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ともあれ、無事ハルが人になれたので、計画を進めることになった。


冬ではあるが、ブラウンの庵までなら問題なく往復できる。

まずはある程度の荷物を…えっと、着替えとか、地面に敷くものとか?


そんなことを考えていたら、城が崩壊した。





「ごるるるるるああああああああああああ!!!!!!」

「ごめんごめん、ごめんて。ちゃんと説明する。説明するから…ちょ!それはヤバいやつ!」


巻き舌になってるなぁ。


崩壊の原因は、爆発事故。

ブラウン曰く…ちょっとした実験、だそうだ。


ヤコと一緒にこそこそなんかやってるなーとは思っていたけど、まさか城を更地にするほどのことをやっているとは思わなかった。

不幸中の幸い、荷物の運び出しという名目の実質ピクニックのため、2人以外は皆ブラウンの庵にいて無事だった。

遠くで爆発音が聞こえた時は何か大型の魔物か何かが出たのかと警戒したけれど、2日後にボロボロのブラウンとヤコがやってきて事態が発覚した。

…それから丸2日、夜を徹してお説教されている。

いくら体力があるとはいえ、そろそろキツそうなんだけど…

シロもクロもまだまだ許す気はなさそうだ。




本気のお説教タイムは、さすがに見ていられなくなった私によって強制終了となった。


「主様…いえ神様!」

「うう、きつかった…」


神様呼ばわりはやめてほしい。

シロもクロもまだまだ怒り足りない様子だが、余った怒りはお城の片付けに向けてもらっている。

ついでに何か貴重なものが残っていたら回収しておいてほしいと伝えているけど、魔法のなんたらでお城はほぼ粉砕されたらしいので、望み薄だ。

一体何をしでかしたのか…聞いたら何日でも語りそうなので聞けない。

まぁ、シロとクロがいれば、語ることもできないだろうけど。


「主様、何があったか聞きたいと顔に書いてありんす!」

「ムムッ!それは大変だ!さぁさ、こちらへ」


…シロとクロが片付けに出向いている間に捕まってしまった。


「ちょっと待って。先に約束。日暮になったら終了。いい?」

「日暮までですね、わかりました!サクサクいきましょう!」


2人は日暮前に様子見に戻ってきたクロに笑顔で連れ去られていった。

正直、助かった。

合掌。




3日後。

がれきの片付けがひと段落ついたらしく、私はお城を見に行った。

お城はかろうじて礎石が残っている。


「足元に気をつけてください」

「ありがとう…派手にやったね」


もったいない。

けれど、なぜかほっとしている。

もうここに帰ることはない。


「貴重品をこちらにまとめております」


シロが手で指し示した先に、箱があった。

ミカン箱、と頭に浮かんだ。


とにかく中身をあらためる。


半分は宝石のようだ。

今後、何かに使えるだろうか。

もう半分は、何かよく分からない石。

私にはわからないけど、貴重なんだろう。

ヤコとブラウンが目を輝かせているが…もちろん、触らせてももらえなかった。

お仕置きの続きかな。


はらはらと雪が舞い始めた。

もうそんな季節になったのか。


「とりあえず、ブラウンのところへ身を寄せるしかないでしょう」

「そうだね。そうさせてもらっていいかな?」

「もちろん、ご主人様の仰せのままに」

「…名前、もう自分でつけちゃおうかな…」


ご主人様呼びも慣れてきたものの、なんだかそわそわする。

今さらかもしれないが…やっぱり嫌だ。


「えー、ご主人様はご主人様ですよ!」


シロの抗議の声に全員が頷いた。

ご主人様から解放されないなら、名前を付けても意味がない。

ゴシュジンサマという名前だと思…無理だ。さすがに。







ブラウンの庵は、結構広い。

見かけは小屋だが、それは目眩しの魔法でそう見えているだけ。

中は5LDKくらいの広さがあり、私たちが身を寄せてもじゅうぶんに暮らしていけるサイズだ。

孤児を引き取っていたというんだから当たり前か。


「キッチンはこちら、食堂はここ…あ、ここから先は私の実験室です。危険なので立ち入らないように」


誰も入る勇気はないと思う。ヤコを除く。


2階は(一応)ヤコの部屋、アキとハルの部屋、シロとクロの部屋になっている。

一応がついているのは、部屋というより物置のような狭い部屋だったからだ。

ヤコは一階【した】のブラウンの部屋に入り浸りなので、私物を置くスペースがあればいいと自己申告したらしい。

