第三十七話 疑問
「強くならないとなぁ」
「どうした?」
「……起きてたのか?」
ベッドに寝転がりながら、自分の両手を見つめて静かにつぶやくと音量をぎりぎりまで抑えたささやくような声が耳に忍び込んできた。
一回、目をつぶって暗闇に慣らし瞼を上げて窓のほうへ視線を向ければ、片足を立てて窓枠に座っているリアンが見えた。
かすかな煙の臭いがしたので、目を凝らせばリアンは片手にタバコを持っていた。先端は赤々と燃えており細い煙が立ち昇っている。
「煙草?」
「まぁな」
「どうして起きてたの?」
「あまり睡眠は必要ないからな、起きてた。色々と考えたいこともあったしな」
「そう」
寝ようにもまた目が冴えて眠れないので、リアンと少し話すことにした。彼のほうに体の向きを変えれば、リアンもそれがわかったようで寝ろとはいってこなかった。
「リアンはタバコを吸うんだな」
「全員吸うぞ。われらの体は煙草如きでどうにかなる軟な体ではない」
「そうなんだ、俺は臭いが嫌いだから吸いたいとは思わないが」
「そうか。消そうか?」
「いや、それくらいなら平気だ」
赤々と燃えている煙草の先端を見つめながらルチルはぼんやりとした表情で言葉を紡ぐ。リアンは細く窓を開けると先端を、窓の外に向けて煙を外に逃がす。
「それよりも」
「何だ?」
「聞きたいことがあるのだろう?」
そんなことないと言おうとしたが、彼の金色の瞳はルチルの真紅の瞳をとらえて離さなかった。あるのだろうと、もう一度静かな声で問いを誘うように告げる。
「なんでわかる?」
「おまえは顔には出さないが、瞳が雄弁に語る。何からしらを考えているときには瞳がよく動いている」
ルチルは何度か口を開閉させ、やがて意を決したようにリアンの瞳を見つめるとジェイドやラピスにぶつけた質問をぶつける。
「魔王は何に対して復讐をするんだ?」
「……」
「ジェイドやラピスが言っていた『世界』とはなんなんだ?」
リアンは答えないというよりも答えられないといったような表情だった。それでもルチルはたたみかけるように疑問を口にする。
「お前たちは何をしたいんだ?」
「なにをか」
「そして世界に流れる奇妙な空気は何なんだ?」
「それは……いつ気づいた?」
「そんなことはどうでもいい。『魔王』っていったい何なんだ?」
ルチルの静かだが、激情をはらんだ声音がリアンに向けて放たれる。彼はしばらく目を閉じて、何かを考え込んでいた。
煙草の煙が細く開けられた窓の隙間から入ってくる風によってゆらゆらと揺らめく。
「答えられることと、答えられないことがある。それでもいいか?」
「…………わかった」
やがて、リアンが口にした言葉には苦渋の色が混じっており、ルチルは不満そうな顔をしながらもうなずいた。
「『魔王』というのはただの呼び名だ。特殊な強い力を持つな」
「そうなのか?」
「本当は『魔王』ではなく『真王』が恐れられる……のか?」
「わからないのか?」
「我らの身近にいたからな」
くつくつと喉の奥で笑い、その時のことを思い出したのか懐かしそうな表情を浮かべる。ルチルは意味がわからないというように何度か瞬きをする。
「どんな人?」
「人、確かに人だったな」
「リアン? どうしたの?」
ルチルが静かに問うと彼は泣きそうな表情をする。今まで見たことのない表情にルチルは驚いて、ベッドから降りるとリアンのそばに行く。
夜の空気は少し肌寒くくしゃみをしたが、リアンを見上げる眼差しは真っ直ぐで外されることはない。
「ちょっとな。お前もいずれ会うことになる。一人目と二人目にな。」
「えっ?」
「まだ知らなくて良いことだ」
諭すような言葉に釈然としない表情をするルチル。その表情を見て静かに笑うとタバコの煙を吸い窓の外に向けて煙を吐き、彼から視線を外すリアン。
しばらく沈黙が流れる。そろりとリアンがルチルのことを見れば、うつむいていて何かを考えていた。
「リアン」
「ん?」
動揺している声で名を呼ばれ、短く返事をすると弱弱しい力で肩を掴まれる。
「『真王』ってなに?」
「それは時が来るまで教えられない」
「そう。じゃあ、さっき聞いた俺の質問に答えて」
「それはかまわないぞ」
困惑しているルチルの表情をみて、リアンはただ黙って目を細めたが何も言わずに質問を思い出し一つ一つ何から答えるか考え始める。
「その前に」
「前に?」
煙草を一瞬で燃やし、手を離させるとベッドに行けと言う。ルチルは渋々ベッドに戻る。リアンは風邪をひかないようにとちゃんと毛布をかけてやると、ベッドの端に座って足を組むと答え始める。
「われらは『世界』にたいして復讐をする」
「『世界』?」
「この地すべてというわけではない」
「じゃあ、何に?」
「『世界』を動かすことのできる力を持つ末裔をだよ」
リアンの金色の瞳に憎しみと怒りの炎が燃え上がり、少しだけ呼吸をとめる。それに気づいたように瞼を閉じてその光を消すと、軽く微笑む。
