうか




「だめぇぇ!!!」




 その声の方を向いた瞬間俺の目に飛び込んできた景色――


 ベビーカーに手を添えながら必死に叫ぶ女性


 その視線の先にはボールを追いかけ車道に飛び出した子供と、その向こうからやってくる止まることは無いと確信できる速度で道を進んでくる車


 ――その状況を認識した瞬間に全力で駆け出していたのは



 アクションマンとして学んだ知識、その中にはスタントマンとしての知識もある

 

 車に轢かれたスタントなんて数えきれないくらいやってきた



 その経験からわかる

 絶対に間に合わない

 子供の元に辿り着いたとしても

 次の瞬間には車と衝突する



 (行けば死ぬ)



 アドレナリンが脳内でこれでもかというくらい分泌されているのか、世界がまるでスローモーションのように感じる


 今諦めれば

 今足を止めれば俺は助かる

 脳が体を止める理由を幾つも挙げてくる

 だが――




(うるさい!!)




 ――それでも身体は止まらない


 自分の子供というありもしない存在のことを考えていたからなのか

 


 心が

 魂が燃えていた




(絶対!助ける!!)




 車より先に子供の元に辿り着き、子供を抱えると同時に寝るようにジャンプして、背中から水平にフロントガラスに突っ込む事ができればケガは最小限に抑えられる




(出来る!!)




 俺はイメージ通りに子供の元にたどり着き、そのままの勢いで子供を掴み、全力で胸に抱え飛びあがる




(衝撃の瞬間呼吸を楽に!絶対に息を詰まらせるな!体を硬直させるな!車にはじき出されたとしても受け身を取れなければこの子は死ぬ)




 危機的状況に脳が冴え、アクロバットを行う時のように身体を繊細に空中制御することができてる



(よし!出来る!!)




 見えた希望にほっとしたのか、子供を守ったことを世間に賞賛され、そのことが映画やドラマになり、一躍有名になる未来が見えた


 それはあまりにリアルで、思わず全てを忘れて、その夢にいつまでも身をゆだねていたくなるぬるま湯のような夢だった




(これで、俺も主役に)




 そんな欲にまみれた思考をしてしまったのがダメだったのだろう




 ギイイイイイイイイ!!!




 車が突っ込んでくる俺を避けようと急ハンドルを切ったことに何も反応できなかった




「あ……」



 車は横に大きく逸れた


 そのおかげで子供の体は車の進路上から逃れることが出来たのだが


 車体の進路ギリギリには


 背中からフロントガラスに突っ込むために、体を寝かしながら飛び上がった




 俺の首があった




 強い衝撃と共に遥か中空に舞う視線




(最後まで...俺は主役になれなかったんだな)




 そんな思考で俺の意識は暗転した

何卒感想頂けましたら幸いです

これからもよろしくお願いします

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