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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第三十九話 遠ざかる意識

本当にすみません約5ヶ月間投稿をせずに。

私生活が非常に忙しかったのもありますが、話がなかなか出てこなかったんです。


では、約5ヶ月ぶりの続きをどうぞ。

 二人の刃がぶつかり合い、すさまじい衝撃が生まれる。セレスが飛ばしてきた短剣を軽々と避けると、横に凪ぐように一撃を入れようとする。

 が、それは距離をとられることで避けられてしまった。


「やっぱり、そう簡単にはいかないか」

「……クス」


 距離をとりながら小さくごちるれば、小さく笑う声が聞こえた。ゆらりゆらりと動きながらもまったく隙を見せない。

 今まで、闘ったことのない実力の相手にどう攻めようかと考えていると、


「よそ見してていいのか」


 はっとすれば、全方向から短剣が自分めがけて飛んできた。驚愕に仮面の下で瞠目しながらも一回転するように弾き飛ばせば、セレスが降ってくる。


 それを後ろに飛んで避け、いったん距離をとると手のひらを掲げ黒炎をその手のひらに灯すと、セレスめがけて放つ。だが、セレスは薄ら笑いを浮かべたまま自分を風の魔法で浮かせ、更に暴風によって炎をもみ消した。


 ルチルは炎が消える前にその中に飛び込むと、降りてきたセレスめがけて刃を一閃する。が、それは軌道が読まれてしまいやすやすと受け止められ、蹴りという反撃を食らってしまう。


 これだけの攻防の中でルチルは軽く肩で息をしている。対するセレスは、薄ら笑いを浮かべたまま平然と立っており汗の一つもかいていない。



「変に力が入りすぎている」

「だな」


 眺めていたリアンがボソリとつぶやけば、苦々しい表情でカーネが同意する。


「どうするんだ?」

「このまま様子を見る」

「だが!」


 ルチルの勝ち目が薄いことがわかってしまったジェイドが声を荒げる。リアンは静かに手出しはしないということを告げれば、ラピスも静かにそれに同意する。


「ルチルのためでもある」

「それにここで倒れられても困るが、これまでの実力だったということならば」

「見捨てるというのか?」


 ラピスは薄い金の瞳を動かして、眉一つ動かさずにうなずく。カーネを見れば冷たい眼差しをしている。


「お前は昔から情に厚かったからな」

「それは、ラピスの言葉に同意しているということか」

「さてな。そう聞こえたのならばそうなんだろうなぁ」

「リアン!」


 吼えるようにジェイドが静炎の魔王の名を呼べば、相変わらずの無表情でジェイドのほうを見ようともしない。

 つかみかかろうとするが、ぴたりと止まる。腕にかなりの強さで爪を立てているのがわかったからだ。


「少し落ち着け、ルチルはこんなところでやられるわけがない」

「リアン」


 ようやく彼のほうを見たリアンの黄金の瞳は苦しみに染まっていた。今すぐ手を出したくてたまらないのだろう。


「ルチルに何か言われたのか?」

「言われてはいないが、後で文句を言われそうだ」


 ちらりと横目で見れば、苦戦しているのにもかかわらず楽しそうに孤を描いている口元が見えた。やれやれといわんばかりにため息を軽く吐く。


「だが、いやな予感がする」

「なぜだ?」

あいつ(・・・)がきていたんだよ。しかもルチルにお守りを渡していたしな」

「それは……」


 ラピスの顔がみるみるうちに青ざめていく。口ではなんと言っていてもなんだかんだで心配らしい。カーネは更に渋い顔をし頭が痛むかのようにこめかみを押さえる。


「ルチルが……ん?」

「リアン、どうしたって……おんやぁ?」


 二人は何かに気づいたように視線をさまよわせ、お互いに顔を見合わせる。きょとんとした顔で何度か瞬きをし、同時にルチルのほうを見る。


「二人とも」

「なんだ?」

「ちょっと、よろしく」

「少し切り離す(いってくる)


 二人が瞼を伏せると、彼らの体から何かが出て行ったのが見えた。と同時に、体の力が抜けジェイドは無言で崩れ落ちかけた二人の体を風で支える。


「これは、呼ばれたってことか?」

「だろうな」

「ということは、やはり」

「そうだな。淵に行くのだろう、ルチルが」



 風に乗って飛んでくるナイフを叩き落しつつ、数本は弾くようにしてセレスに向けて飛ばす。


「なかなかやるようだな、ならばこれはどうだ?」


 ルチルを中心に竜巻を起こすと、そこにどこにしまってあったのか大量のナイフを投下してきた。ナイフは風に揉まれ不規則な動きでルチルの全身を切り刻む。


「くっ、そ……」


 一つ一つの傷は致命傷には至らないが、風によって自分の血飛沫が飛ぶため視界が悪くなる。叩き落している最中に一本のナイフが眉間に突き刺さる。仮面にひびが入り、縦に割れてしまう。


