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私を呼び出した魔法についてはわかっていることの方が少なく、講義として成り立たなかった。

一応わかっている情報としては、

・人に限らず、文明を持つものが全て滅びた後に発動する

・過去に生きていた人が現れる

・共通点は性別と名前の由来

の3点だ。

正直、あまり参考にはならない。


「…あ、そうだ。人間とそれ以外って、どうやって分けるのか教えて」

「人間とそれ以外…ですか?」


シロは珍しく少し困ったように見えた。


「それは…人間の定義を定めないことには、難しいですね」

「人間の、定義」

「はい。人間に共通することです。卵生ではないこと、雑食であること、言葉を話すことなどですが…人の姿をするものであれば、ほとんど同じです」

「そうなんだ」

「耳が長いとか、肌の色が濃いとか、そういったことで分類できなくもありませんが…細かすぎて意味をなさないかと」

「そうかぁ…」


言われてみれば確かにそうだ。ここは私が生きていた時代からずっと先の未来。

人種や民族だって増えているかもしれない。

そもそも人でないものと交雑したのなら、垣根などあってないようなもの。


新しい講義にちょうどよさそうだと思ったんだけど。


「二分するのではなく、主要な民族や種族であれば、ご説明できますよ」


シロが提案してくれたので、お願いすることにした。




話を始めるにあたって、シロはまず大きな楕円を描いた。


「これが大陸だと思ってください」


そして、中央やや左上から同じく右下へゆるやかな弧を描きながら線を引く。

これは以前にも見たことがある、勢力図の境目だろう。

そして、さらにいくつかの丸を描いた。

大きな丸、小さな丸、中くらいの丸。

左右にほぼ同じくらいの丸が並ぶ。


「では、始めましょう。まずこの大きな丸ですがーーー」





魔物の国を興した種族。人の国を興した種族。

そしてそれに従ういくつかの種族。

中立を保つものが集まった国。


「…それが、ここ?」

「はい。ここは、種族に関わらず争いに参加しない、中立の国です…でした」


それにしては、かなり重装備というか…しっかりした軍隊がいたようだけど。


「主様、中立を保つのは難しいものなんでありんすよ」

「ヤコ」

「さあさ、お茶でござんす」


ヤコは紙の上に堂々とお盆をのせた。


「ヤコ!ご主人様は勉強中ですよ」

「はいはい、冷めないうちに飲みなんし」


怒るシロにカップを押し付けて、ポットから熱々のお茶をたっぷり注ぐ。

有無を言わさぬ圧がある。


「休憩しよっか」

「……………」


シロは大きなため息をついた。




「ねぇ、ヤコは何歳なの?」

「主様、おなごに年齢を問うてはなりま…」

「1000年は生きているといわれています」

「シロお!お主、女性にょしょうの年齢を暴くとは、おのこの風上にもおけぬっ」

「何をわけのわからないことを…我々にとっては年齢など大した意味をなさないでしょうに」

「えっと…?」


そういえば、この子達はどういう種族なんだろう?

人…ではないよね?


「ほれほれ、主様が何か聞きたそうにしておるぞえ」

「あ…あの、シロたちはどういう種族なのかなって」

「…ご主人様。私たちは、大きく分けるなら人族です」

「えっ、あ、そうなのね」

「魔族と言われるものがこの大地に現れたのは、実はそれほど昔ではありません」

「でも、歴史書にはずっと昔って…」

「それは、おそらく人の書いたものですね。人の寿命はせいぜい80年ですが、魔族は平均して2000年ほど生きます」

「にせん?!」

「人にとって2000年は途方もなく長いでしょう。純粋な魔族にとってはそれほどでもありません」

「妾もまだまだひよっこということでありんすなあ」


ヤコはおそらく温室から持ってきた果実を齧っている。


「…ヤコがどうかはともかく、長生きな魔族なら軽く1万年は生きるとか。もちろん、短命なものもおりますが、それでも5〜600年は生きます」

「そう…なのね」

「魔族と交わればより強い魔力を得て子孫の寿命が伸びる…純粋な人族はもうほとんど残っていないのでありんす」

「それは…動物も同じ?」


ヤコはすっと目を細めた。


「賢い主様には隠せませんなあ。そういうことでありんす」

「隠す必要もないことです。私は犬、クロは猫、ヤコは烏を祖先に持つものです」

「祖先…」


祖先とは、どれくらいの年月のことだろうか。

私は祖先側の立場にあると思うけど、私の知っているカラスやネコは当然、人の姿にはならない。

でも、魔族と交雑した結果、人の姿になれるようになった?