「そして『魔王』もな」
「…………えっ?」
思わず起き上がって静炎の魔王の顔を見つめる。彼はただ静かにもう一度同じ言葉を繰り返した。
「『魔王』も『世界』を動かすことのできる力を持つものだ」
ルチルは目を驚愕で大きく見開き、呆然と暗闇に光るリアンの金色の瞳を見つめ続けていた。
『さぁ、みなさま! お待ちかねの準決勝第2戦目! コーラン選手対レイテッド選手! どちらも若手ながらに圧倒的な強さでこの準決勝の舞台まで駆け上ってきた!』
リング上にいる深緑の髪をゆるく編んだコーランは、その甘いマスクで女性に笑みを向けていた。会場からはキャーキャーと黄色い声が沸きあがる。
「審判、レイテッド選手は?」
「もうすぐこられるそうです」
「そうか。遅刻してくるなんて、いけない相手だねぇ」
ふふふと優雅に微笑みながら、自分の武器である曲刀の刃に自分の顔を映す。そして勝つのは僕だ!と既に勝利宣言までしてしまう。
「あれ、あほか?」
「あほだな」
「あんなのにルチルが負けるわけないよなぁ。なっ、リアン」
会話をしていたカーネとジェイドが、先ほどから何もしゃべらないリアンを振り向けば、なにやら冷や汗を流しまくっているリアンがいた。
「どした?」
「昨日、ルチルに『魔王』と『世界』のことを少し話した。あと『真王』のこともごく僅かに」
「ほうほう。そろそろ疑問に思うころだろうなぁと思っていたが、それで」
「今、すごく機嫌が悪い」
「だれが?」
視線をリングのほうに向ければ、唇の端を引きつらせるカーネとジェイド。異様な雰囲気を纏ったルチルがいつの間にか、コーランの目の前にいた。
『おーっと、レイテッド選手がいつの間にかコーラン選手の前に現れていたぞ!』
「俺は今ものすごく機嫌が悪い」
「それで?」
「ギブアップするなら今のうちだぞ」
「君のほうこそしなくて良いのかい?」
「試合開始になってから言っても遅いからな」
審判のほうに視線を向け頷いてみせる。審判も彼の視線を受けて頷き、試合開始と大きく叫ぶ。
コーランが先手必勝とばかりに切りかかってくるが、ルチルは刀を抜くこともせずに拳を下から上へと振り上げ、彼の顎を捉えて殴り飛ばす。
落下地点にまでかけていくと、落ちる前に飛び上がり思いっきり蹴り飛ばし、リングに叩きつける。
「何であんな機嫌悪いの?」
「実はな」
リアンは遠い目をしながら、ルチルとの会話を話し始めた。
「どういうこと、リアン?」
「そのままの意味だ。強い力は世界の歴史に干渉し有を無に変えることができる」
「それが『魔王』の力?」
「正確に言えば、我らは時を制する番人のようなものだった。いっただろう『世界』を動かす力を持つものがいるとそいつらが少々歴史を書き変えてな」
やれやれといわんばかりの表情でリアンはため息を吐く、聡いルチルはそれだけでわかったらしくこめかみに青筋を浮かべた。
「お前たちを悪とし、歴史を捻じ曲げたか」
「まぁ、簡単に言えばそうなるな。ほかにも複雑な事情はあるのだがな」
「へぇ、そう」
「……ルチル?」
そろりと彼の顔を覗き込めば、無表情に怒っていた。たらりと冷や汗が流れるのをリアンは感じた。
「標的は誰だ?」
「とりあえず、あのセレスという男だな」
「あっ、そう」
わかった、寝る。といってさっさと寝てしまったルチル。もしかして堪忍袋の緒が切れたかとルチルの寝顔を見ながらそんなことを思ったリアンであった。
「ということがあった」
「……とりあえず八つ当たりっぽいなぁ」
「だな」
リングではルチルがコーランを素手でぼこぼこにしている。なかなかにしぶといので、キレたルチルは回し蹴りを叩き込み場外へと吹っ飛ばした。
『勝者! レイテッド選手! 体術だけでコーラン選手を倒してしまった!』
ルチルは伸びているコーランを鼻で笑うと、さっさとリングを後にした。
その姿を見て、ジェイドがぽつりと言った。
「なぁ、『真王』の条件って何だっけ?」
「あぁ、一個だけあったな」
カーネも思い当たる節があるのか、リアンのほうに視線を向ける。彼は軽く目を細めて答えるというよりは独り言をつぶやくように言った。
「『真王』の条件は、最強の魔力を持ちし者だ」
こんにちは、零夜です。
お気に入り登録170件、159,074PVありがとうございます。
トーナメント戦なのにほとんど会話メインですいません。
戦闘描写は苦手です、はい。
今回は魔王のことなどを色々とルチルの口から疑問としてぶつけてみました。
詳しいことはこの先の話で明らかにしていこうと思います、なんだかわかりずらくてすみません。
次話はついにセレスとの対決との対決にしようと思っています。
たぶん二話に分けると思うのでもうしばらく、トーナメント戦にお付き合い願いたいと思います。
感想・評価おまちしております。




