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<冷戦の終結>

202X年 ソビエト社会主義共和国連邦 某所


 第二次世界大戦の終結から80年ほどが経過した今も続く米ソ冷戦。世界がいまだに核戦争の恐怖にあるその日、突如としてソ連最高指導者であるタターリンに秘密核シェルターへと呼び出されたソ連の閣僚たちは科学者からとんでもない超技術を説明されていた。


 「―――つまり、この技術によりあらゆる距離を無視してある地点からある地点へと一瞬で移動することが可能になるわけです。すでに実験には成功しており国内にある2つの陸軍基地をこの1か月この装置により繋ぎ続けている状態ですが何も問題なく使用することができています」


 閣僚たちが説明を受けていた技術、それは空間移動装置という特定の場所と場所とを空間でつないで一瞬で移動することができてしまうという今までの移動という概念を根底から覆す超技術であった。


 煙に満たされた倉庫のような建物の中と入っていけばもう片方の地点に出現している煙の中から姿を現すことができ、逆に煙が出現している地点では出現している煙の中央へと進んでいけば空間移動装置がある建物の出入口から出ることができるのだという。


 そしてその技術はすでに実用化できる段階まで進んでおり、これはまさに移動技術の革命であった。


 何よりこの技術はソ連の軍事面でとてつもなく有用なものであるというのは疑いようがない。


 敵地へと侵攻するのに敵防衛線の突破や危険な敵前上陸を行なう必要もなく、本国からの補給線の維持や橋頭堡を建設する必要もない。全ては自分たちの基地から敵国の内陸へと空間移動装置を繋いでしまえばそれで済んでしまうのだ。


 そしてそれをようやく理解することができたソ連の閣僚たちは色めき立った。アメリカとヨーロッパからなる西側諸国に対して核兵器に代わる新たな抑止力をソ連は手に入れたのである。


 だがソ連の最高指導者であるタターリンにはこの技術を抑止力として使うつもりなど最初からなかった。


 「さて、同志諸君。いま我々はこの空間移動装置という技術によってアメリカの一歩先を行くことができた。しかし技術というものはいつの日か必ず追いつかれるものである。


 かつてアメリカは核兵器を開発して唯一の核保有国となったが、しばらくして我々も核兵器の開発に成功したことによって今に至るまで冷戦という均衡状態が続いている。


 つまりこのままではかつての我々と同じようにアメリカがこの技術と同様の技術を完成させて我々の優位性がなくなり再び元の均衡状態へと戻ってしまうのは時間の問題だ。


 すなわち時は今だ!アメリカが同様の技術を開発する前に侵攻を開始する必要がある」


 ソ連にとって絶対の存在であるタターリンによる突然のアメリカへの侵攻宣言であったが、それに異を唱える閣僚など誰一人としていなかった。


 「素晴らしい」

 「さすがです書記長」

 「我々も全力で支援いたします」


 それぞれ席を立ち賛辞の言葉を述べて拍手までする閣僚たち。しかしそれは彼らの本心ではない。もしこの場でタターリンの機嫌を損ねるようなことがあれば自身が粛清の対象になるのは間違いないと幹部たちも分かっているのだ。


 彼らも一国の閣僚という地位まで上り詰めて今更こんなところで死にたいわけはなく、生き残るためにはタターリンを称賛し追従するしかなかったのである。



・・・・・



 数か月後、ソ連は大規模な陸軍の演習を全土で一斉に行なうとして各地の陸軍部隊をそれぞれの基地や演習場に集結させていた。


 もちろんこれはこれからソ連が行なうアメリカ侵攻のために集結させられた部隊であり、モスクワに近い陸軍基地では最新鋭の装備が配備されたソ連陸軍の精鋭部隊が不思議な煙に満たされた大きな建物、空間移動装置の建物の前に一直線の長い隊列をつくっていた。


 そして表向き演習の観閲のためとして基地を訪れていたソ連国防大臣のトモロフはこれからソ連が起こす世界を驚かす出来事を想像してニヤリと笑った。


 もしこの様子をアメリカが人工衛星で見ていたとしても、まさかここにいるソ連陸軍の大部隊が自国へ直接侵入してくる部隊だとは夢にも思わないだろう。敵が上陸をしてくるわけでもなく防衛線を突破してくるわけでもなく突如として自分たちの都市や基地内に出現してくるのだ。


 もはやすでにこの侵攻を止められる者など誰もいないのである。


 だが、それも今だからこそできること。もしもソ連と同じ技術をアメリカが完成させてしまえばソ連はアメリカ軍が演習のためとして部隊を集結させるたびに怯えることとなってしまう。


 そう考えればこちらが優位なうちに攻撃を一気に仕掛けるというタターリンの考えはあながち間違いではなく、もしこの作戦が成功すればトモロフは自身が冷戦を終わらせたソ連最高の国防大臣として名を刻むことになるだろう妄想する。


 そうして、ついにその時はやってくる。


 合衆国大統領を捕えるためホワイトハウスに大統領がいることを確認したうえで発令された侵攻命令。それを受けてソ連陸軍の大部隊は建物の中を満たす煙の中へと突入していく。


 アメリカでの占領先はホワイトハウスと国防総省を最重要目標とし、そのほかアメリカ本土の東西両海岸沿いの州にある合衆国軍の陸海空軍と海兵隊の主要な軍事拠点十数か所と複数の大規模な都市を占領することとなっている。


 また、この作戦は合衆国大統領の身柄と主要な軍事拠点・人口密集地帯を抑えることによって一挙に講和へと持ち込む作戦であり、アメリカ内陸にある合衆国軍の基地や東西両海岸沿いの州にあっても州軍基地の存在は完全に無視し、奇襲を万全にするため事前の宣戦布告も行なわない。


 こうしてアメリカ現地時間で日曜日の早朝、ソ連軍による完璧な奇襲作戦が始まったのである。




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