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三人の魔王  作者: 零夜
第四章 立ちはだかる巫女
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第四十五話 遠見の鏡

「ねぇ、カーネ」

「あん?」

「これからどこにいくの?」

「ん~、リアンが呼んでるから『遠見の鏡』の間に行く」


 なんだそれという顔をして見せれば、カーネは数瞬の間に表情を変えた。哀れみから怒り、苦しみ。そして今の表情が、なんとも言えない微笑だった。

 もしかするともっとほかの表情をしていたのかもしれない。だが、彼が分かったのはそれぐらいだけであった。


「遠見の鏡って何?」


 ルチルは色々な意味で聡かったので、今の表情に対しては何も言わずにただ胸に去来した疑問を口にし、相手にぶつけた。

 その問いに答えたのは別の声だった。器に満たされた水面を震わせる静かで穏やかな声が。


「見たい場所の現在の状況を望むままに、望むものの(まなこ)に映してくれる不思議な鏡だ」

「俺が見たい場所なんてないよ」

「あるだろう。本当はそれに対して気づきたくないだけ」


 柔らかな薫風とともに現れたラピスが、ルチルの顔を覗き込む。リアンよりも淡い金の瞳が何の感情もにじませることもなく、かといって硝子玉のようではない。ただ澄み切った眼差しが彼の深紅の瞳に注がれる。


「生まれた地があの後どうなったのかを知りたい」

「……っ」

「図星だな」


 愉快そうなカーネの声が木立の合間に響く。ルチルはこわばった表情で冷え冷えとした眼差しを向ける。

 思い出したくないことを思い出したせいか、煮えたぎるような怒りを抱え込みつつ「降ろせ」と氷のような声で命令をした。

 カーネはすぐさまその言葉に反応し、ゆっくりと彼を地面へと降ろす。


「下がれ」


 木々の隙間に見える水面をにらみつけると、一言吐き捨てるように言い放つ。あっ、やべというような表情をカーネはし、ラピスは消火の準備といい手のひらに魔力をためる。

 二人の顔には冷汗がびっしりとこれでもかというくらい垂れており、それだけ先ほどのルチルの冷ややかな怒りの声に委縮したと思われる。


「誰がどこを見たいって?」


 刀を抜き放ちながら言い、怒りを込めて刃を振りおろせば。怒りの波動と魔力が混ざり合い真空波となって木々の表面や、枝葉を切り刻みながら水面を一刀両断した。

 じろりと感情の凪いだ瞳でにらめば、二人はそっぽを向いていた。


「何事だ?」

「ルチル、どうかしたのか?」


 上から声が降ってきたので、視線を向ければそこには風をまとった二人がいた。二人ともルチルの顔といまだ二つに割れている水面を交互に見ている。


「別に」


 答えたくないのか、そっぽを向いて簡潔に一言だけ返す。そんなルチルを見ながら、ジェイドが問うような視線を向ければ、ラピスが唇を動かし「遠見の鏡」とだけ伝える。

 それだけで納得したような表情をすると、ジェイドはルチルの目の前に降り立つ。いきなり風が途切れたのでリアンは空中でバランスを崩したが、体勢を立て直しうまい具合に着地する。


「ルチル、眉間にしわを寄せてたらラピスみたいにあと残るぞ」

「えっ!?」


 あわてて自分の眉間を指で触れてみるが後になっている様子はない、ラピスはというと水鏡を取り出して自分の眉間を見た。うっすらだがあとが残りかけている。とりあえず応急処置として眉間をもむことにした。


