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三人の魔王  作者: 零夜
第一章 目覚めて踊る双炎
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第七話 双炎の再会

「痛い、疲れた」

「あの程度で音を上げるな。私は半分以下の力しか出していないぞ」


 日もとっぷりと暮れたころ自室に戻ったルチルは、靴を脱ぐとすぐさまベッドに寝転ぶ。

 食事や休憩など以外は、すべてリアンとの手合わせに時間を費やしていたのだ。


 ルチルは自分の剣術には少しは自信があった。幼いころから、剣を握り鍛錬場で汗水流してきたのだ、だがリアンはそんなルチルの自信を粉々に砕いた。

 自分の覚えている技をすべて叩き込んだとしてもそれらすべてかわし、更に隙を見つけては一撃を叩き込まれ、ふっとばされたのだ。


「お前はまだ発展途上だ。鍛えたらもっと強くなる、だからそう落ち込むな」


 落ち込むルチルにリアンは優しく告げ、彼がルチルを鍛えてくれるということになって落ち込みから脱出した。

 そして、少しだけ稽古をしたのだが手加減という言葉を知らないようなのでかなりしごかれたのだった。リアンはとんでもない鬼教官だったと思いながら遠い目をするルチル。


「痛い」

「すまん、少々手加減ができなかったようだ」

「伊達に魔王を名乗っていないな」

「まぁな、……『魔王』か」


 色々な意味を踏ませた一言をリアンは発したが、含んだ意味が分からずいぶかしげな顔をする。

 疲労で重い体を起こし、ベッドに腰掛ける。肩を回したりして体をほぐしまたベッドに倒れこむ。


「眠い」

「寝れば良いだろうといいたいのだが、風呂入って来い」

「風呂、めんどくさい」

「入って来い」


 リアンに冷たい目と声ですごまれ渋々体を起こす、自室に備え付けられている小さな風呂に向かう。ルチルの部屋は一階にあるので、風呂が備え付けれれているのだ。

 おそらく、同じ風呂にはいりたくない家族の考えだろう。


「どこまで……」


 どこまで、あの子を傷つければ気が済むのだ。唸るようにリアンは憎悪に満ちた言葉を漏らし鬱憤を晴らすために部屋を出て行く。

 部屋から少し離れたところに、なにやら会話をしている使用人たちを見つけると大股で近づいていく。


 内容は聞かなくてもわかった。もし、自分が思っている内容と違っていたとしてもリアンは使用人たちを殺していただろう。

 静かな怒りに燃えている魔王の視界に入ってしまった三人の命は一瞬で消滅した。



「リアンなに怒っているんだ?」


 風呂から出てきてさっぱりした顔をしているルチルは、壁に寄りかかり苛立ちを見せているリアンに、恐る恐る声をかける。

 殺気に満ちた眼差しで貫かれ、無意識に一歩下がる。


 それに気づき、瞼を伏せ落ち着くように深呼吸をする。彼を取り巻いていた殺気はゆっくりと静まっていく。元のリアンに戻ったので、ゆっくりと近づいた。


「たいしたことではない」

「なら、いいけど」

「それよりも……行きたいのだが」


 リアンがどこに行きたいのかわかったルチルは、一瞬苦悩に満ちた表情を見せる。だが、それは瞬きの間に消え去りすぐに微笑を浮かべる。


「わかった。連れて行ってくれ」

「こっちだ」


 リアンは今まで吸収してきた魔力で、自らの体を一時的に形成するとルチルの軽い体を抱えあげる。


「飛ぶぞ」

「えっ!?」


 窓を開けると、庭に出て跳躍の準備をする。ルチルがどう意味かを聞く前に強く地を蹴り、厚い雲が覆い、今にも雨が降り出しそうな空に向かって飛ぶ。

 一度体勢を整えるために滞空すると、目的地に向かって滑るように飛ぶ。


「飛んでる」

「魔力を使ってな」


 呆然としながら自分の服の胸元にしがみついているルチルにさらりと言葉を返し、カーネが封じられている宝石が安置されている場所に向かっていく。

 

