第四十三話 次なる地へ
更新を思いっきり停滞していてすみませんでした。
この話でラピスの章は完結です。
「ほら、いくぞ」
リアンに言われて素直にうなずいて、立ち上がる。パンパンと砂埃をはたいていると大絶叫が聞こえた。あまりのうるささに目を眇めてリアンを見上げる。
「何?」
「ジーギスが死んだことに気付いたようだ。それなりに権力者だったらしいからな」
「そうなんだ」
リアンに肩を貸してもらいながらゆっくりと出口に向かって進んでいく。場内は大混乱に陥っているどういうことなのだろうと不思議そうな顔をしていると、いまだ不機嫌そうな顔をしているカーネが近づいてきた。
「あのバカ」
「どうしたの?」
「ラピスのやつ、それなりに魔力の高い奴らもまとめて殺したらしい。あと権力者たちも」
ここはしばらく大混乱に陥るだろうと吐き捨てるように言い切る。それの何が悪いのだろうと顔をする。権力者を殺したら新しいものがその座に就くのではないのか?
「闘技場の運営だよ」
「ああ、娯楽か」
確かに闘技場の運営者がいなくなったらしばらく闘技場は開催されない。この町の人間の娯楽はなくなってしまうから混乱に陥るのだろう。
それが分かったルチルは思わず苦笑を浮かべる。
「とりあえず宿に戻って、手当てをしよう?」
「えっ? 痛い!?」
「やっぱりな、軽くひびが入っている」
いきなりカーネに脇腹のあたりを触られ、激痛が走り涙目でにらむ。骨にひびが入っているといわれ、いつだというように眉間にしわを寄せれば二人は声をそろえる。
「「魔法がぶつかり合った時のの暴風でひびが入った(んだろ)」」
「さいですか」
んじゃ、いくかーとカーネが転移魔法を使用する。その姿をいろいろな人が殺気のこもっていた眼でにらんでいたのを双炎の魔王だけが気づいていた。
「むぎゃっ!?」
「大丈夫か?」
落ちた場所はベッドの上で、体中に弱いが衝撃が走り痛みも走る。涙目でうずくまれば、リアンが相変わらずの無表情で背中を撫でてくれる。
痛いと涙をこぼしながら見上げれば、リアンはカーネめがけて業火を放つ。だが、それをものともせずに逆に業火を吸収するとルチルに近づいてくる。
「わりぃ。無事か?」
「ちょっと無理」
「わるいな。どうも転送魔法は苦手だ」
頭を撫でられて泣きながらも、大丈夫と返す。その様子を鼻で笑いながら、リアンはルチルの脇腹に手を当てると熱い力を送り込んでくる。
患部が熱くなり、その熱さに顔をゆがめながら耐える。
「これである程度は平気だろう。だが今日はもう戦闘をしないほうがいいな」
「わかった」
「もしも何かあれば戦闘狂の三人が対処するから安心しろ」
にっこりと美しい微笑を浮かべるリアン。戦闘狂? と頭の上に疑問符が浮かんだが前にカーネが言ったことを思い出して一つうなずく。
「それよりも早くここを離れたい」
「どうしてだ?」
「敵意を感じる」
城の中で長い間敵意を感じ続けてきたルチルだからこそわかる、この街全体が彼らに敵意を向け始めていることを。どうしてだろうという顔をしながら息苦しいとつぶやいて服の襟もとを緩める。二人は顔を見合わせて思案顔になる。
「ここで一晩休ませたかったが」
「仕方ない、あそこを始末してとっと出ていくか」
ジェイド、ラピスと二人がそれぞれ呼ぶと険しい顔をした二人がルチルの目の前に現れる。彼らも異常を感じ取っているらしく、各々の武器を構えている。
「今日は野宿だな」
「ルチルは大丈夫か?」
「ああ、それでいい。早くここから去ろう」
御意と四人はを礼をするとすぐさま行動に移る。戦闘狂の三人はそれぞれの魔力を高め、リアンはルチルのことを背負う。
背負われたときに痛みが走り小さく呻いて、顔をゆがませればラピスが小さくすまないといった。
「大丈夫」
「ジーギスの屋敷を処分しなければならない」
「どうして?」
「あそこには古き本もたくさんあってな、あまり人目につけさせたくないんだよ」
なら持って行ってしまえばというルチルの言葉に三人はアッというように、今気づきましたという顔をしました。
どうやら処分することしか考えていなかったらしい。
「それもそうだな」
「ルチルの勉強になるし」
「それに我々が管理しておけばなんら問題ない」
