第四十六話 本能的な恐怖
はい、おひさしぶりの更新で申し訳ないです。
時間の都合上今回は一話しかアップできません…。
ルチルはいったい何を見たのか…、続きをどうぞ
ルチルの深紅の瞳が映し出したのは、こちらに向かってくる一団だった。
それが普通の一団だったのならば、彼の時は止まることはなかっただろう。
ルチルがなぜ凍りついたのか……。
それは、一団が守るように円になって歩いている中心に忘れたくとも忘れられない、
禍々しい光
ルチルはそれから逃れるかのように、一歩一歩下がり始める。
遠ざかる光景の中、人々はその一団を見て、両手を合わせて頭を下げたり喜色満面の笑顔で手を振っていたりする。
それが彼の眼には異常に映った。
どうしてあんなものを崇めているんだ。無意識に言葉が唇からこぼれる。
「コーライト様!」
「巫女様!」
少しずつ時がルチルの中に戻ってきたときに聞こえてきたのは、名前と巫女いう単語。
魔王たちの「あれが巫女か」という声もどこか遠く、水を通して聞くかのようにおぼろげに聞こえる。ルチルの全身がカタカタと震え始める。拒絶の言葉が頭の中に回り始め、唇からもこぼれだす。
「……だ」
「ルチル?」
異変に気付いたリアンが顔を覗き込む前にルチルはすさまじい速度で走り出す。一団が向かってくるのとは反対方向に、土ぼこりを立てながら。魔王たちはその異常さに、距離を離されないようにすぐさま走り出す。
「ジェイド、先に行け!」
「わかった!」
ラピスの怒号に促されるように、ジェイドは地を蹴ると低い位置を滑空し、三人よりも先に行く。
「いったい何を見たというんだ」
「わからない。だがあの子の取り乱し方は尋常じゃない」
「ルチル!」
カーネとラピスの会話を聞き流しながらリアンは、ルチルの名前を吠えるようにして呼んだ。それが届いたのか少しだけ速度が緩まる。
「いやだ、いやだ……あれには近づきたくない!」
まるで自分自身に言い聞かせるかのように、「いやだ」と「近づきたくない」という言葉を繰り返しながらどこに向かうとも決めずに、ただ走り続ける。
「ルチル!」
「いやだ、いやだよ……」
風で速度を増して何とか追いついたジェイドが後ろから背を羽交い絞めにすれば、逃れるかのように軽く暴れる。大丈夫だと言いながら頭を撫でれば、それがジェイドだということが分かったのだろう暴れるのをやめる。
だが、震えは止まらず背から回された腕にしがみつく。
「あれには近づきたくない……」
「わかったから、落ち着け。ルチル、ほら深呼吸をしろ」
息を吸って吐けと根気良く促せば、震えるルチルは小さく出深呼吸をする。何度も深呼吸をし、ようやく落ち着いてきたのだろう、ジェイドの腕を軽くたたく。ゆっくりとルチルを離すと、ジェイドは周囲を探索するために風を起こす。
「なんとか間に合ったみたいだな」
「まぁな」
ラピスがすぐさま膝をつき、ルチルの瞳を覗き込む。彼の瞳にはまだ怖れと怯えが宿っており、得体のしれない恐怖を振り払えないのか体を震わせる。
「なにかを見たのか?」
「うん」
「それはあの場から逃げ出すほどの恐怖を覚えたから?」
言葉少なにうなずくルチル。思い当たる節がないラピスは眉間にしわを寄せて、ジェイドを見る。
不審な人物がいないのと、ラピスの問いの視線にも否定する二重の意味を込めて首を横に振る。
「カーネ? リアン?」
ルチルが小さく呼ぶが返事は帰ってこない、二人もはっとしたように周囲を見回すがどこにもいない。
不安そうな表情をする青年に大丈夫だと二人で声をかけ、緊張を体にみなぎらせる。
「ジェイド」
「なんだ?」
「あの二人は、まさか……?」
「いや、その線はないだろう。この間戻ったばかりだからな」
