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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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水の忠臣

 眠るルチルはとても幼い表情をしてるな。

 唐突にラピスはそう思った。


「ルチルが気になるのか」

「カーネ」

「珍しそうに、眺めていたからな」


 そんなに私は珍しそうな表情をしていただろうか?

 ムニムニと自分の頬を両手でもんでみる、やはりいつもと変わらない無表情だと思うのだが。

 クックッと喉を鳴らすようにして、反対側に座るカーネは笑う。その笑い方は昔とは変わらないが、今は不快に感じる。


 あの町からずいぶん離れた後に、私たちは野宿をするための場所を探した。が、いい場所がないのでリアンとジェイドが、珍しく(・・・)協力して場所を作った。

 といっても、邪魔な草を焼き払いその灰を風でどこかに散らしただけだが。


「二人はまだ見回りか?」

「というよりも、少し気分が昂ぶっているんだろう。ルチルを起こさないように配慮しているんだろうな」


 目を閉じて耳を澄ませば、炎が燃える音と風が荒れ狂う音が小さくだが入ってきた。思わずため息を吐く。

 気持ちはわからなくはないが、少々激しすぎではないか?


「あいつら喧嘩始めやがったな、止めて説教してくるからルチルのことを頼んだ。うなされてたら起こしてやれよ?」

「了承した」


 頷けば、にんまりと笑いながらカーネは立ち上がり木立の合間を縫うようにして入っていった。

 こっそり両手を合わせて二人に向かって合掌しておく。

 あれはどう考えても、暴れずに昂ぶった気を静めるつもりだ。藪をつついて蛇を出したくないので、ルチルの様子を大人しく見ていることにする。


「色々と思うことはあるだろうが、なぜおまえは言わないのだろうな」


 リアンの上着を枕にし外套をかけ地面に丸まりながら寝転がるルチルに聞こえないように思わずつぶやく。

 長い黒髪を地面に広げ、苛烈でどこか寂しげな光を宿す深紅の瞳は瞼の下でどんな夢を描いているのだろうな。


「いい夢を見ていればいいのだが」


 それは無理だと思いつつも、口をついた。

 敵意を向けられ、脅すようにしてあの場を去った。ルチルの記憶は三人から見せてもらっている、あの敵意で、城にいたころを思い出してしまうのではないかと杞憂に思っていたが、うなされることなく静かに寝息を立てている。

 と、思った瞬間表情が歪み苦痛の声がかすかに漏れた。

 そのままじっと観察する。すぐに先ほどの表情に戻るかと思えば、そのままうなされ続け、苦しみ続ける。


「ルチル、起きろ」


 体をゆさゆさと揺さぶって起こす。

 が、眉間にしわを刻み額から汗を流しながら苦痛の声を漏らし続けるルチルは全く起きる気配がない。

 あとで怒られるしかないなと覚悟を決め、手のひら大の水球を出現させるとルチルの顔に落とす。


「っは!?」

「起きたか」

「……冷たい」

「起きなかったから水をかけた」


 淡々と謝罪すれば、髪をかき上げて体を起こすルチル。ぽたぽたと髪から雫を落とすその姿に、自分がやったこととはいえ罪悪感がわく。

 首を左右に振りぼんやりとした声で感謝の言葉を告げられ、さらに罪悪感が増す。後できっちりリアンに怒られなければ、この気持ちを消すことは出来ないな。


「夢を、見た」

「城でのか?」

「違う。もっと恐ろしい夢、声がした、恐ろしい声が」


 耳を塞ぐようにして頭を抱えるルチル。

 その表情は怯え一色で、相当気味の悪い夢を見たらしい。こういう時リアンがいればと思うが、きっとカーネに捕まり説教兼八つ当たりをされているからまだ戻ってこないだろう。