「ところでさ、お前を大切にしてくれた爺さんの墓ってあるのか?」

「えーと……」


 唐突な問いに面食らった表情をしながらも、記憶を探りあると一言だけ返す。当たり前かと言葉をつづけながらジェイドは、にやりというように唇の端を持ち上げた。


「その墓ってどの辺にあるんだ?」

「本人の希望で王家の墓ではなくて、少し離れた小さな丘のような場所にある」

「なんでまたそんなところに?」

「理由は俺にもわからないけど、たぶん……死しても王家に縛り続けられるのが嫌だったんじゃないかな」


 本当は王族になんかなりたくなかった、ただの平民として生きていけたらなとぼやいていたことを思い出し懐かしそうに笑う。

 その表情を見て、大分怒りは静まってきたなとジェイドは判断をするとさりげなく話を遠見の鏡のほうへと向け始める。


「でもさ、そんな墓でもお前の育ったあの地にあるんだろ。墓参りしたいと思わないのか?」

「思うけど、でも今は帰りたくない」

「じゃあ、様子を見るだけは? 荒らされてたりしたらいやだろう」

「それはそうだけど……」


 でも、というように口ごもるルチルと視線を合わせるように軽くかがみこむと、穏やかな声で言葉をかける。


「俺とラピスはお前の育った場所がどんなところか見たい。お前は祖父の墓を確認すればいい」

「リアンとカーネは?」

「私は他に見たいところがある」


 ジェイドの頭を拳で殴りつけながら、さわやかな微笑とともにいうリアン。うわぁという顔をしつつカーネも、見たい場所があると告げる。

 ルチルは、う~んと少しの間軽く眉間にしわを寄せながら考えると、ようやく決心したように小さくだがうなずいた。


「では行こうか」

「どこにあるの?」

「あの塔が見えるな」


 荘厳な雰囲気のある五階建ての塔をリアンが示す。あの塔一階の奥にあるのだという。

 言われてみれば塔から流れのようなものが四方八方に流れ出しているのが見える、それと同時に彼の、ルチルの目だけには濁った禍々しい光が見えた。


「えっ……」


 あわてて目をこすってみれば、その光はもうないがその衝撃は彼を捉えて離さなかった。なぜだか無性に恐怖を覚え、リアンの手を握りしめる。


「どうした?」

「本当にいかなければならないのか」

「……まぁ、そうだが。本当にどうした?」

「いや、なんでもない」


 喉につかえていた空気の塊を吐き出すと、行こうと小さくつぶやいて魔王たちを促す。


 一歩一歩踏み出すごとに、塔に近づくことに足が重くなる気がした。息苦しさすらも覚えるが、魔王四人はまったく気づいていない。

 

「これはなんだ……」


 ついには立ち止まって、深呼吸を繰り返すがまったく息が吸うことができない。まるで見えざるなにかが、ルチルの周囲から空気を奪ったかのように。

 耳鳴りがし、視界がゆがんだ時。


 まるで時を待っていたかのようにオブの持っていた鈴の音が空間に鳴り響いた。はっとすればいつの間にか息苦しさからは解放されていて、何度か深呼吸をしオブを探すがどこにもいない。

 だが、声だけは聞こえた。


『ルチル、早くこの場から去りなさい。そして魔王のそばからは離れるな』


 その声に背を押されるかのようにルチルは、先に進んでしまっていた四人のもとに走っていった。

 

 もう一度鈴の音が鳴り響くと、まるでそこにいるのが当たり前のようにその場にオブが佇んでいた。彼の隣には、金色の光をまとう誰か(なにか)がいた。

 

「あの子が三人目だ」

『――――』

「あぁ、伝承を。真実の伝承を」


 あの子にとだけ呟いて二人の姿は、瞬き一つの合間に消えた。



「ここ?」


 ルチルは先ほどのことはだれにも告げずに黙々と歩いていた。時折案じるような眼差しをリアンから向けられていたが、それに気づけないほどルチルの心は張りつめていた。


 当の目の前に立った時、ルチルの口からこぼれた声音は硬く張りつめていた。それに彼らは気づいたが、何も言わずにうなずいて見せる。

 入ろうと促されルチルはゆっくりと敷居を跨ぐ、何かを通り過ぎたような感覚がしふるりと身震いする。


「あそこだ」


 薄暗い塔の中で目を凝らせば、奥のほうで七色の光に包まれている台のようなものがあった。その周囲には人々がいて、その台の中を覗き込んでいた。


 なんだか落ち着かない気分になりながらも、傍にいたジェイドの手をつかみ恐る恐る近づいて行ってみる。

 近づけば、それは台ではなく緻密な装飾が側面に掘り込まれた直径2mはあるかと思われる鏡だった。鏡の周囲には仕切り板が等間隔に八つ置かれており、仕切り板の間で順番を待ち、自分の番が来たら覗き込むようになっているらしい。


