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三人の魔王  作者: 零夜
第四章 立ちはだかる巫女
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第四十四話 オブからの忠告

「なんかすごい場所だね」

「まぁな。ここが伝承の残る地だから」


 水の上に立ち、天高くそびえる塔を見上げているルチルたち。赤や黄の色づいた木の葉が水の上を滑り、赤い欄干の橋を人々が幸せに満ちた表情で歩いている。

 彼らが水の上にいても気づかないのは、ラピスが結界を張っているからである。ルチルが素直に感嘆しているのにもかかわらず、魔王たちは険しい表情だ。

 

「伝承の残る地?」

「そう、我らを封じ込めた理由やら古の伝説とかだな」

「……そう」


 リアンの言葉を聞いて、一拍置いて理解すると感動は冷めきってしまった。眉間にしわを寄せて塔を眺める視線は恐ろしく冷たい。


「それでも伝承は知らないといけないだろうよ」

「まぁな」


 嫌そうな苦々しい口調でジェイドは言い、それにカーネが同意する。どういう意味かとラピスに視線を向けてみれば、彼は無表情で全員が立つ水面を見つめていた。

 どうかしたのかと惹かれるように視線を落してみれば、ただ青く澄んだ湖面に自分の姿が映るだけだった。


「ラピス?」

「……なんだ?」


 一拍遅れて返事をしたラピスはどこかぼんやりしたような表情で彼を見返す。珍しい表情に首をかしげれば、同じ角度で首をかしげてくる。


「なにかあった?」

「ちょっと、気になることがあってな」


 気になること? と反対側に首をかしげればラピスも同じように首をかしげる。それは何? と聞いてみたら含みのある微笑をするだけで何も答えようとはしない。

 ムスッとした顔でまた反対に首をかしげれば、彼もまた真似するように首をかしげる。


「お前ら何やってんだ?」

「さぁ?」

「我はルチルの真似をしているだけのこと」

「真似してたのか」


 だから同じ方向に首をかしげていたんだ、とどこかあきれたような眼差しを向ければ首を真っすぐに戻し苦笑された。


「それよりも、伝承ってどういうものなんだ?」


 ルチルの何気ない質問に四人の表情が曇る。俺なんかおかしいこと言ったかなと心配するほど、彼らの表情は暗い。

 そのまま何も言わずに沈黙がおり、何かほかの話題をと焦っているルチルにリアンがぼそりとつぶやく。


「私たちのことだ」

「はい?」

「私たち魔王の間違った伝承が伝えられている」

「それって」


 四対の計八つの瞳がルチルに集中する。どの瞳にも怒りと悲しみと後は読み取れない何かの感情が揺らめいている。

 ルチルは何か言おうと口を開いたときに、誰かが自分を呼ぶ声を聞いた。それと同時に澄んだ鈴の音が幾重にも連なった音を聞いた。


「ルチル?」

「ちょっと、行ってくる」


 おいっという声を無視して、鮮やかに色づく木立の方向にルチルは駆けていく。水の青さと木々の鮮やかな色が対比して美しいが、どこかちぐはくでかみあっていないような雰囲気がある。

