第三十話 予選
今回は話がなくなりました。
さらに戦闘描写がでるので、残酷な描写が少し出てきます。
その点はご了承ください。
「予選が始まります。出場者の方はゲートにお集まりください」
放送用のスピーカーから澄んだ声が漏れてきた。ルチルは外套と仮面の下で眉間にしわを寄せる。
「めんどい」
「いってらっしゃい」
三人は無情にも笑顔で手を振った。まるで自分たちは関わりがないといわんばかりの表情で。
ルチルはカチンときたのを感じたのでものすごく低い笑声をもらす。彼の周囲の温度が下がった。
「憂さ晴らししてくるか」
「ほどほどにな~……」
「誰のせいだろうな?」
仮面のせいで口元しか見えないのだが、それがいっそう恐怖をあおる。固まった魔王三人を鼻で笑うとさっさとゲートに向かった。
「171番~180番の札をお持ちの方はこちらです」
ルチルは手元に目を落とす。手には178番の札。予選は10人まとめて戦うらしい。そして残った一人がトーナメントに参加できるらしい。
「めんどいな」
もう一度つぶやくと、その場で出番が来るのを待った。
一方、魔王たちは予選を見るためにぞろぞろと観客席に向かっていた。
観客席は満員で、ここの予選でどの選手に賭けるかを定めるのだろう。そう考え一気に機嫌が悪くなるリアン。
「落ち着け」
「あぁ?」
「んなドスの聞いた声をださんでもいいだろう。お前がそんなんだから、俺も……」
抑えられなくなるだろう。カーネの全身を抑え切れない殺気が包む。舌なめずりする彼の目はまるで獲物を狙う狩人のような光をたたえていた。
どっちもどっちだといいたいが、自分も抑え切れない感情があるので何もいわないジェイド。その顔は常の不機嫌そうな顔ではなく、冷たい微笑が彩っていた。
「あいつらはなにやってるんだ」
離れているのに伝わってきた殺気や感情の波にため息を吐くルチル。そんな彼に近寄ってくる人影が。
「おい坊主」
「何?」
「お前も参加するのか」
「そうだが」
視線を向ければいかにも修羅場を通ってきましたという風格をした男がいた。身につけているよろいは傷だらけ、持っているたちも使い込んでいるのがわかるが。
「俺よりは平穏そうな生活をしてきたようだな」
「何か言ったか?」
「いや別に、なにかようか?」
「悪いことは言わない辞退しな」
どういう意味だと聞き返せばいつの間に彼は取り囲まれていた。全員ニヤニヤといやらしい笑い方をしていた。
「そういうことか」
「そういうことだ」
「ふぅん。弱肉強食ってやつか。一つルール確認をしたいのだが」
「なんだ」
男の瞬きの間に抜刀し背後に回りこむと後ろから首に刀を突きつける。相手が息を呑むのがわかった。
「予選を勝ち残れるは一名。残りの九人は死ぬのか?」
「あぁ、デスマッチだからな」
「そうか。全員殺してもいいんだな」
男から離れると、刀を肩に担ぎ仮面をはずす。深紅の瞳が現れゆっくりと自分を取り囲む一人一人を見ていく。
全員がルチルのことを真っ先に狙ってきそうな顔をしている。
「ジェイド、聞こえるか」
『何かようか?』
「離れていても記憶を調べることは可能か」
聞こえないように小声で自分の体をなでる風に向かってつぶやく。風に乗って届くジェイドからの返答は否だった。
『近づかないと見れない』
「なら、こっちに来てみてほしいんだ」
『わかった』
ふつりと風が途絶え、すぐに慣れた気配が自分の背後にあらわれたのを感じる。
「なにしてるんだ」
「ジェイド」
後ろを振り返りピシリと固まる、ジェイドが片手で男を一人つるし上げていたから。こっちに来いという手招きに応じて一人分だけあいた隙間を通り彼の元へいく。
「この子に何かようか?」
いつもの三割り増しの不機嫌顔でにらみつけるとすぐさま散り散りになる。つるし上げていた男を解放するとあわてて離れていった。
「それで、どうした」
「その前に二人は何であんなに殺気を放っているんだ?」
「……聞きたいか」
「遠慮しときます」
ぞっとするような笑みを浮かべられ視線をそらす。ルチルが手に持っていた仮面を取り上げると、両手で弄ぶ。
「気をつけろよ」
「何を?」
また固まったルチルを抜いた九人を見ながら、不機嫌丸出しの顔で言う。
「お前を一斉攻撃しようと目論でいる」
「だろうな。それを確認してほしかったんだ」
「あいつら九人は雇われている。誰か一人でも決勝にいければいいのさ」
「そうか。それならば、遠慮なく……」
消すことができるよ、ぞっとするような微笑を浮かべて九人を見た。ジェイドはその笑みを見て、彼らの不運に同情した。
「171~180番の札をお持ちの方。予選が始まります」
案内役の女性が現れてそう告げる。ジェイドはルチルに仮面をつけるとがんばれよといって頭を軽くたたき、観客席に向かった。
集団の最後尾についたルチルは、ぞろぞろと進む彼らの後について通路を進み闘技場のリングに出る。途端に降ってくる大歓声。いやそうな様子を隠さずに舌打ちする。
リング上にあがると、ルチルは三人を探す。そして見つけた。柵に寄りかかりながら手を振っているカーネと腕組をしているリアンと、親指をつきたててこちらに向けているジェイド。
三人に手を振り返すと、ジャーんと言う大きな銅鑼の音が鳴り響き彼は囲まれる。
『予選開始! 十人のうち一人になるまで戦うんだ諸君! 場外、気絶になったものはその時点で予選敗退! 運悪く命を落としてもそれは運がなかったことだ!』
