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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第三十四話 第一回戦

「ルチル~、朝だぞ~」

「ん~」


 ゆさゆさとカーネはルチルの体を揺さぶって起こそうとする。ルチルは薄く瞼を開くが寝返りをうつとまた眠り始める。

 起きろ~とカーネは揺さぶり続けるが起きる気配はない。


「ルっちゃ~ん。起きろよ~、今日一回戦だろ」

「変なあだ名で呼ぶな」


 唸るように言いながら上半身を起こす。目を何度か瞬かせて、睡魔を追い払おうとする。不機嫌なのと眠いせいなのか、かなり凶悪な目つきになっているルチルに怯むことなく、ぼさぼさになっている髪を櫛で梳いていやる。


「いいじゃんか、ルっちゃん」

「不快」

「あら、そう。そういえば昔アンバーの奴がリアンことを「リっちゃん」って呼んだことがあったな」

「結果は?」

「もちろん、ブチギレてあいつ追いかけまわして業火で焼き尽くしてたな。半分」


 あれはいろんな意味で見物でおもしろかったけど、久しぶりに恐怖を感じたなあれは、とどこか遠い目をしながらつぶやく。


「髪結ぶか?」

「うん。適当に結んどいて」

「了解」

「よう、おはよう」


 ガチャリと扉が広き、なぜか汚れたままの姿のジェイドが朝の挨拶をしてくる。おはようと返し、じーっと服の汚れを眺めていれば


「さっきまでラピスと手合わせしてた」

「一晩中?」

「そうだな。久しぶりに体を動かせたからすっきりした」


 どこか晴れやかな顔をしているジェイドだが、いきなり前のめりに倒れかける。

 その後ろには暗雲を背負っているリアンがいた。ジェイドは文句を言おうと口を開いたが、リアンの怒りに満ちている表情を見て口を閉ざす。


「リアン?」

「……」

「おはよう」

「……おはよう」


 視線で何だと返されたので、とりあえず朝の挨拶をすればちゃんと挨拶は返ってきた。


「リアン、何かあったのか?」

「先に闘技場を見てきたのだが……」

「言いたいことわかったから、それ以上言うな」


 よし、できたといわれ触ってみればポニーテルっぽい髪形にされていた。ありがとうとお礼を言いジェイドに仮面を貸してくれるように言う。


 ぽいと仮面を投げるように渡され、それをキャッチすると顔につける。


「なにがあったの?」

「聞かないほうがいいぞ」

「今のリアンはかなり機嫌が悪い」

「そう」


 確かに殺気がびしばし伝わってくる。だがこれ以上は聞かずに、立ち上がると思いっきり背伸びをする。バキバキと関節の鳴る音がした。


「さて、行くか」

「飯は?」

「道中食べる」

「行儀悪いぞ」


 ジェイドに言われ、二人にも頷かれ思わず顔をしかめる。なんか口のうるさいお母さんが一気に三人もできた気分だった。

 

 だが。まぁ、いいかと思う。これが自分のほしかったもの家族(もの)だから。


「とりあえず行こう」

「そうだな」


 部屋を出るときにいやにリアンが無表情だったのが気になったが。



『レイテッド選手、おられましたらゲートのほうへ』

「お呼びだぞ」

「そうだね」


 アナウンスが流れたので、顔をしかめた。しかたなしに外套を脱いで渡すと、行ってくると手を振る。

 

「頑張れよ」

「余計な怪我をするなよ」

「……気をつけろ」


 ジェイドに頭をなでられ、カーネに肩を叩かれ、リアンに抱擁されると頷きゲートのほうへ向かった。


 ゲートへ向かえば、案内係の女性が「ゲートを通ってリングへ」と伝えてきた。それに頷きゆっくりと歩きゲートを抜ければ、割れんばかりの歓声と殺気が降ってきた。


 歓声には対してこたえず、殺気の元を探ればリングの上に既にいた。鉄球のついた鎖をもっている、えらくごつい男だった。


「なにあの武器」

『あの鎖を使って鉄球をぶん回すんだよ、スピードもパワーもあるが、あの筋力だとそこまでスピードは出なさそうだな』

「解説ありがとう、ジェイド」


 茫然とつぶやけば、ジェイドの解説という名の緊張ほぐしの言葉が風に乗って聞こえた。

 黒いコートの裾を翻しながらリングに上れば、一際歓声が大きくなった。


『さぁ、トーナメント一回戦! 最後の戦いだ! 鉄球使いのリンダ選手のお相手は詳細不明の謎の剣士レイテッド選手だー! 闘技場内では黄色歓声が飛び交っているぜー!』


 たしかに「レイテッドー、こっち向いてー」やら、「レイテッド様ー!」とかいううるさい声が聞こえる。うざったそうに仮面の下で眉をしかめれば、耳にジェイドの忍び笑い声が聞こえてきた。


