第三十五話 告げられし言葉
二週間ぶりの更新ですいません。
後書きは次話に書きます。
「ただいま、リアン」
「ただいまじゃない! なぜ、あんなところで体勢を崩した!?」
戻ってきてそうそう声を荒げてのお説教に首をすくめ、仮面を外しつつばつの悪そうな顔をする。
「あ~、リアン。俺のふくらはぎ見て」
「ん?」
ルチルの言葉にリアンは腰を曲げてルチルのふくらはぎを見れば、そこには短剣による刺し傷が残っている。まだ少量ながらも血は流れており、血の臭いが彼の鼻をついた。
「これは?」
「あのくそ野郎だ、……ふふふふふ」
「……ルチル?」
また不気味に笑いだしたので、そろりと視線を上げれば真っ黒いオーラをまとい微笑しているルチルがいた。ただし目は笑っていない。
リアンは久しぶりに恐怖を覚えた。
「あいつは絶対決勝戦で始末する」
「その前に一つ報告する」
「なに?」
「二回戦の時にだれか一人ラピスと戦えるらしい」
意味が分からずに軽く首をかしげれば、ふくらはぎの傷に治癒魔法をかけながらリアンはさらに詳しく説明をする。
「一回戦で残るのは、九人。二回戦を行うと一人余る。不戦勝なんて面白くないということで一人はラピスと先に戦えることができるらしい。名乗る者がいなければ、くじ引きらしいが大抵のものは我先にと手を挙げるらしい。その時点で勝ってしまえばチャンピオンの称号を得るのだからな」
「そう。でも俺はしない」
「あぁ、ラピスに『二回戦で戦おうとしないでくれよ』と伝言を受けたからな。ちなみに今の情報は観戦中にラピスがやってきて伝えてきたものだ」
これで良しとつぶやき、ルチルは自分のふくらはぎを触ってみる。すでに傷はなく滑らかな肌があるだけだった。
「ズボン破けた」
「着替えはあるだろう」
「あるよ、でもなぁ」
「また、ここで着替えを増やせばいい。それかジェイドに繕わせろ」
「なんでジェイド?」
ルチルの疑問の声にふっと冷たい微笑を浮かべる。たじたじと下がれば、いやに楽しそうな声音で告げられる。
「家事全般はあいつの役目だ」
「え?」
「料理とかもうまいぞ。先に言っておくが魔王全員そういうのは得意だからお前は特に心配しなくていい。そしてお前の顔を見る限り、ジェイドが裁縫というのが腑に落ちないんだろ」
「正解」
「あいつは一番暴れるんだよ、だから必然的に自分で服を繕わなくてはいけなくなる。だから知らずのうちに上手くなっていたということだ」
思いっきりあざけるように語るリアンを見ながら、ジェイドを不憫に思うルチル。
「ルっちゃん」
「ルっちゃんいうな……、ごめんなさい」
「よろしい」
不快なあだ名で呼ばれ訂正しようと後ろを振り向けば、怖い笑顔を浮かべたカーネがおりすぐさま謝るルチル。
その後ろには呆れかえったジェイドがおり、刃のように鋭い視線を向けてくる。
「短剣でも投げられたか?」
「正解」
「そうか。となるとそれの対処法も身につけさせなければならないか」
腕組をして、何やら仕切りに悩んでいるジェイド。嫌な予感しかおぼえないのだが、それは口にしない。無言の重圧をかけてくる二人に恐怖しているからだ。
ここで変なことを言えば爆発するだろう、それはとても恐ろしい。
「ジェイド?」
「ルチル、疲れているところ悪いが早々に対処法を身につけなければならないから、修行するぞ」
「げっ!?」
心底嫌そうな顔をすれば仮面を取られ、またつけられる。そして視線だけで後ろの二人を示す。振り返らなくてわかる。とてもいい笑顔をした二人がそっくりな顔で腕組みをして話が終わるのを待っているのだ。
ジェイドはこの場所から逃げたければついて来いと、暗に告げているのがわかり渋々頷く。
「というわけで連れて行くからな」
無言の了承を頂いたジェイドはルチルを抱えあげると、その場で転移魔法を発動しその場から消えた。
「逃げたな」
「あぁ」
「まぁ、いい。重傷というわけではなかったからな」
「あんなふうに妨害してくるとな、その辺に対して何か警戒をしておくか」
「……ラピスに頼む」
それがいいな。とカーネはつぶやくに同意し悪鬼のような笑みを浮かべる。リアンも同様の笑みを浮かべると顔を見合わせ同時に姿を消した。
「ついたぞ」
「ここは?」
「すぐ近くの森の中」
「そっか」
