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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第三十一話 予選後

予選後のお話です。

ルチルの祖父の名前が出てきます。

「予選、勝ってきた~」

「お疲れ~」

「一瞬ヒヤッとしたがな」

「こいつが、あんなふうに焦るところは中々ないがな」


 受付のところにまで戻ると、三人が歩み寄ってきた。若干疲労を帯びた声音で告げると、それぞれ感想を言う。


「何か言ったか?」

「いや、べつに」


 じろりとリアンがにらむとジェイドは視線をそらす。瞬く間に険悪な雰囲気が漂い始める。

 そんな二人をほうっておいてカーネはぐりぐりとルチルの頭を撫で回す。


「最後の一人には逃げられたけどね」

「まぁ、仕方ないんじゃないか? 勝てると思っていたのに自分の仲間は次々とやられて次は自分、ってなったら誰でも逃げるだろ」


 ふと、カーネは顎に手をやり何やら考え込み始める。何かあったのかといわんばかりに首を傾げれば、なんでもないといいつつも不穏な空気を漂わせるカーネ。


「それよりもリアンの声が聞こえたんだけど」

「鎖にぐるぐる巻きにされたときか?」

「そう」


 意外としまって息が詰まったけどな、といいながら自分の腰をなでる。ちらりと今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな二人を見て、ため息を吐く。


「あの状態だと、身動きできないしな。それにお前気づいてなかったみたいだが、斧持ってたやつがいただろ、お前が鎖にとらわれてきたとき、あいつが斬りつけようとしてたんだぜ」

