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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第三十八話 オブシディアン

決勝の前のちょっとしたお話です。

「……ふぅ」


 準決勝が終わった夜。ルチルは一人町外れの丘にまた来ていた。今回は十分警戒をしているが、夜風に漆黒の髪を遊ばせ、深紅の瞳に疲労の色を浮かべている。


「気が昂ぶって眠れないな」


 誰にともなくつぶやいて、首を回す。ごきりという音がして、顔をしかめるが何も言わずに今度は肩を回す。


「心配しているかな?」


 ちゃんと言ってきたには言ってきたが、聞く耳を持たずの様な感じだったからなぁと魔王たちの様子を思い出して苦笑を浮かべる。

 三人となぜかラピスがいて、真剣に話し合っているかと思えば額を突き合わせて黙り込んでいるだけだった。リアンに外に出かけてくるといったが、ちゃんと聞いていたかはわからない。


「まったく……」


 やれやれといわんばかりの顔をしていると、


「こんばんは」

「っ!?」


 涼やかな声で夜の挨拶をされて振り返れば、いつのまにかそこには黒いローブを纏った人影が立っていた。裾には銀色の糸で何かの紋章が縫い取りされており、ルチルはどこかで見たことのあるその紋章に眉間にしわを寄せる。


「おや、そんなに眉間にしわを寄せては取れなくなるよ」

「なっ!?」


 いつの間にか目の前には人影が立っており、声からして男と思われるが女のように細く白い指で眉間のしわを撫でられ、飛び退って距離をとる。


 警戒を緩めたわけではなかった。なのに気づかなかった、冷や汗が流れるのを感じつつそう思う。まるで空気のようにするりとルチルの間合いに入ってきたのだ。


「思い悩んでいるように見えて、声をかけさせていただいたのだがね」


 違ったかな? と緩やかに首をかしげる男に警戒をさらに強める。だが、どこか懐かしい(・・・・)という感情がこみ上げてくる。


「貴様は何者だ」

「何者か……」


 なんと答えるか考えるように唯一あらわになっている口元に白い指を当て、ふむといい考え込む。


「ん~、君の味方というところかな」

「どこにも確証はないから、信じるわけにはいかない」

「……そうか」


 少し残念そうにつぶやき、どこかさびしそうな雰囲気を醸し出す。ルチルは自分が刀の柄に手を伸ばさないことに今気づいた。


「でもこれだけは聞いてくれないか?」

「なにを?」

「君は今のままでは負ける」


 驚愕にルチルは言葉を飲み込み相手を凝視する。男は何も言わずに静かにその場にたたずむ。二人の間を夜風が吹きぬけていく。

 男のローブから漆黒の髪が一房こぼれだし、風に遊ばれる。


「理由がわかっていないようだね」


 空気のようにするりと気づいた時には自分の間合いに入ってきており、また対処できなかったルチルは距離を取ろうとするがいつのまにかがっちりと腕を掴まれており、離れることができなかった。


 反対の手で自分の瞳を示される。その指には七色に輝く水晶のような石がはめ込まれた指輪をしていた。

 自分の腕をつかんでいる手から強力な魔力を感じて視線を、そちらにずらせば黒に金色の粒子がついた宝石のはまった指輪をしていた。


「メテロ?」

「……聞いているのかい?」

「っ!?」


 ぽそりと前に見たことのある同じ魔力を放出している宝石の名前をつぶやく。返事がなかったことに少々いらだったのか、先ほどよりも冷たい声が耳に滑り込み腕をつかむ手に力が込められる。


「理由?」

「そう、理由」


 言い知れない恐怖が全身を支配し始めるが、何とか体が震えるのを抑え込み強い光を宿して言葉を繰り返す。


「君は表面には出していないが、心の奥底に氷のように冷たい怒りを抱え込んでいる。瞳に怒りの光が見える」

「冷たい怒り?」

「爆発することなく、静かにもっている怒りだよ。その怒りを爆発させたら君はある意味で理性をなくし、運が良ければ(・・・・・・)片腕一本だけなくして生きられるだろうね」