カーネ、ジェイド、リアンの順番で言葉を発しラピスは背負われているルチルに近づくと偉い偉いと言いながら頭をなでる。
嬉しそうに笑いながらも子ども扱いされていることに脹れっ面になる。それに苦笑しながら行くぞとラピスは外に視線を向けながら言う。
「全員、忘れ物はないか?」
「ない」
「ならばよし」
流石がおかんとルチルはリアンにばれないように心の中で呟いて、ジェイドに視線を向ければ同じことを考えていたらしく苦笑をしながら風で全員を包む。
窓ガラスを壊しながら五人は目的地まで飛んでいく。下を見ればぞろぞろと宿に集まってきている街の人々。リアンの髪を引っ張り注意を引けば、彼もそれに気づいたらしくカーネと自分の対に呼び掛ける。
「ん? あぁ、わかった」
アイコンタクトで何をしてほしいかわかったのだろう、彼らの進行を邪魔するように高い炎の壁を生み出した。
悲鳴をあげて下がる街の人々にルチルは腹の中にくすぶっていた怒りの炎が燃え上がるのに気付き、下に向けて手をかざす。
「消えろ」
黒炎が炎の壁と混ざり合い、そこから炎の蛇が現れて次々と人間を飲み込んでいく。肉の焼ける不快なにおいが鼻につき、リアンの背中に顔をうずめる。
「どうした、いきなり」
「ラピスのことを見せものにしていたことに気づいたら、腹が立ってしょうがなかった」
顔をうずめたまま言葉を発するのでくぐもって聞き取りずらかったが、感覚が鋭敏な魔王たちにはそれが聞こえた。やさしい微笑がこぼれて慈愛の眼差しをルチルに向ける。
それに気づいたルチルは恥ずかしさからさらに顔を背中に押し付ける。耳が熱いと思った。
「ルチルはやさしいな」
やさしいラピスの声が耳に滑り込んできて、ちらりとそちらを見れば本当にうれしそう中をしたラピスが彼を見つめていた。
もそもそと動いて顔を隠す。リアンはそれに苦笑し、カーネとジェイドは顔を見合せて笑いあう。
「着いたぞ」
そんな穏やかな時間はつかの間、死と血のにおいが充満するジーギスの屋敷についた。そのにおいから逃れるように鼻をつまみどういうことかと無言で訴えるルチル。
「うるさいから、さっきジェイドと二人で殲滅してきた」
「あっそう」
鼻をつまんでいるので鼻声になっているルチルの適当な返事に気分を害さずに扉を蹴り開けると、まっすぐに書斎めがけて歩いてく。
ところどころに干からびて死んでいる死体があり、不快そうな表情をしながら胃のあたりをさすっていればリアンが振り返る。
「気分が悪いか?」
「うん。ここまで死の気配が充満しているところは初めてだから」
「外に出るか」
「いや、平気だ」
自分の首にまわされている腕がかすかにふるえているのに気付いたが何も言わずにそうかとつぶやき、今いる場所から逃れるように、足早に書斎に向かう。
「これだけだな」
先にいた三人がすでに物色を終えており、積み上げている五冊の本にルチルは目を落とす。一番上の本の表紙の文字はかすれているが、彼にはわからない言葉で書いてある。
「なんて書いてあるの?」
「魔王のこと」
「それだけ?」
意味が知りたくて聞いてみれば、簡潔でしかも全く説明していない一言だけがかえってきた。不満げな視線を向ければ、大人の事情と帰ってきたので俺は大人だと言えば。
「あぁ、そういえば」
「年齢はな」
「見た目は見えるけど」
「中身はがなぁ」
四人の言葉にルチル漆黒のオーラをまとい始める。あっやばいという顔をしたが前言撤回はしない。
「お前らが俺のことをどういう風にみているかがよくわかった」
「ルチル、痛い」
八つ当たり気味にリアンの髪を引っ張れば全然痛がっていない表情で痛いと言ってきた。それに腹が立ちもう少し強く引っ張れば絶対零度の眼差しを向けられたので、素直に手を離す。
「っ……」
「ルチル」
「気持ち悪い。あの時と一緒だ」
ふいに悪寒が全身を襲い、思わずリアンの背にしがみつく。あわててカーネがルチルの顔を見れば、真っ青になっており怖いとうわごとのように繰り返している。
ジェイドが窓の外を見れば、殺気立った人々が屋敷を取り囲んでいる。あれかとつぶやき、ルチルの頭をなでているカーネに合図をする。
それに気づいたカーネは業火を発生させると屋敷全体を飲み込ませた。
「怖い」
「大丈夫だ、ルチル。私たちがいるだろう」