「えっ!?」


 気づかなかったとつぶやけば、そりゃそうだろうなとカーネは頭の後ろで手を組む。


「ラピスのやつが動いたんだよ」

「ラピスが?」


 そんな感じまったくなかったがなとつぶやけば、視線を彼の後ろに向ける。その視線を追うように後ろを振り返れば半分透けているラピスがいたがいた。


「魔法は使っていないが、殺気で動きを止めたんだよ」

「そうなのか」

「殺気はある程度コントロールできるからな。あいつは相当の使い手だから、そんなことお茶の子さいさいだろ」

「そうだ……ろう……ね」


 言葉が不自然に途切れ途切れになる。思い出されるのはジェイドの言葉。


『ラピスは二番手』

『魔力抜きで戦ったらカーネの次に来る』


 そろそろとジェイドのほうに近づいていく。それに気づいたジェイドはルチルに視線を向けて眉間にしわを寄せる。


「ジェイド」

「何だ?」


 耳を貸すようにいい、小声で冷や汗を流しながら問う。


「ラピスは魔力なしで戦ったら二番手なんだよな」

「そうだぞ」

「カーネはその上を行くから一番手?」

「あぁ」

「俺さ、ここについたときにカーネと闘技場にラピスのことを見に行っただろう」


 そういえばそうだなとうなずくジェイドを見上げてゆっくりとしゃべる。


「そのときちょっと絡まれたんだけど、カーネが物の数秒で十数人いた男たちを倒したんだ」

「だから言ったろ、あいつは最強って」


 実力を出していないと思われるラピスの戦い方を見たルチル。横目で不機嫌そうな対をなだめているカーネを見る。

 そんな彼に対してしみじみとした言葉をかける。


「普段はあんな姿だが」

「だが?」

「魔王の中での暗黙のルールその一『カーネは怒らせるな』がある」

「リアンは?」

「除外」


 なんか言ったかといわんばかりの表情をするカーネと目が合ってしまいゆっくりとそらす。ジェイドは曲げていた腰を戻すと半透明なラピスをにらみつける。


「あれ、ほかの人に見えるのか?」

「見えない」

「そう」


 楽しそうに笑っているラピスを見つめながら小首をかしげる。ジェイドを取り巻く風が変わったのに気づき視線を上げれば、片手に風の渦をためている様子が見えた。


「ジェイドー!?」

「ん?」

「なにやってんの!?」

「腹いせに殴りに行こうかなと」

「やめなさい」


 ためている魔力をすべて吸収してしまうが、またすぐに集め始めてしまう。

 仕方がないので二人に助けを求める。


「カーネ! リアン!」

「どうした?」

「ジェイドを何とかして!」


 カーネはすぐさま合点がいったような顔をすると、ジェイドを羽交い絞めにして何をささやく。すると見る見るうちにジェイドの顔が青ざめていく。

 カーネが拘束を解くとおとなしくなったジェイドは青を通り越して真っ白になっていた。


 何を言ったんだという顔をしていると、リアンがラピスのほうへと向かっていく。

 その姿を瞳に映すと徐々にその姿が薄くなり、ラピスのように半透明になったのでびっくりして目を瞠る。


「なにあれ?」

「不可視の結界張った状態があんな感じだな。俺たちの目に見えるのは魔力が強いからだからな」

「始めて見ればびっくりするわな」


 どこかげっそりしているジェイドの背をさすりながら、ジーっと静炎の魔王と水の魔王の動きを見つめる。


「リアンか」

「お前の御眼鏡にはかなったのか? ルチルは」

「あぁ」


 腕を組みながら柱に寄りかかるラピスは、近づいてきたリアンのほうを見ようともしない。リアンはそれについて何も言わない。彼はあまり他人に干渉しない性質なのだ。


「一つ聞きたいのだが」

「なんだ?」

「あの子の心の傷を癒すことは可能か?」


 どう意味だといわんばかりに眉間にしわを寄せれば、ラピスの薄い金の瞳が動きこちらを不思議そうに見ているルチルを映す。

 その視線を追うようにルチルのほうを振り向きちょっとだけ手を振ってやれば、笑みを見せる。


 その様子に頬を緩ませれば、驚きを含んだ視線が思いっきり突き刺さった。ラピスのほうへ顔を戻せば、ありえないものを見たといわんばかりの表情である。


 まぁ、仕方のないことなのだがな。と、リアン思う。封印される前にカーネ以外とは大してしゃべらなかったし、ジェイドとは喧嘩ばかりしていたしな。ルチルと出会ってずいぶんと変わったものだと、唇が笑みを形作る。


