表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
38/52

第三十六話 不戦勝

「頑張ってこいよ」

「うん。頑張る」


 ルチルはやけにげんなりとした顔で、ゲート前にいた。それを見つめるジェイドの顔も若干ひきつっている。

 二人は修業を日付が変わる時間までやっていたのだ。宿の一室に戻るといい笑顔をしたリアンとカーネが、腕組みをして待っていたのだ。


 ルチルはリアンに無言の説教を食らい、ジェイドはカーネに延々と小言を聞かされ続け二人は約二時間くらいしか寝ていないのだ。


偶然(・・)突風が吹くかもな」

「そう。偶然(・・)か」


 ジェイドが危険だと判断したら、風を使って助けると暗に告げているのを正確に読み取りうなずくと肩を回して筋肉をほぐすと、ゲートに向かって歩き出す。


 ゲートをくぐる際に案内嬢から嫌に熱烈な視線を受けた気がしたが、気のせいだと無理やり思うことにした。


 その背を見ながらジェイドは苦笑。そして隣に現れた気配に表情をいつもの不機嫌そうなものに変える。


「よう、ラピス」

「ジェイド」

「なんだ?」

「ルチルは不戦勝だ」

「はっ?」


 間抜けな声をあげて視線だけをラピスに向ける。相変わらず姿は透けていて、自分のほかに彼の姿が見えるものはいないということが分かる。

 なので、あまり唇は動かさずに音量を抑えて会話をしつつ観客席のほうに向かう。


「セレスのやつが今日のルチルの相手を……」

「そうか」

「ルチルに疑いは掛からない。必ずと言っていいほどこういうことは起こるから」

「それはまた……、相変わらず人間というのは醜いな」


 ジェイドの言葉にラピスはただ小さくため息を吐くだけ。観客席につき、いつものように柵にもたれかかってリングを見る。眼下ではルチルが体をほぐすために軽いストレッチを行っている。


「言うな……、われらは」

「わかっている。そこから先は言うな」


 片手をひらひらとほかの観客からは見えないように振り、鋭い視線を向ける。ラピスもそうだなと呟きふとした表情で周囲を探る。


「ところでリアンとカーネは?」

「……憂さ晴らしに行った」

「そうか」


 いろいろあったんだよと遠い目をするジェイド、その背には哀愁が漂っている。思わず目頭を押さえながらその背を叩いた。


『おーっと、今入った情報によると。レイテッド選手と対戦する予定だったコウガ選手が正体不明の相手に暗殺されたということだー!』

「まじでか」

『よってレイテッド選手は不戦勝で勝ち上がりだー!』


 はずれくじと歓声が舞い上がる中、セレスが何かしたなといやな予感を覚えつつゲートのほうへもどる。

 受付に戻れば、何とも言えない表情をしたジェイドとラピスが立っていた。


「セレス?」

「正解」

「やっぱりか?」


 疑惑が確信に変わり肩を落とす。ぽんぽんとジェイドがその肩を叩いてやり、ラピスが同情の眼差しを向ける。


「ルチル」

「なに?」

「悪いが、ついてきてもらえるか?」

「了解」


 ラピスが何を言いたいのかわかり苦々しい表情でうなずく。ジェイドのほうを向けば


「俺もついていっていいか?」

「ちょうどそう言おうとしていたところだ」


 ついていくと言い出し、内心一人で行くのはいやだなと思っていたルチルはほっとする。

 ふと、ルチルは何を思ったのか周囲をきょろきょろと見回す。


「どうかしたのか?」

「二人は来ないのかなと」

「今こられたら困る。怒って手順を間違える」

「あ~」


 外に出ようとラピスはいい、二人はそれについていく。他人から見ればジェイドとルチルが並んで談笑しているのだが、二人の笑みは引きつっている。

 