ちなみにシロとクロも、私の護衛兼夜間の見張りがあるので、ほぼ私物を置くためのスペースになっている。

シロはお城の中に騎士の頃のまま自分の部屋があって、そこに着替えなどの私物を置いていた。もちろん、城と共に消し飛んだ。

クロは私物らしい私物は何も持っていない。

だから2人とも部屋はいらないと言ったが、公平性に欠ける!と説得されたとかなんとか。


「何もないのに部屋と言われても」


…ごもっとも。

何かクロにプレゼントしてみようかな。


「そういえばみんな服はどうしてるの?」

「どう…とは?」

「え?えっとー…ほら、着替えとか」

「着替え?」


シロやブラウン、ヤコはいわゆる「貴族」「富裕層」なので、私物をそれなりに持っている。

ヤコと一緒にいたアキも同じく。

が、主に動物の姿で生きていたクロやハルは、着替える必要がなかった。

動物の姿の間は必要ないし、肉体を保存している場所では汚れたり劣化したりしないので、気をつけていればそれほど困るわけでもない、と。

なるほど。異空間、便利だ。






「ご主人様はこちらの部屋をお使いください。急ぎで設えたので、不便があればお申しつけください」


ブラウンが真新しい扉を開くと、十分過ぎるほど広い部屋があった。

聞けば、孤児たちが食事をしたり、勉強したり、遊んだりする大広間だったそうだ。

今は誰もいないので、物置として使っていたらしい。

ドアは壊れていたのを直したという。

ベッドや家具はいかにも間に合わせでちぐはぐだし、壁には子供達の落書きが残っていた。


「いい部屋だね」


お城の部屋は完璧すぎて生活感がなかったけれど、この部屋は違う。

温かみがあるというか。


「気に入っていただけて幸いです、ご主人様」


ブラウンは慇懃に礼をしてみせた。




お城では季節を感じることがほとんどなかったが、ここでは存分に感じることができる。

寒い。

隙間風が吹き込み、底冷えがする。

暖炉はあるが、とても部屋全体を暖めるには足りない。

寒さに震えていたら、みんなが総出で魔法の手ほどきをしてくれた。

胴体部分をとりまく空気を遮断して、寒さを感じにくくする魔法。

…魔法瓶?

とにかく、この魔法をマスターすれば、暖炉だけでそれなりに快適に過ごせるらしい。

慣れるまでは近くにいるものが交代で私の補助をしてくれることになった。

ありがたい。

あと、暖かい。

たぶんどんなに寒くても死なないけど、寒いのは嫌だ。

ちなみに寝ている間はというと、ベッドの宝石に魔力を注いでおくんだそうだ。

慣れるまでは、ブラウンが魔力を注いでおいてくれることになった。


「ご主人様では、朝までもたないでしょうから」


…悔しい。練習しよう。




冬が終わり、雨季が終わり、やっと本格的に動き始めた。

拠点に簡単な家を建て、魔道具を運び入れていく。

なんでも、今回は魔法の痕跡ではなく、私の魔力の残滓を辿るとかなんとか…


「こぼれ落ちた魔力は足跡のように残るのです。人や魔物がたくさんいればあっというまにかき消されてしまいますが、今はほとんどいませんから…もしかしたらもしかするかも」


つまり…あまり期待するなということか。


「魔法は魔力をドカンと使うので痕跡が残りやすいんですけどね」

「匂いみたいにすぐ消えちゃうしね」

「まぁ、やれるだけやってみましょう」


クロ、シロ、ハルはほとんど期待していないようだ。


「可能性があるなら賭けましょう!」

「やってみる価値はあります!」

「えいえいおー」


対して、ブラウン、ヤコ、アキはやる気満々だ。

はりきりすぎてバテないといいけど。




私が無意識にこぼした魔力。

そんな吐息のようなものが、本当に残っているのだろうか。

霧散してなくなってしまいそうだ。


「まぁ、そうですねぇ…」


ブラウンは足元の砂を掴み取って、さらさらとこぼした。


「こういう砂のかけらを辿るようなものですね」


ヘンゼルとグレーテルみたいだ。

言葉は浮かんでも、意味は思い出せない。




魔力を辿るのは容易ではなかった。

しかし、それしかすることがない。

地道に少しずつ進めていく。


とはいえ、それだけだと飽きるし集中力が切れるので、森の拠点整備を並行して行うことにした。


といっても、小屋を建てたり、かまどを作ったりする程度のことだ。

ちなみにかまどは調理用ではなく、暖房目的が大きい。

じゃあ暖炉かというと…

あの形を暖炉と呼ぶのは私が許せない。

丸いし。


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