「ずいぶんと変わったな」

「自分自身でもそう思うよ。だが、あの子は守りたいんだ」

「守りたいだけか?」

「わからないが、ただ……」


 もう一度振り返れば、今度は凹んでしゃがみこんでいるジェイドの背に乗っかっていた。カーネはそんなルチルの頭をなでていた。

 思わずその様子に吹いたリアン。ラピスも同様に肩を揺らしている。


「ただ?」

「自分自身の答えが見つかったら言うよ」

「そうか、あの子の力は強いな。そして心も」

「水鏡で何か見えたか?」

「見えたな。それを言うつもりはない。だが、リアン」


 まっすぐに見つめてくるラピス。それをしっかりと見返すリアン。

 双方の間にしばしの沈黙が流れる。お互いの瞳から次の言葉を読もうとするが読めずに、双方どちらかが口を開くのを待つ。


「あの子は子供だ」


 先に口火を切ったのはラピスだった。意味を捉えあぐね少しだけ目を細めてラピスをにらむ。

 この表情はカーネ曰く「不機嫌八つ当たり一歩手前」の表情だったな、冷や汗が流れるのを感じながら思い出す。


「子供?」

「年齢的には成人していても、心は幼い。つまり……」

「何らかの拍子に壊れると?」

「かもしれない」


 リアンは黙って瞼を伏せる。ラピスはそんな彼の様子を見つめる、もしかすると八つ当たりされるんじゃないかといやな予想をたてながら。


「そうか」


 意に反してリアンはその一言だけをつぶやいた。


「それよりもルチルの指にはまっている指輪に見覚えがないか?」


 とかわりに質問した。問われたラピスは注意深く見ていなかったので、ルチルのほうに目を凝らして指にはまっている指輪を見つめる。

 赤い宝石がついた銀の指輪。なぜか流れてくる魔力の波動。


「まさか、あいつ(・・・)の持ち物か!?」

「かもしれない」

「なぜあの子が持っている?」

「血縁かもしれない」


 ひどく困惑した顔をすると、ラピスはルチルのほうへ向かって歩いていく。その後ろをリアンは何かを案じるような表情をしてついていく。

 こちらへ近づいてくる二人に気づいたのだろう、ジェイドの背から滑り降りると軽く首をかしげる。


「ルチル」

「なんだ?」


 リアンに名を呼ばれ、返事の変わりに疑問の声を上げる。


「お前が指につけているその指輪」

「これのことか?」


 見えるように目の高さまで手を持ち上げる。きらりと赤い宝石が光を反射して輝く。


「誰の持ち物だった?」

「なんでわかった?」

「少しゆるいだろう」


 ルチルの探るような視線をもっともらしい理由で流すと、質問に答えろ言わんばかりに険しい視線を向ける。

 彼は渋るように口を何度か開閉させていたが、リアンとラピスの視線の強さに負ける。


「俺の祖父」

「お前の祖父の名は何という?」

「祖父は……」


 名前を口にしようとしたところで、ルチルの顔が悲しげにほんの数秒だけゆがむ。だがそれはすぐに仮面のような無表情の下に隠される。


「祖父の名は『サンドライト』だよ」

「まじでか!?」


 名を告げた途端カーネが大声を上げて、ルチルの顔を覗き込んでくる。何がしたいといわんばかりに眉間にしわを刻めば、確かに似ているとつぶやく。


「どんな容姿だった?」

「赤茶の髪と瞳」


 そう告げればいぶかしげな表情をする四人。まるで自分の祖父のことを知っているかのような態度に困惑した表情をする。

 ふと、ルチルは瞬きを思い出したように言葉をつむぐ。


「だけど、それは仮の姿」

「仮の?」

「本当は、淡い青の瞳に……」


 目をつぶれば思い出す。自分と二人きりの時だけその姿になった祖父を。高齢な姿からいきなり若い姿になったので驚いたものだ。

 自分を見てやわらかく細められた淡い青の瞳、そして今の自分と同じように腰まで伸びた


「漆黒の髪だったな」

「そうか……」


 返ってきた声には沈痛なものが含まれている。瞼を上げてそれがどうしたのという顔をする。


「お前は――――か」

「え? なに?」


 聞き取れなかったので聞き直すと、なんでもないというように首を振られる。釈然としないもののあまり探りを入れてはいけないと無理やり納得し口を閉ざす。

 四人の魔王は何やら複雑そうな表情でルチルの事を見てくる。


「ルチル、その指輪の宝石の上にわれらが封印されていた宝石をかざせ」

「え?」

「いいからやってみろ」


 意味がわからないという顔をしながら、懐から赤い宝石を一つ取り出すと指輪の上にかざす。

 すると指輪と手に持った宝石が一瞬だけ輝き、赤い宝石が消える。


「どういうこと?」

「その指輪は特殊なものだといっておこうか」

「どうして……、いや、なんでもない」


 どうして知っているのかを問おうとしたが、ため息を吐いて聞くのをやめる。時ではないのだろうと思いながら残りの二つも同様にかざす。


「無の魔王様」

「ルチルでいい」


 見れば、ラピスが自分の目の前で片膝をついてひざまずいていた。不機嫌そうに言い放ちなんだと聞く。


「どうかお気をつけください。あなたは狙われやすい」

「目立つということか」

「はい。予選での取りこぼしは私が露払いをしておきますので、あまり外を出歩かないようにしてくださいませ」

「わかった」

「では、失礼いたします」


 立ち上がると一礼をしてラピスはどこかに去っていった。ポフリと頭に手をのせられ視線を上げればいつの間に半透明じゃなくなっていたリアンが、微苦笑を浮かべて見下ろしてきていた。


「宿に戻ろう」

「そうだね」


 頭から下ろされたリアンの手を反射的につかむ。驚いた顔をされたが、何も言わずに握ってくれた。

 先を歩くリアンとルチルの姿を二歩遅れて歩くカーネとジェイドが見つめる。


「まさかな」

「言うなよ。てか、なんつー運命だよ」

「だな」


 二人は意味深な会話をすると、その後は何も言わずに先を歩く二人をまるで親子のような姿を見つめていた。


「リアン」

「ん?」

「俺が手を伸ばしたらつかんでくれるか?」

「お前がそれを望むなら」


 やさしく微笑む黄金の瞳を持つリアン。なぜかその微笑が今は亡き祖父に似ていて、一抹の寂しさと大きな切なさを感じた。


 無意識のうちにリアンの手を握る手に力がこもる。彼はそれに気づきながらも何も言うことなかった。自分の問いが彼をこのような状態にしてしまったということを悔いながら。






 

 そんな彼らを建物の屋上から見下ろす人影が一つ。黒いローブをまとい容姿を隠している。ローブの裾には銀色の糸で何かの紋章が縫い取りされている。


「……無の魔王……」


 人影が紡ぐは無の魔王という言葉。震える声が紡いだ言葉に引かれたようにルチルが顔を上げる。

 視線が一瞬だけ交わる。だが、すぐにルチルは前を向き二度と人影のほうを向くことはなかった。


「それでいい。今はまだ気づかなくて良い」


 人影は彼らに背を向ける。そして後ろ髪ひかれるかのように一度だけ振り返る。風が起こり一瞬だけ青い瞳がのぞいた。その瞳には感情の入り混じる光がやどっており、そこから感情を読み取るのは不可能だった。


「……いずれ」


 ――会おう――


 その言葉は風にさらわれ、影はその場からいなくなっていた。

こんばんは、零夜です。

お気に入り登録134件、108,000PVありがとうございます。


ルチルの黒髪はおじいちゃん譲りです、はい。

なぜかはもっと先のお話になります。

ちなみにおじいちゃんの名前は「アレキサンドライト」からとりました。


影の人はこれからも少しずつ出ます。

いろいろと重要な役割を持っている人なので。


感想・評価お待ちしております。

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