簡潔に応えられ、こちらも短く返すと慎重に降ろされる。そしてふくらはぎの傷をみる。ほとんどリアンが治してしまったのだが、ジェイドはどうやら刺さった角度見ているらしい。
「う~ん、やはり俺と同じ風系統の魔法を得意とするか」
「そうなのか」
「あの場所からこの角度で刺すのはほとんど不可能に近い」
抜いた時には気づかなかったが確かに斜め下の角度から刺さったようにズボンに穴があいているので、そうなのかと投げナイフについては特に詳しくないルチルはそうなのかと素直に納得する。
「なぁ、ジェイド。ひとつ聞きたいことがあるんだが」
「あの二人のお説教から逃れる方法は知ってるけど、教えないぞ」
「それはぜひとも聞きたい……じゃなくて、ラピスの封印を解いたのはどんな奴?」
「あぁ、その話か」
そういえばお前にはしてなかったなとつぶやき、風を操って二人の周りを渦巻くようにする。
何をしたのかと視線で問えば、ほかに誰かがいても聞かれないようにという簡潔な答えが返ってきた。
「そこそこ魔力のある男だな。最初は手元に転がり込んできた、ただの宝石だと思っていたらしいが、なかなかに頭が切れるらしくラピスが少量の魔力を吸収したところ古い文献を読み漁り復活させたらしい」
「そうか」
「ラピスはあいつの言うことを聞くのにもいい加減飽き飽きしているらしいがな」
何かあれば金のこと次には自分の身の回りを守れといわれるらしいと続け、お前に早くから会えてよかったよと本気でラピスに同情しているらしく感慨深げにつぶやいた。
「それとな」
「なに?」
ジェイドが急に声を潜めたので、ちゃんと聞こうと近づくといきなり抱き寄せられる。驚愕の声をあげる前に二人を包む風の渦が激しくなる。
「ジェイド!?」
「少し黙ってろ、レイテッド」
「……わかった」
何かを弾く音がし、ジェイドに偽名で呼ばれおとなしく口をつぐむ。
ジェイドは空中から計十五本の短剣を取り出すとそれを全方向に放つ。
「出て来い!」
唸るような口調で放たれた言葉に誘われるように、セレスが姿を現す。その姿を視認するとルチルを取り巻く雰囲気が一変する。
だが、何も言わずにジェイドの背に隠れる。
「うちのレイテッドを怪我させた奴じゃねぇか」
「あなたは強いのか」
「さてな。卑怯者の質問に答えるほど俺はお人好しじゃない」
じわじわと周囲の温度が冷えていく。ルチルは唇を引き結んだままコートをの合わせ目を閉じて冷気をできるだけ遮断する。
「そうか。ならば試してみよう……っ!?」
「遅い」
セレスが短剣をつかむと同時にジェイドは既に先手を放っており、つかもうとした手に無形の刃を叩きつける。
鮮血がほとばしり、血のにおいが風に乗ってルチルのほうにまで漂ってきた。
「去れ、お前の相手はこの子がするのだろう」
「くそっ……」
ずいぶんと深く切り裂かれたようで鮮血が止まらずに、地面へと零れ落ち続ける。
それを見たルチルは火炎球を出現させ、セレスの眉間に向けてすごい勢いで放った。
セレスは間一髪というように避けたが、怒りの気配が漂ってきた。ルチルはそれ以上の怒気を彼に叩きつける。
「一回戦での仕返しだ」
「そう」
「さっさと去れ。俺と戦いたければ勝ち上がってこい」
「……そうだな。なるべく万全の状態で戦ってみたいからな。……フフフ」
何かを思いつたように目を輝かせ、不気味に笑いだすセレス。気色悪かったのでジェイドが風の塊を彼めがけて放ったが、またもや間一髪で避けられた。
「決勝で会おう、レイテッド」
セレスの言葉に無言を返し、その反応にも不気味に笑いながら相手は姿を消した。
「気色悪いな」
「言わないで、俺はあんなのと戦わなければいけないんだぞ」
うんざりとしたような口調で告げれば、常の不機嫌そうな表情を憐みの表情に変えてご愁傷さまと合掌された。
「それよりもさっき言いかけたことは何?」
「あぁ、ラピスがな……」
ジェイドが告げた言葉にルチルは目を丸くし、少し迷った後にうなずいた。
そうかとうなずき、風に言葉を乗せたジェイドは「修行開始」といい問答無用で大量の短剣を投げつけてきた。
ルチルはそれを己の武器で弾きながら、ジェイドに言われたことを思い出し眼を細めた。
『ラピスが、明日の二回戦が終わった後をお前に魔法をかけて自分の封印を解いた男に会わせると』
「どんなやつなんだろうな」
ルチルは小さくつぶやいて冷笑を浮かべた。




