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<日米同盟>

 G7、しかも日本で開催中に突如として発生したアメリカ侵攻、そのとき大多数の日本国民が思ったのはなぜよりにもよってこいつが総理の時にこんなことが起きてしまったのかということだった。


 6か月前に行なわれた総裁選で国会議員には人望がないにも関わらず党員たちからの人気という一種の世論で与党の総裁となり総理大臣となった石馬いしばは就任当初は各方面から様々な期待を抱かれていた。


 なぜなら与党で度重なる不祥事が起きるなか党内野党とまで評される自身の党を内側から徹底的に批判する姿に国民は与党の改革を誰もが待ち望んでいたのだ。


 だが、総裁への就任直後からその国民の期待は失望へと変わっていった。


 今まで自身のいる党から選出された総理大臣や国務大臣を背後から攻撃しつつけて来た石馬であったが、それはその立場の苦労や苦悩といった実情を何も知らず、知ろうともしなかったからこそ行なうことができていた批判だったのである。


 総理大臣には何ができて何ができないのかも理解しないまま経済や外交などを理想論ばかりで語ってきた石馬は総理大臣になって初めてその理想論が理想論でしかなかったことを知り、すでに総理となっていた石馬にとってはもはや手遅れであった。


 政界でも経済界でも石馬がやろうとしていた政策はことごとく論理的に反論され、党内では今まで好き放題言ってきたのだから自業自得だと味方はおらず、今では党内の重鎮たちの顔色を伺うばかりで官僚たちには自身の夢物語を論理的に一蹴されて粛々と官僚たちのいうことに従うだけとなっていたのだ。


 このように威勢はよかったのは最初だけ、総理への就任直後から全く逆とも言えるような言動を取り、総理としては党内の顔を伺うばかりの様子から―――


 【イシ(石)があるのは名前だけ、政治思想にイシ(意志)は無し】


 とまで言われるようになり、いま世間では名字の【石】を抜いて「総理」または「・総理」と1拍おいて言われることもあり、【馬】の後の1拍開けている部分に【鹿】という文字が発音されなくても入っているのは言うまでもない。


 そしてそんな時に起こってしまったのがアメリカ侵攻だ。


 幸いにしてG7の開催地が日本であったことから石馬は官僚に言われるがままアメリカの臨時政府を世界で最初に承認するすることとなり、その後も日本政府と官僚たちはこのアメリカの国難と日本の総理に対して様々な対応を行なうこととなる。


 「別に自衛隊は行かなくてもいいんじゃないですかね・・・」


 トラプル大統領を乗せた空母艦隊が臨時政府のあるハワイへ行くことが決まり防衛省は石馬に海上自衛隊を演習名目で派遣してアメリカ海軍とともにトラプル大統領を護衛するという提案をしたのだが、その提案に対して石馬は最初にそう発言をした。


 石馬としては世界最強の海軍による護衛がすでにあるのだからいいじゃないかという考えからであったが外務省や防衛省の官僚たちはその発言に絶望するしかなかった。


 「総理、外務省としては絶対に派遣すべきと断言いたします。すでにアメリカ本土の一部が抑えられている状況でアメリカの高官たちの安否も不明なままです。今アメリカが存在できているのは大統領が生きているからこそであり大統領の身にもしものことがあればその時点でアメリカは終わってしまうんです」


 こうして外務省の意見に石馬が悩むなか、さらに防衛省がそれに続く。


 「アメリカは重要な同盟国であり今やトラプル大統領のいる場所こそがアメリカです。今そのすぐ間近にいて支援することができる国家は日本しかいません。アメリカという同盟国を失うことになるかもしれない状況で艦隊を派遣しないという選択肢ははっきり言ってないです、総理!」


 こうした会議を経て、石馬は最終的に自身が最初に持っていた考えを180度転換して海上自衛隊の派遣を決定することとなった。日本がアメリカの同盟国としての存在感を世界に示した裏にはこのような出来事があったのである。


 そしてその後、イギリスとフランスがアメリカへの派兵を決定すると石馬は先の海上自衛隊のハワイへの派遣を例に侵攻を受けるアメリカ本土に自衛隊を派遣できないかと防衛省に提案をすることとなるが、石馬の提案は防衛省から一蹴されることとなる。


 理由としては自衛隊による奪還は離島がせいぜいで広大な大陸での奪還など訓練なしできるものではない。それに都市を奪還するには相当の人員が必要であり自衛隊にそれだけの派遣できる人員はおらず、もしできたとしてもアメリカまでの補給線の維持は不可能というのが防衛省の答えだ。


 しかも理由はそれだけではない。


 アメリカには臨時政府の指揮下に入れられた州兵または州軍と呼ばれる組織のほかに合衆国政府の指揮下には入らない州政府独自の州防衛軍と呼ばれる軍事組織があり、ソ連の侵攻を受けるアメリカにはこれ以外にも指揮系統を失ったFBIや州警察・市警察といった各種警察機関のほか住民からなる自警団や様々な個人に至るまでがソ連軍との戦闘に参加して独自に戦ったり連携したりいるという状態なのである。


 そのためそのような多様で複雑な指揮系統の中では自衛隊とアメリカ人による同士討ちも起きかねず、そうなってしまった場合たとえ侵攻を撃退したとしてのその後の両国の国民感情も考えれば自衛隊の派遣は非常にリスクが高く、何としてもそれを防ぎたい防衛省は石馬の提案を一蹴するに至ったのだ。


 こうして自衛隊のアメリカへの派遣は完全に見送られることとなり、日本はアメリカへの支援としては弾薬の提供のみを行なうことを決定することとなる。


 ・・・だが実際にその支援が行なわれることはなかった。


 なぜならその後、日本はアメリカの問題に関わってはいられない状況へと陥ったのだ。それは、なんとソ連軍によるロシアへの侵攻である。


 日本海を渡ったすぐ向こう側。もはや日米同盟も機能ししておらず、在日米軍もアメリカへ向かうことが決定している今、日本はそこで巻き起こる出来事に自力で対応をしなければならなかった。





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