あやすような優しい声に、少しだけ表情を緩めると突然風の壁が視界を覆う。気づけば外に出ており、今のはジェイドが風で屋敷から出るために起こしたのかと納得する。
下を見れば殺気立った人が見えいくつもの瞳がこちらを見ており、ルチルはまた肌が委縮する感覚を覚える。
「我らが行くから安心しろ」
「あいつらすべてを消してくる」
「いや、一部でいい」
かすれた声で今にも飛び出しそうな戦闘狂の三人を制する。なぜと視線で訴えてくるので、恐怖を覚えこませるだけでいいとつぶやく。下を見ないようにリアンの背に顔をうずめながらくぐもった声でつづける。
「そうすれば追ってこない。無駄な負の連鎖は断ち切るべき」
「……それは命令か」
「いや、願いだ」
「お願いされたら仕方ないな」
三人はやれやれというように溜息を吐くと、各々の魔力を開放する。
乱舞し始める炎や風そして水。楽しそうな笑い声が響き始め、ルチルはその光景から目を背けるようにリアンの背中に顔を押し付ける。
「ルチル」
「なに?」
「目をそらすな。これが我らのやり方だ、お前にもやれとは言わない」
だが見て覚えて、そしてついてこいと静かな声で言う。ルチルはその言葉に顔を上げて、魔王三人の戦いを焼き付ける。震えている腕に片手を置いてなだめるようにさすってやる。
「ハッハー!」
ジェイドの笑い声が響き、カーネの炎をさらにあおり次々と人間を飲み込んでいく。すぐに殺さないのは恐怖を植え付けるためというルチルの願いを守っているからか。
ラピスは鎮火作業をしつつも、大剣で叩き切っていく。
「リアン」
「どうした?」
「俺は、強くなれるかな?」
「なれるさ」
ルチルが何を思ったのかはわからないが、小さな小さな問いかけにリアンは静かに答えた。
「そろそろ行こうよ」
「そうだな」
リアンは手を天にかざす。そこに炎が生まれ、鳥の形を模した。彼はその上に飛び乗ると、指を鳴らして合図する。三人は不満げな表情をしていたが、意図を察し次々と鳥に飛び乗る。
「聞け、愚かなる者どもよ」
「死にたくなければ、我らのことは不用意に語るな」
ルチルは眠いとつぶやいてリアンの背に顔をうずめる。本当は今の状況を視界から締め出したかったのだ。ギュッとリアンの服をつかむ手に力がこもる。
「もしも、それを破れば」
ラピスが指を鳴らせば、今までの数倍大きな水龍が現れる。それを見て生きている人間たちはどよめく。ラピスはその龍を町の中央にある噴水と同化させる。
「龍の牙が貴様らを食らい尽くすだろう」
朗々と語ると合図を送る、リアンは炎の鳥を操りその場から飛び去っていく。三人は戦い足りないという表情をしているがルチルの暗い表情に気づき何も言わない。
本人はというと何かを考えているかのように、暗い瞳で空を見つめている。その手はオブからもらった十字架を握りしめかすかに震えている。
「……だな」
「ルチル?」
「なんでもない」
小さくつぶやいた言葉が聞き取れなかったのか、リアンが振り返る。黄金の瞳を見返し、なんでもないと言葉とともに首を振る。
そうかとうなずいて、進路をとる。魔王たちは視線のみで会話をしており、ルチルは何を考えているかわからない。だから一人の考えに没頭することができた。
――考えを改めていかなければならない。あの夢はなんだったかも突き止めていかなければならない。やることは多すぎる、だがそれでもいい。この温もりを手放したくない…――
「だから、強くならないと」
リアンの背中にすり寄ると、優しく手招きする睡魔に身をゆだねる。
魔王たちはそれに気づき顔を見合わせると、小さく苦笑し合った。
次なる地で因縁の再会が、宿敵との遭遇があることをいまだ誰も気づきはしなかった。
はい、長いこと停滞をしていてすいませんでした。
かなり忙しく、話もなかなか出てこなくてここまでずるずると引き伸ばしておりました。
前書きにも書きましたとおりに、ラピスの章はこれで終了です、(閑話を一話入れますが)。
次の章では魔王の因縁の相手であり、ルチルの敵となる集団との遭遇話になりまあす。
更新は不定期になってしまいますが、地道に更新していきますので読んでやってください。
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