「つまり全員殺してもいいということか。ジェイド」
『なんだ』
「俺と同じことをした奴はいたか」
『いた。一人だけどな』
「そうか」
ジェイドに確認をとると突っ込んできた簡素な鎧をつけた男の突進をよける。さらに足払いをかけると、刀を抜き男の胸に足を乗せ動けなくする。
「審判」
「なんです?」
「殺してもいいんだな」
「かまいません。この闘技場内で命を落とし場合は選手に運がなかったということです」
「そうか」
場外にいた審判に確認を取ると、遠慮なくルチルは動きを封じている男の心臓めがけて刃を振り下ろした。
鎧をやすやすと貫通した刃はそのまま男の心臓を貫く。びくびくと痙攣している男を場外に蹴り飛ばすと、残り八人になった塊を振り返る。
「さっさとこいよ。お祈りをすませてからな」
「それはこちらの台詞だ!」
ひゅんっと言う音がして姿勢を低くすると、何かが通り過ぎる。それを横目で確認すれば錘のついた鎖だった。
「めんどいな」
左右から突進してきたナイフを持つ男女をぎりぎりまでひきつけると、その場で跳躍する。目の前からルチルが消えたことで、戸惑った二人だが勢いは殺せず相手の胸にナイフを突き立てる。
「残り六人」
離れたところに着地したルチルはまた飛んできた鎖を弾くが、それは弾かれた反動を利用して彼の胴体にまきついた。
「締まる」
『ルチル!』
「心配するな」
耳にリアンの叫び声が聞こえたので、静かに返事すると刀をすぐそばにつきたてると自分の胴体に巻きついた鎖を両手でしっかりと握り、
「うおおぉぉぉ!」
渾身の力で自分の方へと引っ張った。踏ん張っていてなかった赤茶色の髪の男はそのまま中を飛びルチルのほうに飛んでくる。刀を手にすると、男の着地地点から離れ鎖に向かって刃をたたきつける。
二、三度たたきつけると鎖は砕け彼と男をつないでいた鎖はなくなる。男に向かって駆け出しすれ違いざまに首めがけて刃を振るう。
鮮血が後ろで舞い散るのを確認せずにリングに転がる鎖の残骸を拾い上げると、自分めがけて突進をしてくる相手に牽制の意味で投げつける。
「あと四人か」
大柄な男がひるんだ隙に、駆け寄るとその胸に刃を突き立てる。抜きながらつぶやきその場から跳躍して離れる。
「なかなかやるわね、坊や」
「でもまだまだね」
「俺は成人しているんだがな……」
若干怒った声でそう告げると、放ってきた氷魔法を左手で吸収しとんできた短剣を弾く。背中合わせでたつ髪の長い女と短剣を数本持つ女は驚きに満ちた表情をする。
「緑ってとこか」
「なに!」
「魔法を……吸収した?」
「返すよ」
一瞬で肉薄すると、魔法を放った女の胴体に片手を突き出して吸収した氷魔法を黒の魔力で強化したものを放つ。
倒れていくのを見ながら、右手に持った刀でナイフを持つ女の首を一閃する。傷口から噴出す赤い噴水を避けるようにバックステップをする。
「あと二人」
「調子に乗るなよ」
「うそぉ!」
声がし、そちらに視線を向ければ眼前に斧の刃。叫びながら跳躍し避けるが風圧で外套のフードが脱げる。外套からこぼれだす長い漆黒の髪。
片膝を突き、ぶんぶんと斧を振り回す男を冷静に観察する。焦ってはあの斧の餌食になってしまう。深呼吸をすると手に魔力を集める。
「ジェイド、力を借りるぞ」
男に向かって左手を突き出すと、すさまじい暴風が相手を襲う。
「ぬお!?」
「もらった」
体制を崩したところに不可視の風の刃を作り上げ叩き込む。暴風で身動きを取れない斧男は全身を切り刻まれ手倒れた。
「ひっ!」
「残りはお前だけだ」
ルチルに話しかけてきた男を見れば慌てふためき、逃げ出そうとしていたところだ。ルチルは走り出すが、その前に男は場外に降りてしまっていた。
『勝者178番!』
アナウンスと歓声が響きだす。逃げ出した男をにらんでいたルチルに審判が近寄ってきた。
「予選突破おめでとうございます。トーナメントに登録いたしますのでお名前を」
「名前」
あまり自分の名を知られたくなので、ルチルは偽名を口にした。
「レイテッド」
「レイテッド様ですね、登録しておきます。トーナメントは明日からになります。本日はゆっくりとお休みなって明日からのトーナメントのための英気を養いください」
わかったとうなずくと外套のフードをかぶり、ふと視線を感じたので周囲を見渡せば選手ゲートのところにラピスがいた。
ゆっくりとそちらに向かう。すれ違いざまにルチルはささやいた。
「お前をすぐに自由にしてやる」
「楽しみにしている」
それだけ告げるとルチルは足早に三人の元に戻っていった。
その背をラピスが見ながら薄く笑っていたことには気づかなかった。
こんにちは、零夜です。
お気に入り登録124件、そしてPV100,000アクセス。
本当にありがとうございます。
今回は内容が長くなってしまいました。
本当は二話に分けようかと思いましたが、区切るのが難しかったのでながくなりました。
次話は予選後の話になります。その次の話からトーナメントの話にしよと思っています。さくさくトーナメントの話は終わらせてラピスとの決勝に持ち込みたいです。
今回は長く戦闘描写を書きました。自分でもおかしいなと思う点があるので、あまり触れないでください。
あまりにもおかしいなという点がございましたら言ってください。何とか直します。
感想・評価お待ちしております。