 意を決して近づきそろそろと頭をなでてやる。


「ラピス……?」

「生憎私はこういう時、どんなふうにしてやればいいのかわからないんでな。これが精いっぱいだ」


 不器用に撫でてやれば、さらさらと手の中で黒髪が滑る。何度か手を往復させれば少しずつこわばっていた表情は緩んでいった。どうやら対処はこれであっていたらしい。


「すまないが、どんな夢を見ていたか教えてくれるか?」

「……」

「単語で構わない、そこから拾っていく」

「声、空、光、降る」

「声がした瞬間に、空から光が降ってきて何かあった夢だな。……そこから先は何か恐ろしいことがあったということで間違いないな?」


 私の言った通りに単語を四つ並べ繋げれば憶測をつければ、コクリと頷く。成人しているはずだが、その所作はところどころ幼さを垣間見せる。そういうところにリアンは父性または母性を発揮しているのだろうか?

 思わず、本人聞かれたら焼かれるようなことを考えていればさらにルチルの表情が暗くなった。


「みんなは?」

「見回りにいっているが、二人が喧嘩を始めたらしくカーネが止めにむかった」

「……リアンとジェイドは」

「喧嘩するほど仲がいいと二人の前では言うなよ? 魔法の相性はいいが、昔からすぐに噛みつきあう」


 やれやれとため息交じりに話せばクスリとようやく笑う。怯えの色も薄まり少しずつ安堵の色を見せ始めた。

 これならば三人が戻ってくるまでにもう一度眠ってもらうことは出来るだろう。起きていたら、理由を説明しなくてはいけない。


「ラピス」

「なんだ」

「ありがとう」


 唐突な礼に目を瞬かせる。

 私はただ、カーネに頼まれ事を行っただけ。と告げれば緩く首を振る。


「それでも、ラピスはこうして頭をなでて俺を落ち着かせようとしてくれた。これはカーネに言われたことじゃないだろう」

「それはそうだが」

「だから、ありがとう」


 穏やかに微笑まれ二の句が告げなくなり、思わずうなる。

 リアンが世話を焼き、カーネが見守り、ジェイドがちょっかいを出す理由がわかったような気がする。

 ルチルは私たちに偏見の目を持っていない。それは無知ゆえからか、それとも生来の物なのか。どちらにしても、まっすぐに私たちを見てくれる。それが心地いい。

 普通の家族、愛情を惜しみなく注いでくれる家族を求めているからかもしれない。それでも純真な眼差しはひどくむず痒い。


「お前は私たちの主だろう? 主に尽くすのは臣下の役目だ」

「……家族じゃないの?」

「家族でもあるが、臣下でもある」


 わかりやすくムッとしたルチルに苦笑する。

 ルチルが願ったのは家族になること。だが、それは契約に基づいてのことだ。どうしても私は臣下という立場を気にしてしまう。

 三人はそれをわかっていも願いをかなえるために家族としてふるまっている。


「……その話はまた今度にしよう、ここにいるからまた眠れ」

「わかった」


 しぶしぶ頷いてまた体を横たえたルチルの髪をすくように頭を撫でてやる。不満そうな表情は緩み満足そうな笑みを浮かべ、またゆっくりと眠りについた。


「家族か……臣下か……」


 なかなかに難しい。

 家族になる場合は遠慮なくルチルにぶつかっていかなければならない。が、それは何となく私らしくない。


「ならば、今の私に慣れてもらうしかない」


 一線を引くわけではないが、遠慮なしにぶつかるということもしない。

 家族のような臣下のようなあいまいな立場で、ルチルに接しよう。


「それが私の忠義だ」


 出した答えに私は頷き、ルチルがよく眠れるように頭を撫で続ける。

 戻ってきた三人にほほえましい目で見られたのは、何ともいえなかったが。


 余談だが、ルチルの顔に水球を落としたことをリアンに告げたら、絶対零度の眼差しを向けられた。

 起こすためだと付け加えれば、怒ることはなく殴られることもなく、ため息一つもらっただけだった。 



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