「二人ともついてきているな」

「あぁ」

「これから姿を隠す魔法をかける。だが、強力な魔法の反面範囲が狭い。私から1m以内の範囲にいろ」

「了解」

「俺は自分で姿を消せるからいい」

「ならばルチルにだけ魔法をかけよう」


 ではとラピスはいい、歌のような旋律を口から紡ぎ始める。水の糸がラピスの全身から発せられルチルを包むようにドームを作り始める。

 水の糸が縦横無尽に織られていき薄い青のドームが作られる。


 ジェイドはルチルの姿が消えていくのを、感動の眼差しで見つめながら己の体を半透明にして視認されないようにする。


「すごいな」

「こんな魔法いつの間に?」

「昔から使っていた。お前たちには見せてなかっただけの事」

「あっそ」


 ルチルは二人の会話を聞き流しながら、水の糸で作られた薄い青のドームを突っつく。弾力のある感触につんつんと何度も突っついて遊ぶ。


「ルチル。やめなさい」

「…………わかった」

「その間が非常に気になるが、わかってれてありがとう」

「む~」


 もう少し突っついてみたかったというのがありありと見て取れて、ジェイドは苦笑をこらえることができずに肩を震わせる。

 じと目でにらみつけ、おまけというように殺気も込めれば顔色を青くし謝ってくる。


「最近リアンに似てきたか?」

「知らん」

「でも、やっぱり似てきたな」


 ひそひそとラピスにたずねれば一蹴される。ちらりと横目で見れば眉間にしわを寄せていてその顔がどことなくリアンに似ている気がして唇の端を引きつらせた。


「ここだ」


 しばらく歩いていると、目の前には豪華な屋敷が現れた。ラピスは表情を消し無言で門を開けると扉を蹴破って中に入っていった。


「お帰りなさいませ、ラピス様」

「やつは?」

「書斎にいらっしゃられます」

「そうか」


 蹴破ったことにはに何もいわず、むしろ何もいえずに使用人の一人がやってきて低姿勢で尋ねてくる。聞きたいことだけ聞くと、さっさとその場を離れる。


 ジェイドはその使用人が何かをいっているのを聞き目元を険しくする。


「まったく、旦那様はあんな化け物をなんで手元においておくのか」

「ジェイド?」

「ラピス、使用に一人いなくっても良いな?」

「好きにしろ、だがまずいぞ」

「かまわん」


 ルチルはラピスの後をついていきながら何をするのかを見ようと思ったが、ラピスに見るなといわれ渋々視線をはずす。


 ジェイドは周囲にほかの気配がないことを確認すると、姿を現して近づく。


「おい」

「はっ、はい!?」


 使用人が振り向くとそこには底冷えするような微笑を浮かべているジェイドが立っていた。使用人は奇声を上げてへたりこむ。腰が抜けたのだろうなと考えているが、今のジェイドには慈悲なんてものは欠片もない。


「俺たちの仲間を侮辱してただで済むと思うなよ」

「な、仲間!?」

「そう。まぁ、あの子のことを言っていたらすさまじい痛みを与えて……」


 ジェイドは凄絶に笑い使用人の首に手をかける。そして一瞬で魔力を吸収した。干からびてミイラのようになる使用人。


「まずぅ……。白かよ」


 魔力の足しにもらならねぇと心底いやそうな顔をすると、使用人だったものを風で外に運ぶと二人の下へと急いだ。


「リアン、後よろしく」

『わかった』


 風で状況を伝えれば返事が風に乗って返ってきた。二つの気配が固まっているところにいけば、二人が待っていた。ラピスはジェイドがきたことに気づくと書斎の扉を大きく開けてはいる。