二人して不穏な空気と物騒な表情をしながらぼそぼそと会話をする。ルチルさっぱりわかっていない表情だが、ふいにハッとする腰に差してある剣を抜く。
それに倣うように、ジェイドは短剣を指の間にはさみラピスは大剣を構える。三人で背中に合わせになりながら殺気をまとう。
「何かくる……」
「おい、ルチ坊」
「なんかまた変なあだ名ついた」
場の空気にそぐわないあだ名をつけられげんなりとした表情をすれば、わざと茶化すような声でジェイドは言う。
「気を引き締めろ。これは……」
「我らの敵の力一片だ!」
ジェイドの言葉をラピスが引き継ぐと同時に不快な音が耳につく。ぐちゃり、ぬちゃりと粘着質な何かがこちらへとゆっくり歩み寄ってくる音が。
さらに鼻が曲がるような腐臭がし始め、ルチルは吐きそうな表情をする。
「なにこれ……」
「おいおい」
「まさか、これが来るとは思わなかったぞ!」
「あだっ!?」
ドンと二人に同時に突き飛ばされたルチルは地面を転がり、立ち上がると同時に文句を言おうとしたがその言葉を飲み込んだ。いや、飲み込まざる得なかったというべきか。
先ほどまでルチルが立っていた場所には、紫と黒と茶色が混じった例えようのない色をしたなにかが腐臭を立て地面を溶かしていた。
「なんだあれ!?」
「あ~、簡単に言うと」
「敵」
「そんなのは見ればわかるわ!」
気持ち悪いと叫ぶと同時に黒煙を呼び起こし、思いっきりぶつけるが球体のそれの表面を滑るだけでたいしたダメージにはなっていない。
ちょっぴりショックを受けたルチルはジェイドとラピスに訴えるような視線を向けてみる。
「ルチル。水を操ることは可能か?」
「いきなり言われても少しきつい。なに、炎効かないの!?」
「是か否かと聞かれれば、是だな。しかたない、ジェイド!」
「わかった!」
短剣を投げつけていたジェイドは、ルチルのそばに降りてくると同時に彼を片腕で抱え上げる。そのまま地を蹴り空へと逃げると、宙に反対の手で紋章を描く。投げつけていた短剣も大してダメージにはなっていないらしく、逆に内部に取り込まれていく。
「内部から切り刻んでやる」
ジェイドの指が宙を滑るとその後を追うように、緑色の光が現れてつながっていく。円を重ねたその文様を一瞬だけ見ると、ルチルを抱えたまま飛び上がり指を鳴らす。
高らかな音が響くと同時に、粘着質な球体の中に潜り込んでいた短剣が同色の光を放つ。
一方のラピスは水の龍を作り出すと、その上に乗り球体に近づく。すれ違いざまに大剣を振るい一閃するが、表面が割れだけだった。しかもすぐに傷口はふさがっていく。
だが内部を視認するには十分だったらしく、地面すれすれにまで龍を近づけさせると大剣で地面を削っていく。
「短剣を支柱とし、やつの内部に風の渦を起こす。ルチル、力貸せ」
「どうすればいい」
「俺の魔法がうまくいけばやつはバラバラになるそこにラピスが種をまいてくれているはずだから、思いっきり炎をたたきこめ」
「さっき炎は効かないって言ったじゃないか」
犬歯をむき出しにするような笑い方をジェイドはすると、まぁみてろという。ラピスが縦横無尽に動き回っているので砂埃が立ち込め始める。
「ラピス! こちらは準備完了だ、ルチルが炎を放ったらすぐに避難しろ」
「言われなくてもわかっている、結界も張った!」
「ンじゃ、行くぞ。ルチル任せたからな」
「わかった」
タプンタプンというように全身を揺らしながら、得体のしれない球体は地上にいるラピスに確実に近づいていく。
そうはさせるかと言わんばかりに、ジェイドは短剣を一本取りだすと渾身の力を込めて投げつける。ザクリという今までとは違う刺さり方を下のを確認すると、そこめがけて魔力を込めた風をたたきこむ。
「爆裂しろ!」