「…どうして魔族と交わったの?魔族って…なに?」

「魔族とは何か…主様は面白いことを考えなさる」

「それは私も考えたことがありませんでした」


意外だ。魔族について、何らかの研究がなされているものと思っていたけれど。


「だって人と子供を作っても、魔族側にメリットがないよね?人にとっては魔力が強くなったり寿命が伸びたりするけど、魔族にとっては逆だよね」

「ふむ。つまり、最初の魔族がなぜ人と交わったのか、ということでありんすな?」


ヤコの問いに頷く。

シロは黙って考え込んでいるようだ。

沈黙を破ったのは、3人のうちの誰でもなかった。


「…魔族は、実体がない」

「クロ」


クロは図書室に入り浸ってはいるものの、基本的に寝ている。

夕方になるとシロと一緒に出かけるが…どうやらそれは見回りをしているらしい。

ヤコが来てからは空からの目があるので、ヤコと連携を取りつつ怪しいところだけをチェックする形になったとか。

夜間はクロが、昼間はシロが、それぞれ私に張り付いて警護してくれている。

クロが昼寝ばかりしているのはそのせいだ。

今も昼寝の最中だった。


「起きて大丈夫なの?」

「…はい。もう起きる時間ですから」


確かに、西側の窓から射し込む光が薄くオレンジに色付いていた。


「魔族には実体がないのです。だから、原初の人は魔族に気が付かなかった…一部見えたり話したりできたといわれていますが、公に存在が認められたことはなかった、と」

「…え?魔族ってそんなに昔からいるものなの?」

「魔族は人と共に生まれた…と教えられました。でも、原初の魔族は実体がなく、人と触れ合うことができなかった」

「じゃあどうやって…」

「悪魔の謀りによって、魔族が動物と交わるようになったと伝えられています」

「クロや。それはここで言うてもよいことでありんすか?」

「問題ありません。ご主人様ですから」

「…おんしがそう言うなら、妾が言えることはありんせんなあ」


ヤコは扇を開いて優雅に煽ぐ。


「さてさて、主様のおやすみの支度をせねばならぬ時間のようでありんす」


ぱちんと音を立てて扇を閉じた。

この話はここでおしまい、と言いたげだ。


釈然としないが、シロが黙ったまま部屋を片付け始めたので大人しく従った。

クロもいつのまにかいなくなっている。

猫は足音を立てないっていうけど、人の姿になっても静かなものだ。









「アキぃ!久しいの〜」

「あねさま!」


5歳くらいの活発そうな男の子。

この子がアキ、なのか。

ヤコに嬉しそうに飛びついている姿は、まるで人と同じだ。

もしかしたら精神年齢が見た目に反映されるのかもしれない。


「主様、これはアキ。我が弟でありんす」

「よろしくおねがいします!」

「おお、元気よく挨拶できたな!アキは良い子じゃ」

「えへへー」


ヤコはまるで我が子のように目を細めている。

烏とトカゲだから、親子ではない。…はずだ。


「ご主人様、こちらへ」


シロは親しげな2人に目もくれず、いつも通りだ。

…というかこれは…


「シロは、アキが苦手なの?」

「………………。いいえ」


すごくためた。

そして、苦手なんだな…

トカゲの時はそうでもなさそうだったけど…もしかしたら子供が苦手なのかもしれない。


「よろしく、アキ。ヤコ、アキの名前はどうする?」

「主様の御心のままに」

「えっ、いいの?ヤコの弟なんでしょう?」

「もちろんでありんす!のぅ、アキ?」

「うん!僕も名前つけてほしい!」


まあ、嫌でないのなら考えよう。

ヤコの弟だし、苗字は同じでいいのかな?


「同じ家名を名乗ってよいのでありんすか?」

「だって姉弟なんでしょう?」

「主様、なんとお優しい心…」

「あねさまと同じなの?本当に?」

「うん。ヤコには烏丸八重子って名前をあげたから、アキは烏丸彬っていうのはどうかなぁ」


特に名前に繋がりはないけど、私の好みで。


「カラスマアキラ…すごく、すごくいい名前!ぼくこの名前すき!」

「よかったなぁ、アキや」

「うん!」


アキは喜んでぴょんぴょん飛び跳ねている。

子どもらしくて可愛い。


「…アキは、ヤコよりもずっと年上ですよ」

「シロ、水を差さない。めっ」


私の後ろで何やら聞こえたが、聞かなかったことにした。


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