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<アメリカ侵攻>

 もう30年以上も前の1991年にソ連が崩壊し冷戦後の秩序が続くアメリカ合衆国のとある軍事基地、そこで突如として日曜日の早朝に基地内で火災が発生したとの警報が鳴り響いた。


 この警報に多くのアメリカ軍兵士たちが火災現場へと駆け付けることとなるが、駆け付けたうちの1人であるマイクが現場へと到着するとそこには煙しかなかった。


 煙が発生している場所は何もないコンクリート広場のど真ん中であり、そもそも可燃物もなければ炎も火事特有の焦げ臭いも何もない。まるでそこだけ局所的な霧が発生しているかのようであり、到着した消防車も何をするわけでなくマイクを含めその場にいた全員がただその光景を前にただ突っ立っていた。


 だが、しばらくして・・・。


 ブオォォォォ


 周囲に謎のエンジン音のような重低音が響きだし、地面が揺れ始めた。


 キュルキュルキュル


 そしてさらに不安をあおる音が加わり、煙をかき分けてなんと1両の戦車がマイクの目の前へと姿を現したのである。


 「なんなんだこの戦車は!」


 周りの兵士たちは突然出現した戦車にそう叫びながらその場から離れようとするが、マイクにはその戦車が何なのかすぐに分かった。それは何度もゲームで見てきたロシアでは極少数の生産に留まっているロシア最新の戦車であるT-14であり、煙の中から次から次へと何両ものT-14が姿を現してくる。


 だがそんな戦車の姿をマイクが呆然としながら見ていられるのもごくわずかな時間だけだった。


 ドゥオン!


 なんとマイクの目の前に現れた戦車は突然戦車砲を撃ち、マイクは砲弾とともに戦車砲から放たれた衝撃波によって吹き飛ばされたのである。


 しかも砲撃はそれだけでなく現れたT-14は次々と無差別に基地内の建物へと向けて砲撃し、止まることのない砲撃で基地内の建物は次々と撃ち崩され、基地内は一瞬にして地獄と化した。


 そして戦車砲の衝撃波によって地面へと吹き飛ばされたマイクは立ち上がると持っていた消火器を投げ捨ててすぐにその場から逃げ出した。このような状態で戦車と戦うなどどう考えても不可能だったからだ。


 だが、そんなマイクの命も長くは続かなかった。


 謎の煙の中からは戦車だけでなくアメリカ軍ではない兵士たちが次々と出現しており、彼らは基地内を逃げるアメリカ軍兵士へ向けて銃を乱射し始めたのだ。


 そんな謎の兵士たちによりマイクは何とか基地の外へ逃げようと基地の外周を囲うフェンスをよじ登り始めた瞬間、背中に猛烈な銃撃を受けることとなり命を落としたのである。



・・・・・



 こうしてソ連軍はアメリカを軍事侵攻し、無防備であった都市だけでなくアメリカ軍の基地や施設といったすべての目標を12時間以内に占領し奇襲作戦として行なわれた侵攻は軍事的には大成功で終わった。


 だが戦略的に見れば最重要の標的であった合衆国大統領の身柄を確保することができず、一気に侵攻して講和へと持ち込むという目論見が崩れたソ連軍のアメリカ侵攻は膠着状態に陥ることとなる。


 何よりソ連首脳部にとって大問題だったのは自分たちが思っていたアメリカと実際に侵攻して占領したアメリカとの乖離であった。


 一挙に講和へと持ち込んだ後、ソ連軍がアメリカ国内で移動するために使用する自動車を調達するために内陸にありながらも例外としてソ連軍が侵攻した自動車の街とも呼ばれているデトロイト。


 このデトロイトに侵攻したソ連軍の部隊によれば本来であれば日本車には押されているもののアメリカを代表する自動車メーカーの大規模な自動車工場がそこにはあったはずなのだが、どういうわけかデトロイトはすでに攻撃を受けたかのような廃墟が広がっており自動車工場など跡形もないというのだ。


 そのうえこの世界でソ連首脳部が見聞きするアメリカのテレビやラジオではアメリカは侵攻してきたソ連軍など存在しないかのようにテレビ局やラジオ局がいつも通りの放送を行なっており、占領したはずのホワイトハウスでは合衆国大統領による会見の様子が生中継で放送されているのである。


 しかし、ここまでであればまだデトロイトはアメリカの優位性を示すためのプロパガンダに引っ掛かり、合衆国大統領による会見もアメリカは健在であるというプロパガンダのために録画されていた映像が流されているのだと説明することができただろう。


 だがアメリカに関する情報はソ連内部でさえ違っているのだ。


 なんと侵攻部隊と接触をしているはずの駐米ソ連大使館はソ連軍がアメリカには来ておらず今日もアメリカは平和だと言い、ソ連大使館と接触したはずの侵攻部隊によればソ連大使館には革命により打倒したはずのロシア帝国の旗が掲げられていると言っている。


 おまけにアメリカの反攻作戦を警戒してアラスカやハワイからのアメリカ軍上陸に備えて侵攻部隊と同じように空間移動装置によってソ連極東部へと展開させた部隊からはどういうわけかソ連極東部にもロシア帝国の旗が掲げられており、なんとそこの住民たちによれば今の国のトップは十数年前に処刑したはずのプータンが大統領として国を統治しているといっているのだ。


 実はソ連が開発した空間移動装置、それは完璧なものではなく繋がれたもう片方の地点は自分たちと同じ世界ではなく全く別の世界線、つまり1991年にソ連が崩壊したパラレルワールドの地球へと繋がってしまっていたのである。


 だが、ソ連がこの事実を知るのはもう少し後となる。


 そのためこのように侵攻後あらゆる方面から入ってくる報告は食い違いがあるものの、相手が長年の仇敵であるアメリカだと信じてやまないソ連首脳部は決して侵攻をやめることはなくさらに強力に侵攻を続けていった。


 とはいっても、こうしてどんなに侵攻を続けていくソ連にも一つだけはっきりとわかっていることがあった。それはいつまで経ってもいま自分たちがいるこの世界はアメリカが侵攻されたことによる経済的混乱も社会的混乱も一切なく、いつも通り平和だということである。


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