 それは、庭園にある迷宮のような生垣を越えた先にあった。空を飛んでしまえば迷宮は関係ない、宝石が安置されている建物はガラス張りの温室だった。


「どうやって入るんだ?」

「お前の家族はずいぶんと自信家のようだ」

「えっ?」

「扉は開け放たれている」


 扉の前に下りれば、確かにガラスの扉は開け放たれている。何人たりともあの迷宮を乗り越えてこれるものはいないと思っているのだろう。

 自分の家族なのだがさすがにこのとってくださいと、いわんばかりの状態に頭が痛くなってくる。


「中も飛ぶぞ」

「なんで?」

「念のためだ、不注意でお前を傷つけるわけにはいかない」


 そう言いつつルチルを抱えたまま地面から数センチほど浮き中に入っていく。光がないので暗いが、ルチルは闇に慣れており、リアンには真昼と変わらないくらいはっきりと見える。


「あった」


 ふわふわと浮きながら真っ直ぐ進んでいけば一番奥に小さな台座があった。その上にクッションが置かれ自分が持っている宝石と変わらないものが安置されている。

 リアンはルチルをおろすと足早に近づいていく。


 ルチルもその後に続き、上着のポケットから赤い宝石を取り出す。それをクッションの上におかれている宝石の隣に置いてみた。


「カーネ」


 そっとリアンが触れるが、何の反応もない。声をかけても宝石は鈍く輝くだけ。彼は落胆したようにため息を吐く。

 ルチルはその様子を横目で見ながら、クッションに置かれている宝石に手を置き、自分の中の魔力を注ぎこんでみる。


「ルチル?」

「これで、いいはず」

「えっ?」


 彼は本能的に自分がやるべきことがわかっていた。具現化できないのは魔力が足りないから、ならば不足している分、己の魔力で補えば良いと考え実行した。

 その考えは正解だったようで、手の下で宝石は赤く輝き始め強い光を発する。


 光は人の形を取り宝石の後ろに一つの人影を出現させた。顔立ちはリアンとよく似ており、着ている服はリアンのよりは軽装だが似たような形状のもの。

 短い深紅の髪はザンバラで、ぼさぼさである。閉じられていた瞼が震え、あらわになるのは淡い銀色の双眸。


「リ……アン?」

「カーネ」


 少々ぼんやりしている声で、男はリアンの名を呼ぶ。リアンは歓喜に満ちた声で男をカーネと呼び、台座を回り込むと、思わずといったように駆け寄る。

 カーネは驚いた表情で目の前に立つ自分の対を見つめる。盛んに瞬きをしており、状況を整理するのに必死らしい。


「リアン。彼が?」

「そうだ。私の対である、カーネだ」


 振り返ったリアンは嬉しそうにに笑い、一方カーネはいまだに現状が理解できていないようだが、今の状況の中心人物であるのがルチルであるとわかったらしくそっくりな顔立ち見つめてくる。



   ルチルの目の前で古の双炎の魔王が目覚めたのであった。



 リアンが心から嬉しそうなのに比べ、ルチルはどこか浮かない表情をしている。

 その様子をただカーネはじっと見詰めていた。感情に流されずに第三者の視点から状況を理解したらしい。そしてルチルが今何を考えているかを読み取ろうとしてくる。


「よかったな」

「あぁ」

「本当によかった」


 これで俺の心残りは何もない、願いはすでに決まっている。

 小さな小さなルチルの呟きがその場に落ちる。


 リアンはそれに気づかず、カーネはそれに気づく。

 探るような眼差しで見られ、苦笑を返しておいた。すっと銀色の瞳が細まり、言葉の意味を感じ取ろうとする。


「何を考えているんだ?」


 ポツリと落とされた言葉に、ルチルはただ泣きそうな顔で沈黙を貫くだけだった。

 意味が分からないといったようにカーネはため息を吐いた。

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