 君はどうしてそんな怒りを抱え込んでいるんだい? と歌うように告げられどうしてかわからないルチルは困惑した表情で男を見上げる。

 男は軽く首をかしげる。その際にちらりと漆黒の瞳が見えた。


「わからない」

「わからない……か」


 しばらく沈黙した後ようやくつぶやくように答えたルチルに、特に感情を込めるわけでもなく淡々とルチルの言葉を繰りかえす。


 まるで影のような男に今度はルチルから疑問をぶつける。


「あなたは本当に何者なんだ?」

「だから、君の味方」

「ならば、ラピスを解放しかけている男の部下?」

「あんなのと一緒にしないでくれるかい」


 心底嫌そうな顔で言う男に、じゃあ何でという顔をする。警戒心はいつの間にかどこかにいっていた。男は楽しげな様子で口を開く。


「いずれわかるよ、ルチル」

「俺の名前を!?」

「君たちが話しているのを少し小耳に挟んだだけだよ。あぁ、他人に入っていないから安心しなさい」

「なら、あなたの名前も教えろよ」


 何時までもあなたと呼び続けるのは気分が悪いと、少し拗ねているようなぶっきらぼうな口調で言えば、そんな心情を知ってのことかくすくすと笑いまた歌うように告げてくる。


「オブシディアン」

「オブシディアン?」

「気軽にオブって呼んでくれてかまわないよ」


 オブシディアンの周囲に花が舞ったような気がしたが、気のせいだろうと思いつつ目をこする。


「さてと、本題に戻ろうか」

「さっきの俺が怒りを抱え込んでいるというやつか?」

「そうそれ」

「俺がこのままでは負けるって本当なのか?」

「本当だよ」


 ごまかさずにきっぱりすっぱり言い放つ。一瞬も悩まずに即答してくれた。ラピスのためにも負けるわけにはいかないのにと、唇を引き結ぶ。

 そんなルチルの額を指弾するオブシディアン。涙目になって額を押さえるルチルを見下ろし彼は軽く笑う。


「そうやって思いつめるからいけないんだよ」

「えっ?」

「君自身は純粋に戦いを求めている。強くなりたいから」


 そうだろうといわれ、首を縦に振って首肯する。だが深紅の瞳はさまざまな感情で揺れている。

 オブシディアンは今までつかんでいたルチルの腕を放すと、さらりと彼の髪を混ぜるようになでる。その手が心地よくて、振り払うことはしない。


「ならば、明日の決勝は自分の力量を試しさらに高めるために戦えばいいんだよ」

「そんなことできるかわからない」

「だろうねぇ、だからこれをあげよう」


 そういって差し出されたオブシディアンの手のひらに載っていたのは、黒い宝石のついた銀の十字架のペンダントだった。

 とりあえず手を差し出し自分の手のひらに置かれるのを眺める。


「お守りだよ」


 手のひらの上で冷たく煌く十字架を見つめながら、本当に信じても大丈夫なのだろうかという疑問を持つ。いつの間にか警戒を解いてたが得たいが知れないことには変わりがない。


「それは君が命の危険に陥ったとき一度だけ守ってくれるよ」

「どうして?」

「ルチルに命を落とされたくないからね」


 屈んで視線を合わせて今までとは違った響きを持つ言葉をかけてくる。まるで大切な人に言葉をかけるような慈しむような眼差しを向けてきながら。


 ルチルはとりあえず信じてみることにし、ペンダントを身に着ける。その様子をうれしそうに見つめてくるオブシディアン。

 その様子が誰かに似ていて、口を開いた瞬間。


「ルチル!!」


 空気を切り裂くように自分の名が呼ばれ、同時に腕をつかまれオブシディアンから距離が離される。

 目の前を流れるのは二つの深紅。


「カーネ、リアン」

「ふむ、家族が迎えに来たようだね」

「オブシディアン」

「オブでいいよ。聞きたいことがあるようだけど、今はだめそうだから今度ね」


 唇に人差し指をつけてにっこりとあらわになっている口元が笑う。そんな彼の頭をカーネの鋭い蹴りが襲うが軽がるとそれを避ける。


「ルチル……」

「俺は出かけるといった」

「なんであんな得体の知れないのと一緒にいる」

「気づいたら間合いの中にいた。警戒してたはずなのにいつの間にか」


 リアンのにらみにびくびくしながらも、答えることは答える。彼は自分の対の体術を軽々と交わしているオブシディアンの方を見るとここにいろとルチルに告げ、炎の槍を作り出すとそれを振りかぶって投げつける。


「危ないな」


 炎の槍は難なく避けられたが、体勢の崩れたところにカーネの拳が叩き込まれる。だが、その拳を軽々と受け止めてしまった。


「ふむ、ここから先の話はルチルには聞かせられないからな」


 オブシディアンはルチルのほうを見ると右の手のひらをかざす。そこから魔力のようなものが放たれルチルを包み込むとふらりとよろめいて倒れ込む。


「ルチル!」

「貴様!」

「はぁ、まだわからないのか。カーネ、リアン」

「なっ!?」


 オブシディアンは無言で少しだけフードをずらす。フードの下から現れた顔に二人は硬直する。


「お前は」

「来れたのか、この場に」

「影だけだがな」


 今までと違った話し方をするオブシディアン。二人は驚愕の表情を崩そうとしない。そんな彼らの横を通り過ぎてルチルの傍に片膝をつくと、抱え起こす。


「ルチルを頼むぞ」

「そんなこといわれなくてもわかっている」

「そうか」


 空気を震わせるように笑うと、ルチルをリアンに渡しその頭を軽くなでるとまるで幻のように掻き消えるオブシディアン。


「まさかあいつが来るなんて」

「何かが起こるんだろ」

「だろうな」


 穏やかな寝顔を見せているルチルを二人で見下ろし、顔を見合わせると戻るかとどちらかがつぶやき三人の姿はそこから消えた。




「ついに決勝か」


 目元に仮面をつけたルチルはリングにつながる道を歩いていた。今朝気づけば既に宿屋で、双炎の魔王に何を聞こうともはぐらかされ夢だったのではないかと思う。


 身に着けているペンダントの重みが夢ではないと告げてくる。今日は下ろしている漆黒の髪を揺らしながらルチルは歩く。

 コートは着ていない、激闘になるから少しでも軽くするために脱いでいけといわれたのだ。あのコートは気に入っているのでぼろぼろにされても困ると考えつつ


「とりあえずセレスは叩き潰す。それだけだ」


 自分に告げて一つ頷くと歓声が降り注ぐリングに出る、階段をのぼり先に立っているセレスと視線を合わせ静かに抜刀した。


「待っていた」

「貴様は必ず倒す」


 セレスはただにやりと笑うだけ、ルチルもつられるように冷たい微笑を浮かべるとドラの音が鳴り響くと同時に両者は駆け出した。

こんばんは、零夜です。

お気に入り登録176件、167,848PVありがとうございます。


ちょっとしたお話という割には長くなってしまいました(汗)

影の人の名前は「オブシディアン」です。補足ですが黒曜石のことです。


次話から決勝です。

セレスとの戦いです。今までにない強敵なのでルチルは結構苦戦するでしょうね。

そして私も苦戦するのです、戦闘描写に。


何とかがんばって書くので皆様もう少しお付き合いお願いいたします。


感想・評価お待ちしております。

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