 まるで時が止まってしまっているような、そんな感覚をルチルは感じた。


「こっちのほうだと思ったんだけど」

「……聞こえたみたいでうれしいよ」

「やっぱり、オブ」


 木立の中心あたりにまで歩みを進めて小さくつぶやけば、オブシディアンがするりとまるで影から現れるかのように出てきた。

 その手には鈴がたくさんついた輪飾りが握られている。


「俺を呼んだのは、オブだよね?」

「そうだよ、忠告をするために」


 シャンとまた鈴が鳴る。オブシディアンが全く手を動かしていないのに勝手に鈴が鳴り響く。風が吹く様子もなく、まるで時が止まる中に鈴が鳴り響く。


「忠告?」

「君はこれから強大なる敵と対峙するだろう」

「断定?」

「そうだ、これは決まっている運命。ここにきてしまう運命はいつかは来ると思っていたけれどもここまで早いと思わなかった」


 オブシディアンの口調からは苦悩しているように感じられる。意味がよくわからないルチルはただ、彼を見つめるだけである。


「伝承は曲げられ、彼らの記憶も少し改変され、お前にどうやって真実を伝えればいいのか」

「オブ?」

「あいつに頼むしかないか。いや、あいつならばすぐに異変に気づきこの子に接触を図るだろう、私ができるのは……」


 人差し指を唇にあててぶつぶつと呟いているオブは忠告をしているのではなく、まるで自分自身に言い聞かせているように思える。

 おーいと掌を目の前で振ってみようかなと思った瞬間


「避けろ!」


 という声が聞こえルチルは、反射的に右に飛んだ。飛んだ瞬間に風によって威力を増した炎球が彼の今までたっていた場所を通り過ぎた。その威力は地面をえぐり、大気を容赦なく熱した。


 すごいと思った瞬間にハッとしオブシディアンの名前を叫んだ。炎球は彼に容赦なく喰らいつき飲み込んだのだ。

 呆然とルチルが見ている中で、舌打ちが自分のすぐ上から聞こえ振り返ればカーネがそこにいた。


「いきなり何をする」


 ぞっとするほど低い声が聞こえたと同時に鈴の音が鳴り響き、炎が空間に飲み込まれていく。炎が消えれば手を伸ばし、フードの下から漆黒の瞳を輝かせたオブシディアンが無傷で立っていた。


「何用だ、豪炎の魔王」

「うちのルっちゃんがすたこらサッサとどこかに行っちまうから、探しに来てみればてめぇがいたから遠慮なく攻撃させてもらった」

「ルっちゃん?」

「なんか、カーネにはそう呼ばれているの」

「そうなのか、でもいいんじゃないか?」


 良くないと腹の底から声を出して否定する。いいと思うのだがな~とのんきな口調で話すオブシディアンだが、ルチルと会話していた時のような気楽さはない。


「お前ら、なんで少しずれた会話してるんだよ」

「カーネのせいだ」

「お前のせいだろうが」


 返すぞとつぶやくとオブシディアンがのばしたままにしていた腕を鞭のように一振りすると、空間が避けカーネの炎球が飛び足してくる。

 しかもそれは先ほどのものよりも威力を明らかに増していた。


「チィッ!」


 またもや盛大に舌打ちすると金色に輝く炎を生み出し炎球を飲み込ませるカーネ。


「ねぇ、オブって魔力の色は?」

「なんでしょう」

「教えてよ」


 目を凝らしても全く見えず、魔法を返したときでさえ彼の魔力の色は見えなかった。ぶすっとした顔をすればあらわになっている唇が笑みを形作るように弧を描く。


「今度ね」

「もう行くの」

「カーネがうるさいからな。ルチル、ひとつ言っておく。これから伝承を見に行くのならばその伝承を信じることはするな」

「なんで?」

本物(・・)の伝承を知るものが、お前に接触を図るから」


 それではねと手を振るとまるで空気に溶けるように、その姿をくらませた。目をこすってみたがどこにもいない。


「まーた、逃げられたじゃないか。ルっちゃん」

「ルっちゃん言うな」

「何言われた?」

「伝承を信じるな、本来の伝承を知る者が俺に接触を図ってくるから。後は独り言をつぶやいてたな」

 

 それとといいながら、カーネの顔を見上げる。白銀の瞳がルチルを見下ろしていぶかしげな色を浮かべる。

 ルチルは表情に困惑と決意をにじませながら言葉を口にする。


「俺の敵が現れると」


 言葉はなかったが、カーネの表情から驚愕と同時に憎しみが見て取れた。だがその表情はすぐに消え何かを恐れるような表情になる。


「そうか」


 ルチルの意に反して、カーネはそれだけつぶやくとぐしゃぐしゃと彼の頭を撫でる。ポケッとした表情をしていると、よっこいせと問答無用で担がれた。


「降ろせ~」


 じたばたしてもさすがは、体術使い。小揺るぎもしない、そのまま俵抱きされたままルチルはその場を離れたのだった。

 オブシディアンの言葉に不安を抱きながら、そしてその不安を別の感情へと昇華させながらただ空を仰ぐのだった。


 雲一つない青い蒼い空。なぜかその青さが目に染みて、涙が一筋零れ落ちた。

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