 埒が明かないと悟ったルチルは、風の回転方向を感じ取り逆回転の竜巻を発生させ、相殺させると魔力を刃にまとわせ、斬撃をセレスめがけて飛ばす。

 それはセレスの肩を切り裂き、かなりの手傷を負わせた。


「仮面のこと、どうやって謝ればいいんだよ」

『そんなことよりも、集中しろー!』

「うおっ!?」


 どこかずれていることをつぶやけば、ジェイドの怒声が耳に響きびっくりする。体勢がよろけ、ひゅっという音が耳に届く。どうやら眉間にめがけて短剣が放たれていたらしい。


 傷は深くはないが、さすがに多いので血が少し足りなくなってきている。そのせいか視界が少しぐらぐらとゆれる。それでもルチルは刀を構えた。


「弱いな」


 そんな彼に向かってボソリと、だがあざけるようにセレスは弱いという。

 ドクンとルチルは鼓動がやけに大きく聞こえた。彼がまとう殺気が、底冷えするような冷たいものに変化し、ぎろりと相手を睨みつける。


「お前は、弱い。これならお前の仲間を殺っていたほうがましだ」

「なんだと……」


 ルチルめがけて放たれる短剣と同時に、彼の家族こと魔王にも放たれる短剣。ジェイドがすべて風で弾き飛ばすが、それを見たルチルの瞳に怒りが燃え上がる。


『爆発することなく、静かにもっている怒りだよ。その怒りを爆発させたら君はある意味で理性をなくし、運が良ければ(・・・・・・)片腕一本だけなくして生きられるだろうね』


 そんなオブシディアンの言葉が耳の奥によみがえった気がした。冷水を浴びせられた業火のように怒りが鎮火していくのを感じたが、


「魔王にお守りをされるだけしか出来ない、お坊ちゃんだからな。お前は」


 今まで隠していた狂気をあふれ出させるように、奇妙な笑い声とともに投げかけられた言葉にルチルの怒りは燃えあがり彼は理性をなくす。


「貴様は、殺す!」


 吼えるように叫ぶと、剣をリングに指し剣を解してリングに魔力を流す。


「行けっ!」


 ルチルが何かを呼び出すように手を下から上へと振り上げれば、黒炎の柱がセレスを取り囲むように四方から吹き上がり、蛇のようにうねり狂気を宿す男を喰らいつくすと言わんばかりに迫る。

 セレスは高笑いをしながらそれを避けていくが、ルチルの猛追はとまらずにすさまじい熱気が観客席にまでにまで及ぶ。


「おい、まずくないか」

「まずい。熱すぎる」


 ラピスは魔力を放出すると、リングだけに円筒型の結界を施す。それだけで熱気はだいぶ収まるが、セレスが風の魔法を使用するので熱風が顔をたたく。


「ありゃ、理性をなくしてる」

「怒りで我を忘れてるみたいだな」

「そりゃ、あんなこと言われればな」


 ルチルは、どん底のような人生を送ってきたのだ。死に物狂いで手に入れた実力を侮辱されれば理性をなくすほどに怒るだろう。

 だが、今はその怒りは命の危機(・・・・)を招くほどに危険なものだ。


「やつの狙いは、大技で隙が出来たルチルを」

「あぁ、殺すことだろうな。魔王(俺たち)のことも知っているようだし。これで世界(あいつら)と関係があるって言うことはわかった。手助けするぞ」

「そうだな……なんだこれは」


 二人が飛び出そうとした瞬間、目に見えない強力な力でその場に体が縫いとめられた。渾身の力を振り絞っても指一本すら動かすことが出来ない。


「これは」

「二人目か。あの馬鹿、ルチルを見殺しにするつもりかよ!」

「いや、そうじゃないだろう。じゃなきゃ、二人が」

「そうだな」


 双炎の魔王のほうを見てラピスが苦々しい口調で告げ、その言葉で頭が冷えたジェイドは暴れるのをやめ、ようやくおとなしくなる。

 だが、表情は悔しさと憎しみに満ちており負の感情によって荒ぶる竜巻がいまにも起きそうなほど魔力を放出しかけている。


「ルチル、頼むから……目覚めた(帰ってきた)ときには冷静になっていてくれよ」



 埒が明かないとルチルは悟ったのだろう、黒炎を一つにまとめセレスをのみこませる。

 相手は驚いた顔をして黒炎に飲み込まれた。さすがのルチルも疲れた顔をして、片膝をついて肩で息をする。


「終わったか?」

「甘い……な」


 小さなつぶやきは、黒炎が弾けとぶと同時に返されたセレスの声によってかき消される。


「しまっ……」


 油断をしていたルチルはセレスの接近を許してしまい、腹部に打撃を受けリングを転がる。それをセレスが追ってきて片足で彼の胸を抑えつけると、刃を太陽にかざす。


 衝撃で髪紐がちぎれ、漆黒の髪が扇のように広がる。ルチルの宝石のような赤い瞳に映るのは今まさに自分の命を刈り取ろうとする、銀色の刃。


「終わりだ、無の魔王」

「くっそ」


 ラピス、ジェイド、カーネ、リアンの顔が浮かびそして最後に自分を愛してくれた祖父の顔が脳裏に甦った。なぜか無性になきたくなった。


「さらばだ」


 セレスは何の躊躇もなくルチルの心臓めがけて、刃を振り下ろした。


 ずぶりと刃が刺さる感触に、彼の息は詰まり意識が遠ざかる。


 俺は死ぬのか……? 意識の端で考えられたのはそれだけだった。


 意識が完全に途絶える前に視界に入ったのは、前夜にオブシディアンから渡されたお守りから発せられる銀色の光だった。

 優しい光をつかもうと手がわずかにすべり、ゆっくりと落ちた。

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