 ルチル達はそれぞれ見たいものが違うので、別れて列に並ぶ。ルチルはまた息苦しさを感じたが、胸元でオブからもらったお守りが輝きその輝きを見つめていると、気分が楽になった。


「俺の番か」


 目の前の人物が一礼をして去ったのでルチルは進み出て、一段高くなっている場所に足をのせる。視線をあげればちょうど、ラピスが鏡を覗き込むところだった。

 ルチルも真似をして、両手を合わせ一礼をすると鏡を覗き込む。


 磨きこまれた鏡の表面を見つめていると、波紋が一つ二つと固い鏡の表面のはずなのにもかかわらず波立ち、ルチルが見たい風景が現れた。


 それはルチルと祖父のサンドライトがよく二人で訪れた思い出の場所でもあった。それほど大きな木ではないが、薄い水色の小さく可憐な清楚な香りを放つ花を咲かせ、四季の訪れによって葉を様々な色に色づかせた木は変わることなく佇んでいる。空へ向けて、枝葉を伸ばし地に、根を張るその姿は亡き祖父の姿を思い起こさせ、ルチルは幾度となく足を運んだ。


 視線を木ではなく、根元に落とし悲哀に満ちた表情をする。小さな大理石の墓石だが、そこには確かに


 【サンドライト・ティタニア ここに眠る】


 と彫り込まれていた。ルチルはその墓石を静かに見つめ、何かをこらえるかのように一度瞼を伏せ唇の端を噛む。

 瞼を開くと、凍りついた眼差しで次の場所を映しだした。


 そう、彼の生まれ育った城を……。


「……やはり」


 ルチルはある程度補修されている城を見つめる。だが完全に修理されておらず所々いまだに焦げ跡が残っている。

 彼はさらに強く念じ、国王たちがどうしているかを見た。

 そして軽く目を見開いた。


「まさか、こんなことになっているとは」


 驚きを軽く含ませた面白がる口調で言葉を漏らすルチルの深紅の瞳には、一気に老け込んだ国王、やつれた面差しの王妃。厳しい表情で決して弱音を吐くまいとしている第一王子。何もわからずに泣きそうな表情をしている第一王女。


 クックッと喉の奥で笑いながら彼らが見ている紙を覗き込む。そこには同盟という言葉が書かれていたが、ルチルはバカではない。むちゃな要求ばかり書かれている名ばかりの同盟であることが一目瞭然である。


「今まで散々楽な思いをしてきたんだ、少しは苦しむといい」


 国の内政に対してはルチルが口をはさむことがあり、それならばと面倒事を押し付けるかのように政治問題を彼に押し付けてきたのだ。

 何をどのように行ってきたかを知らない彼らは、必死に悩むだろう。そう考えると哀れに思った。


 こうも簡単に、立場は逆転をするのかと。


 ルチルが一礼をすると、鏡は元に戻りルチルの顔を映すだけになった。過去を振り切るように、すでに集まっている四人のもとに小走りで近づく。


「どうだった?」

「荒らされていなかった」

「おお、よかったな」


 塔の中から出ると同時にさっそくジェイドが聞いてきたので微笑しながら答えれば、よかったよかったと頭を撫でられる。

 リアンは静かに微笑みカーネはうなずき、ラピスはほっとした表情をした。


「俺は今が一番楽しい」


 嬉しそうに告げれば、魔王四人は目を丸くしてそれぞれが心の底からの暖かい笑みを浮かべてくれた。

ルチルもうれしくなり一層笑みを深めれば、わぁっという歓声が聞こえた。


 なんだろうとルチルがそちらを向いた瞬間、時が止まった……気がした。

お気に入り登録262件、310,759PV、ありがとうございます!

おかげさまで300000PV突破することができました、これも皆様が読んでくださっているおかげです。

第四章は章タイトルにも書きましたとおり、ルチル達の敵となる存在が現れます。そして魔王の謎と疑問も……。

非情に書きづらい内容なので、またまた更新が遅くなりますが二週間に一話のペースで頑張ってアップしていきたいと思います。


最後に、感想・評価おまちしております

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