ジェイドの声に呼応するように球体の中の短剣がさらに輝きを増し、次の瞬間に球体は内部から爆発した。暴風と呼べるくらいの風が吹き荒れ、同時に腐臭も鼻を刺す。
球体の破片は一定の大きさを保ったままバラバラと飛んでいくかと思われたが、何かに阻まれたかのように一定の距離から飛んで行かない。
「いまだ、ルチル!」
「わかった」
剣を振りかざし、魔力を込めると刀身に黒い炎が宿る。投げつけるように、剣を一閃させると衝撃波とともに飛んでいく黒炎。
わずかに視認できた青い膜の中に炎が飛び込むと同時に、膜の中で大爆発が起きる。ラピスはそれを見下ろしながら、先ほどよりも小さな龍に乗って彼らのそばに戻っていた。
「はいっ!?」
「ほう、うまくいったか」
「みたいだな」
「二人とも、何したの?」
いまだ爆発を起こし続けている膜の中を見ながら恐る恐る聞いてみれば、二人はあっけらかんとした口調で説明をする。
「簡単に言うと、あれの内部には核となるものがあってそいつを壊さないと何度でも再生しちまうんだ。核をつぶしたくとも攻撃の効かないあの表面が厄介だから内部から、切り刻んで」
「結界の中で爆発を起こさせた。ちなみに爆発を起こす原理を説明するのがめんどくさいから端的に言うと砂の中に私の魔力を混ぜて、お前の魔力で燃えるようにした。そして燃焼が連鎖してあのような結果になったというわけだ」
「意味がよくわからないけど、あの気持ち悪いの倒せた?」
ようやく爆発の収まってきた膜の内部を指させば、たぶんと何とも自信のない答えが返ってきた。
「たいていカーネかリアンに任せてたからな、あれは」
「確かにな。あの【全テヲ腐ラセル物】は」
「それがあれの名称?」
「まぁな」
「また、派手にやったな」
上から声をかけられルチルは何とか上を向くと、あきれた表情をそっくりな顔に浮かべた双炎の魔王がいた。
「リアン、カーネ。どこ行ってたの?」
「いや、ルチルの恐怖の対象が何かを調べに行っていた」
「わからなかったがな。まさかこいつがここに現れるとは思わなかった」
爆発の収まった膜にたいしてラピスが手招きをすると、徐々に収縮しながら彼の手元に球場になってやってくる。
手のひらに収まるくらいの大きさになると、それをリアンに渡す。受け取ったリアンが掌に力を込めると白い炎が吹きあがり灰も残さず消す。
その際に小さな悲鳴が聞こえた気がして、ルチルは眉根を寄せる。四人にも聞こえていたようで、不快そうな表情を浮かべた。
「ルチル、疲れただろう。宿にいって休んだほうがいい」
「そうする」
疲労の色を浮かべたルチルに気づいたらしいカーネが声を変えてきて、その言葉に素直に同意する。動くのも嫌なので、ジェイドに運んでもらった。
宿についた後ルチルはベッドにダイブし、眠りに落ちる。その様子を険しい表情をしたリアンが見ていたことに気付かなかった。
そしてその夜。
ルチルは、宿の外でとある出会いをする。
その出会いがのちのルチルに対して、大きな疑問を残すことになるのであった。
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なかなか更新できずにすみません、思うように話が書けないという言い訳は…させてください…。
話は変わりますが、タイトルに三人と書いてある魔王ですが三人以上いるじゃないかという突込みはなしでお願いします。当初考えていた話とだいぶ変わってきたのでタイトルを変更しようと考えてはいますが、今後の話の展開できちんと魔王が『三人』でてきますので、変えずにいこうと思います。
そこまで行くのにどれくらいかかるかわかりませんが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
感想・評価お待ちしております。