 二人も中に滑り込むように入る。


「ジーギス」

「ラピス、お帰り。何かお金になりそうなことあった?」

「レイテッドという男が不戦勝で勝った。あれに賭ければ結構な額になるんじゃないのか」


 ラピスがジーギスと読んだ男は線の細いどこか幸薄そうな顔の、ぱっとした印象のない男だった。だが、瞳にはぎらぎらとした野心が見え隠れしているようにも見える。


「いい加減、私の宝石を返せ」

「わかってるよ」


 渡された宝石の表面をなで、ちゃんと自分のだと確認するとラピスは懐にしまう。


「君は、宝石がなくても縛られてるからね」

「そうだな。だがお前が殺されたら、私は自由だ」


 ラピスがあざけるようにいえば、ジーギスは真っ青になって机の下に隠れる。そしてぶるぶる震えて周囲を異常なほどに見渡す。


「こ、こ、殺される!?」

「私が魔王だってことは気づかれないだろう」

「そうだよねぇ」


 ほっとしたように机の下からジーギスが出てくるのをルチルは冷めた目で見ていた。ジェイドは思いっきり嘲笑を浮かべている。


「ジェイド」

「ん?」

「やつの魔力は?」

「青ってところか?」


 そうかと頷いたのを見て、ジェイドは二人のそばを離れて本棚を見に行く。確かに古代の魔法が載っているらしき古びた本が二三冊混じっている。


「あとでどっちかに燃やしてもらわないとな」


 残っていたら色々とまずいことになると、いつになく真剣な顔で背表紙を見ながら彼はつぶやく。


「ところで、ジーギス」

「なに?」

「使用人一人邪魔だったから消したぞ」

「また、やったの? まぁ、僕が無事だからいいや」


 ルチルの眉間に少しだけしわが寄る。ラピスがそれに気づいたように視線をこちらに向けてきたが、ジーギスがいるので何も言わずに視線を戻す。


「それだけだ」

「そう」

「では、また散歩にいってくる」

「また? 最近多いねぇ」


 ラピスは扉のほうに向かいながら、氷のように冷たい微笑を浮かべる。ルチルはそれを至近距離で見ても何も感じなくなっているのを、感覚でわかりちょっとだけ現実逃避した。


「貴様を守ってやっているんだ。人のことを一々詮索してくるな、何か襲撃があっても守らないぞ」

「わ、わかった。好きにすれば良い、でも僕は守ってくれ」

「了解した」


 ひらりと片手を振って、さっさと廊下に出る。ラピスは何も話さない、ルチルとジェイドも何も言葉を発しない。

 玄関から外に出れば、異様な焦げ臭さが鼻を突いた。視線を周囲に向ければ、リアンが門の上に腰掛けていた。


「どうだった?」

「屑」

「そうか」


 リアンの問いにルチルは冷たい声音で一言を述べる。門からひらりと降りてきたリアンはぐりぐりとルチルの頭をなでる。


「何してたの?」

「不戦勝の危険性をラピスに言われたんでな。危険な芽を摘み取っていた」

「カーネは?」

「まだやっているのでは?」


 関わらない時はとことん関わらないリアンに軽くため息を吐き、ラピスに呼ばれたのでそちらを向けば青い宝石を突き出してきていた。

 ルチルはゆっくりとそれを受け取ると、指輪の上にかざし力を込める。


「お前を早く開放できるように手を打つ」

「焦るなよ。焦りは冷静な判断を鈍らせる」

「わかっている」


 帰ろうといえば、ジェイドが指を鳴らす。風が三人の周囲を取り巻き一瞬で遠くまでその気配を運んだ。

 それを見つめていたラピスは小さく笑うと、ふらりと散歩のために歩き出した。


お気に入り登録162件、148850PVありがとうございます。

ルチルはジーギスの事を見て、屑と一言だけ述べていますが本当はもっと長々と不満に思っていることがあります。


カーネは三人が宿に戻った後一時間位してから帰ってきました。

三回戦と四回戦はちゃんと書くつもりなので、もう少しトーナメント戦が続きます。


ラピスは封印を解かれたには解かれたのですが、実体を得るにはジーギスの魔力を使うしかないので彼の元を離れられないのです。


なのでルチルにはさっさとトーナメントを勝ちあがってもらいます、はい。

戦闘描写は苦手なのですが何とかがんばります。


感想・評価お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