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<規律ある民兵>

 侵攻が始まった時、世界に誇るアメリカの大都市はパニックに陥った。


 ニューヨークのマンハッタンではセントラルパークに突如として局所的な霧が発生したかと思うと中から戦車や歩兵の大部隊が出現し、その大部隊は瞬く間にニューヨークの市街地へと流れ込んでニューヨーク市警や治安維持のために派遣されたニューヨーク州の州兵たちを蹴散らして世界経済の中心地ともいえるニューヨークを占領してしまったのだ。


 当初はこの混乱に乗じて略奪を行なう市民も大勢いたが、侵攻してきたソ連軍による攻撃は動くものすべてを攻撃する無差別虐殺であり不幸にもアメリカの大都市にいた人々は多くの死傷者を出しながら命からがら郊外へと逃げ出すこととなったのである。


 そして時を同じくして、大都市から離れた軍事基地のある町や郊外でも侵攻によるパニックが始まることとなる。


 住民たちは最初、軍事基地の中から聞こえてきた砲声や銃声をアメリカ軍による演習によるものだと思い誰も気に留めていなかった。


 それからそんな住民たちのもとにもテレビやラジオを通して大都市で同時多発的に起こった異常事態が伝えられることとなるが、基地周辺の住民たちからすればそれは自分たちが住む場所からは離れた場所の出来事であり近くには頼りになる世界最強のアメリカ軍がいると安心しきっていたのである。


 だが基地内で発生したソ連軍とアメリカ軍の戦闘は徐々に範囲を広げて流れ弾という形で基地と隣接する町を巻き込み始め、基地から脱出したアメリカ兵を掃討するソ連兵の無差別な銃撃により多くの住民たちもその命を落とすこととなる。


 こうしてようやく住民たちはこの異常事態が大都市だけでなく自分たちが今まさにいるこの場所で起きているということを知り、今まで絶大なる信頼を置いていたアメリカ軍が既に頼りにできる状態ではないことを理解した時、住民たちのパニックは大都市のもの以上のものとなった。


 もはやアメリカのどこが安全地帯かもわからない状況で人々は戦闘の巻き添えやソ連軍による虐殺、避難中の交通事故などによって次々と命を落としていくこととなったのだ。


 ・・・だがこのような状況でも、すべてのアメリカ人がソ連軍から逃げ回っているというわけではなかった。


 世界中がソ連軍の格好をした謎の軍事組織によるアメリカへの侵攻に驚愕する一方、侵攻を受けたアメリカではそこにいるアメリカ人自身がアメリカを守るための戦いに身を投じていたのである。



・・・・・



 アメリカ合衆国憲法修正第2条。これはアメリカ人が武器を持つ権利を保障した憲法であり、この憲法で自由な国家の安全に必要とされていた『規律ある民兵』がまさに今回の戦いの最前線にいた。


 カリフォルニア州ロサンゼルス、そこで戦う2人の男はソ連軍によるアメリカへの侵攻直後からこの1か月にわたって世界中の注目を集めている。


 この2人の名前はサムとジャックといいアメリカ軍の退役軍人である2人はソ連軍との戦いを動画投稿サイトへと投稿し、その映像は世界各国のメディアで現地の映像として使用されていたのだ。


 そして今日も彼らは新たな動画をネット上に公開をした。


 ソ連軍の侵攻により荒廃したロサンゼルスの一角、そこで小休止をしていたソ連軍部隊の指揮官はタバコを吸い終えるとタバコとともにアメリカの大地を踏みにじった。


 しかし次の瞬間、指揮官の男は自身の背後にあった薄汚れた白い壁を鮮血で染め、遅れて銃声がビル街に響き渡る。


 指揮官が糸の切れた操り人形のようにその場へと倒れるとソ連軍の部隊は大混乱へと陥り、ある者は建物の中へと逃げ込み、またある者はその場所から走って逃げだしていく。


 いくらソ連軍が都市を占領したといってもこのロサンゼルスという巨大な都市の中で廃墟の一室に至るまで全てを支配するのは不可能であった。


 そのうえビル街で反響する銃声はソ連軍に狙撃者の位置を完全に見失わせ、狙撃による混乱が収まった時にはすでに狙撃した場所には誰もおらずサムとジャックを含めソ連軍と戦う狙撃者たちが捕まることはなかったのである。


 こうしてソ連軍は毎日十数名の指揮官や将校が狙撃され被害を出すこととなるが、彼らによる抵抗運動は狙撃だけに留まらなかった。


 ロサンゼルスの街を走る数両のソ連軍の車両。そのうちの1両がマンホールの上へと差し掛かった瞬間、車両は爆発とともに宙へと浮き上がり横転しながらアスファルトの上を滑っていく。


 かつてアメリカ軍がイラクで苦しめられた即製爆弾による攻撃は今やソ連軍に対する反撃手段の一つでソ連軍に少なくない被害を与えていた。そもそもソ連軍は超短期決戦での決着を計画していたことから損害を補填するだけの補充も補給も不十分でソ連軍は被害の分だけその数を減らすばかりだったのだ。


 そしてこのようなアメリカ人たちによるソ連軍への抵抗はニューヨークやロサンゼルス、デトロイトなどといった大都市を中心に日を追うごとに増していくこととなる。


 なぜならソ連軍による侵攻を受けたばかりの頃は主に退役軍人を中心とした様々な個人がそれぞれアメリカのために戦っているに過ぎなかったが、そのあと抵抗運動には指揮系統を失ったアメリカ軍兵士や警察官、市民からなる自警団のほかその地域にいたギャングに至るまでもが抵抗に加わりその数は増える一方となったのだ。


 そのうえ人が多くなるにつれて抵抗勢力は組織化され、銃を持てない者でも改造したドローンでソ連軍に攻撃を行なうなどアメリカ人というたった一つのアイデンティティを軸にして軍人ではない人々がそれぞれ自身のできることでソ連軍に抵抗していくということがアメリカ各地に広がっていったのである。


 こうしてこの規律ある民兵たちによる抵抗は内陸のアメリカ軍が膨大な避難民への対応と防衛線の構築に忙殺されアメリカの臨時政府が未だにアメリカの全軍を掌握できない中、アメリカという国はアメリカ人がいる限り陥落することはないという事実を敵であるソ連軍だけでなく全世界に見せつけることとなったのであった。






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