 盛大に舌打ちしてやれば、それが相手のリンダに聞こえたらしく殺気のこもった眼で睨んでくる。


『トーナメントは勝ち抜き戦! 敗者復活戦もない! まさに終わればそこで即終了のデスマッチだ! なお、リングの上で命を落とした場合は自分の責任だ! せいぜい生き延びてくれよ!』

「そして生きるためにはリングから降りなければならないということか」

「そういうことだ、坊主」


 普段より声を低めにして呟けば、さらに低い声が前方から発せられた。そちらを見ていなかったので、視線を向ければぶんぶんとすでに鉄球を振り回し始めていたところだった。


「やる気だな」

「貴様なんぞ、一撃で潰してくれる」

「できるかな?」


 鞘から刀を抜くと、両手で持つようにして構える。ルチルの全身から発せられる殺気が強くなった。


『両者ともすでに戦闘態勢! 観客も待ちきれないようだ! では開始の鐘を鳴らそうぜ!』



 というアナウンスとともにゴーンという開始の合図が響き、ルチルはその場から離れる。一拍置いてルチルの背丈の半分くらいある鉄球は、彼が立っていた場所にめり込む。


「当たったら骨折れるな……」


 とりあえず、様子を見るかということでジグザグに走りながら接近していく。

 そして懐に入ると上から刃を振り下ろす、がそれは鎖によって防がれる。かなり太い鎖で切断するのには時間がかかると把握する。

 

 ブンと太い腕が自分のほうへ向かってきたので、体制を低くすると蹴りを一発入れ、その反動で後ろへ飛び、リングに手をついてバク宙をすると態勢を立て直す。



「少し厄介な相手だな」

「遠距離はあの鉄球。そして近距離ではあの鎖に阻まれてしまう。どちらかを破らないといけないな」

「どちらかというと鎖を切ればいいんだがな」


 客席から観戦している三人は、ルチルの戦いぶりを見ながらそう評価する。カーネは眉根をよせながら手すりに持たれ、ジェイドは腕を組みながらお互いの顔を見る。

 リアンはといえば、ルチルから視線をそらさずに心配そうな表情は隠さない。朝の怒りは鎮まっているようだ。


「うげっ」

「危ないな」

「それほど大きなダメージにはなっていないようだが」


 鉄球が軽く当たりルチルが吹っ飛ばされるところを見て、三人はそれぞれ反応する。

 体制は立て直しているが、数回咳き込んでいるところを見ると呼吸が詰まったようだ。



「痛い」


 不機嫌そうな声で、鉄球が当たった腹部をなでる。まさかあんなに早く鉄球が投げられるとは思っていなかったとつぶやく。


 鉄球が戻っていくのを見てまた接近したのだが、すぐさま鉄球が彼のほうに向かって投げられたの反応が遅れ、すぐさまバックステップをして避けようとしたが一撃もらってしまったのだ。


「浅かったか、次はこうはいかんぞ」

「ほぅ……」


 不機嫌そうな声が出てしまったがルチルはそれに気づくことはない。アナウンスが何かを言っているようだが、そんなものは無視して先ほどよりも速度を上げて近づく。


「なに!?」

「俺の実力を勝手に決めるなよ。俺はな、血生臭い六年間を半端な覚悟でやり過ごしてきたわけじゃない!」


 フェイントをかけ後ろに回り込むと、刃を振り下ろし左肩を思いっきり切りつける。

 だが分厚い筋肉に阻まれてそれほど深くは傷は付けられなかったが、怯ませることはできた。


 また間合いを取り、刃についた血を振り払い相手の様子を見る。

 肩当てはしていなかったが胸元には頑丈そうな鎧に、足には脛当てを付け、腕を切られても平気なように籠手も付けている。唯一の弱点は何の防具もない首のようだ。


「さて、どうするか」


 また飛んできた攻撃を半歩ずれて、刀で弾きながら思案するようにつぶやく。とりあえずもう一度攻撃をしかけるかと言いながら駆け出すと、


「なっ!?」


 ふくらはぎに鋭い痛みがはしり、体制が崩れた。倒れこむ前に片手をリングにつけて、完全に倒れこむのを防ぐ。


「しまった!」


 その好機を逃すわけがなくリンダは鉄球を大きく振り回し左から叩きつけてきた。体は軽々と吹っ飛ばされてリングから落ちかけたが、刀を刺してそれを防ぎその場に体を固定する。


