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三人の魔王  作者: 零夜
第一章 目覚めて踊る双炎
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第八話 ルチルの願い

「リアン、とりあえずカーネに状況を説明したら?」

「そうだな」


 ルチルの控えめな提案にリアンはうなずくが説明をする気配はない。ルチルはいぶかしげな表情をしながらカーネを見上げる。よく見れば見るほどリアンに似ていた。

 顔のつくりといい切れ長の眼といい、違うのは瞳の色と髪の長さくらいだろうか。


「お前がここの第二王子?」

「そう呼ばれるのは好きじゃない」

「じゃあなんて呼べばいいんだ、王子様?」


 からかうような口調に抜刀しかけるルチル。彼の後ろに回りこみ羽交い絞めにしようかと、考えたリアンだったが、今のは彼自身も腹が立ったので、そのままほうっておくことにした。

 自分の対であろうとも、ルチルを傷つけるのならば容赦はしない。


「ルチルでいい。炎の魔王殿」

「俺もカーネでいいぜ」

「じゃあ、カーネ」


 にやりと笑うカーネは性格的に対照的らしい。少しのやり取りでそう判断する。リアンを静とするならば、カーネは動だろう。

  

「それにしても、お前珍しい色だな」

「髪と肌か?」

「そう」


 といって、遠慮なく顔を近づけてまじまじと人の顔を見てくる。見るというよりは観察するような無機質な視線に眉間にしわを寄せる。

 自分の容姿を眺められるのには慣れているので、大して気分を害しはしないが整っている顔が近づけば、若干あせる。


「髪は闇のような漆黒に、肌は透き通るような白さ。内包する魔力による変化、生まれつきか?」

「……そうだ」


 確認するために生まれつきかと問われ少しの間沈黙し、苦々しく答える。そして今までの自分の環境を思い出し悲しげに目を伏せる。

 そんなルチルを慰めるように頭をなでてやり、自分の対に近づくと額をあわせるリアン。


「なんだよ」

「いいから、これをみろ」


 リアンの行動の意図が読めないカーネは離れようとしたが、リアンはがっちりと肩をつかんで離れないようにする。

 カーネに見せるはルチルの記憶。それが流れ込んでいくうちに驚きの表情に変わっていった。


「いまの……は」

「ルチルの記憶だ」

「……そうか」


 カーネは瞼を伏せ、今見せられた記憶をじっくりと吟味しなにやら思案したあとルチルの前で片膝をつき頭をたれる。


「先ほどの無礼お許しください」

「えっ?」

「あなた様があのような生き方(・・・・・・・・)をしてきたとは露知らず、ご無礼な態度をとりました」

「リアン。どうしてカーネは俺の生い立ちを知っているんだ?」

「記憶を見せた。魔王同士ならば記憶の共有が可能だ、さすがにさっきの態度はまずいんでな」


 カーネと同じ視線の高さにし、別に気分を害してはないと告げればカーネはそれを聞き嬉しそうに破顔する。というより堅苦しいのは好きではないといえば、わかると何度もうなずかれた。


「そっちのほうがいい」

「そうか? まぁ、俺的にも固っ苦しいの嫌いだからな」


 ハハハと豪快に笑うカーネを見て、次いで静かに隣で苦笑しているリアンを見る。やっぱり性格は対照的だと思うルチルであった。


「さて、願いをかなえるんだろ」

「へ?」

「私との会話も見せたからな。お前は言っただろう、カーネを見つけたら願いを一つかなえてくれと」

「言ったな……」


 すっとルチルの顔から表情というものがなくなる。唇を引き結び何か迷うように視線をさまよわせた。その表情にリアンは悲しそうな表情をし、カーネはおやっと首をかしげる。


「その前に、お前たちの封印を解かなくていいのか?」

「封印解いちまって良いのか?」

「俺は、この国がどうなろうと関係ない」


 これが第二王子の考えることなのかと考えるカーネ。だが、先ほど見せられたルチルの人生を、思い出しその考えを打ち消す。あんな生き方をしていれば、誰だってそんな考えを持つだろうと冷静に分析する。


「どうやって封印を解くんだ?」

「お前の血をたらせばいい。強い魔力の持ち主ならば、それだけで封印は解ける」

「弱かったら?」

「色々手順を踏む」


 そうかと頷き、懐から短刀を取り出すと指の腹に刃を滑らせる。見る見るうちに血の雫が盛り上がる。台座のクッションの上に、おいてある二つの宝石の上にたらそうとしたが。


「ちょい待ち」

「なに?」

「だから、お前の願いは?」

「復活してからじゃないとかなわない」


 強い力で手首をつかまれ、動かせない。奇妙なほどに感情が凪いだ瞳で見上げられ、その空虚さに息を呑む二人。


「ここではないほうがいい」

「そうか」


 切った指をどうしようと思っていると、リアンが手のひらで指先を包み込む。一瞬だけ熱くなり彼が手を放すと傷はふさがっていた。

 驚いて見上げると、なんともいえない表情で見下ろしてきていた。


 カーネはそれを横目で見ながら、二つの宝石をクッションの上から取り上げるとルチルの上着のポケットの中に入れる。

 リアンのことは昔からよく知っているがあんな表情を見るのは初めてで、ルチルが何かをしたのかと思う。その思考を感じ取ったのかリアンはルチルに聞こえないように一言


「自分の意志だ、守護を」


 その言葉が聞こえたカーネは驚きに目を見開き、次いでゆるゆると穏やかな微笑を浮かべそうかと一つうなずいた。そしてルチルに向き直り促す。


「とりあえず、部屋に戻ってからのほうがいい」


 そう告げればリアンはルチルの体を抱き上げると床を蹴り宙を飛び始める。その横にカーネもやってきて同様に宙を飛び始めた。


「なぁ、願いって何なんだ」


 部屋に戻る途中で静かにカーネが問う。

 ルチルは無表情で感情の揺らぎがない眼差しを向ける。その眼差しを真正面から受け止め、リアンも腕の中のルチルを案じるように見つめる。


「部屋に戻ってから」


 それだけつぶやくと視線をそらす。二人は視線を交わしあい困惑した表情を、そっくりな顔に浮かべる。


「着いたぞ」


 窓の前に降り立ち、開けっ放しだった窓から部屋の中に入る。うとうとしていたルチルを優しく起こし床に下ろす。

 その間にカーネは部屋の中にざっと視線を向ける。


 小さな部屋で、簡素な家具。人の暖かさがないどこか寂しげな部屋。こんな部屋に住み続けていたのかと苦い顔でルチルを見た。


「それで、願いとは?」


 リアンが静かに問う。その横にカーネも並び二人はただ答えが帰ってくるのを待つ。

 ルチルは一度うつむくと、何かをこらえるようにきつく眼をつぶるとやがてゆっくりと顔を上げる。


 その顔には表情がない。

 二人の背筋に冷たいものが走る。空虚な眼差しにどちらかが生唾を飲み込む音が響いた。


「俺を……」


 ルチルはすべてをあきらめたような眼差しで二人に向かって言い放った。



「殺してほしい」



 部屋に静寂が落ちた。

 双炎の魔王は目の前にいる青年の願いにただ呆然とするだけ。


 そして、ルチルはすべてをあきらめきったどこか空虚な表情で二人を見上げていた。

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