「げほっ、げほっ」


 嫌な咳をするが幸い骨は無事なようだ。ふくらはぎに手を伸ばしてみればそこには短剣が刺さっていた。思わずそれをまじまじと見つめながらその場から転がるようにして離れる。

 一拍遅れて鉄球が降ってくる。あの場にいたらぺしゃんこになっていただろう。


 足が痛むのを我慢しながら、短剣を持っている左手を空に掲げると魔力を制御して火炎球を五つ作り出すとリンダに向かって放つ。


 その間に短剣を見れば、昨日セレスに攻撃を受けたものとも同じ形だった。周囲に視線をめぐらせれば、選手入場ゲートに嘲笑を浮かべて立っているセレスがいた。


 その顔を見た瞬間ルチルは、何かがブチンと切れる音を聞いた。

 ふつふつと怒りが胸にこみ上げてくるのを感じ、短剣をにぎりしめると笑い始める。


「ふふふふふ……」


 不気味な笑い方をしながら今度は刀を掲げ、刃の周囲に計十二個の火炎球を出現させると全方向に向けて放つ。

 そのうちの二個がセレスに向かったがそれは魔法で相殺されてしまった。


「ふふふ……ははは……あはははは!!」


 狂ったように笑い始めるルチル。掲げたままの刀が黒炎に包まれる。黒い炎は、彼の怒りを表すかのように燃え盛る。



「おい、やばいぞ。ルチル、キレてないか」

「キレてるな」

「そりゃ、不意打ちされて重い一撃らったんだぜ。キレるだろ」

「てか、怖い」


 黒炎に包まれた刀を構えたルチルはそのままリンダに向かって走りだす。


「誰が教えたんだ? あんな技」


 ぼそりとジェイドがつぶやけばリアンが視線をそらす、じーっと見つめれば


「見せたことがある。魔法で強化し攻撃力を上げる技だ」


 と言われ見ただけで真似できるってすごくないかと呆然と呟けば、同意する二人。だが、カーネのみけんには深いしわが刻まれている。


「怒りで、なんとなくやったらできたんだろう」

「そんな簡単な技なのか、あれ?」

「に見えたらお前の目は節穴だ。高度といわないがかなりの集中力がいる、あんな状態では普通は発動できないのだがな」



『おーっとレイテッド選手いきなり笑い始めたかと思ったら、刀に黒い炎を宿したぞ! これはどんな魔法だ!?』


 ルチルはその声を聞きながら飛んできた鉄球を受け止め弾くと、魔法で強化された刀で一刀両断して見せた。


「さっさと終わらせようか」


 わざと歩いてい近づきながら言えば、鎖を振り回し始める。顔すれすれに飛んできた鎖を切り捨てると刀をしっかりと握りなおす。


「ば、化け物!」

「なんとでもいえばいい。俺が言えるのは俺と戦ったのがは不運だった」


 ということだと言いながら後ろへ回ると、首へ刃を突き刺す。刀に宿っていた炎はリンダへと移る、と同時に刃を抜き去る。

 どさりと倒れ伏した体を包んだ黒い炎が天高く燃え上がる。ルチルが指を鳴らせば、炎は鎮火し既に息絶えたリンダが現れた。


『しょ、勝者レイテッド選手! すさまじい剣さばきと炎の魔法で見事に一回戦突破だーー!!』


 アナウンスが告げると同時に歓声とはずれくじが舞い上がる。それを鼻で笑うと、にぎりしめていた短剣を振りかぶりセレスめがけて投げつけた。

 それは器用にも受け止められたが、その顔にはすでに嘲笑はなかった。


「待っていろ。決勝で必ず貴様を殺してやる」


 聞こえないと知りつつも低い声でセレスに告げると、さっさともう一方のゲートへと向かった。

 強い決意を胸に宿して。


「ルチル!」


 焦ったような声がして顔を上げれば、ゲートのところで顔をゆがめたリアンが見えた。


「リアン」


 自分の中で燃え盛っていた怒りが鎮まっていくのを感じ、同時に心配をかけてしまったなという思った。


 ルチルは知らないこれから三人からのお説教が待っていることを……。

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