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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第二十八話 変化する心

かなり更新が遅れてしまったので今日はもう一話アップします。

後書きは次の話に書きます。

 むすっとした表情でルチルはベッドの上に座っていた。その隣にはリアンがいるのだが、さっきからなにを問うても答えてくれないので、カーネのほうに視線を向け何があったと問いただしている。


 カーネ自身もよくわかっていないので肩をすくめるだけだ。ジェイドはいぶかしげな表情でルチルを見ており元々寄っている眉間の皺をさらに増やす。


「人間はおかしい」

「はっ?」


 いきなりボソリとつぶやいた声に三人は同時に同じ言葉を口にする。ゆっくりと腕を組み、氷のように冷たい眼差しで三人をゆっくりと見回す。


「なんであんな命の駆け引きで熱狂できるかわからない」

「そういうことか」

「まぁ、戦闘が好きな俺たちもルチルには理解できないか」


 リアンは納得した声を上げ、カーネはラピスの試合を観戦していたときに機嫌が悪くなった理由をようやく理解したという顔になる。


「そうはいっていない」

「言ってるように聞こえるんだよ」

「そうか」


 表情をなくし、口では納得したような言葉を紡ぎながらも進言してきたジェイドをにらむ。怖いと口には出さずに思うにらまれた本人。


「どうしてだ?」

「娯楽だよ」

「娯楽?」


 意味がわからないというように目をぱちぱちと瞬かせる。リアンは窓の外に視線をやり、ぽつぽつとわけを説明する。


「人間は刺激を求める。刺激がなければつまらない。そう感じているやつがああいつ闘技場に集まるだ、そして命の駆け引きに金を投じて賭けをする。本当にくだらない」

「そんなくだらないやつの中に俺も入っているのだな」

「お前は魔王だろ?」


 何言ってやがるといわんばかりの顔で見られ、ルチルはびっくりしたような顔をするが、それも一瞬のことでそうだなとつぶやくとまた無表情に戻る。


「ルチル?」

「なに?」

「いや、今どこか痛みを感じたような顔をしたから」

「別に何も」


 抑揚がない声音で返し、自分の黒髪に指を絡める。長く自分の背で揺れる髪、それをジーっと見つめる。

 闇のような漆黒の色、外を見れば徐々に空は彼の髪と同じ色に染まり始めている。



「封印を説く方法はほかにどんなものがある?」

「一つはお前みたいに魔力の強いやつが血をたらせばそれでいい。だが、それは赤か黒の魔力を持つものじゃないといけないから、ほとんど知るものがいない」

「俺がやっている方法か」


 自分の手のひらを見つめながらボソリとつぶやけばそうだという返事が返ってくる。そしてふと思ったことを問うてみた。本当に何気ない質問だった。


「てことは俺はもういらなくないか?」

「はっ!?」

「だって赤か黒なんだろ? だったらお前たちでも解けるから俺は……」


 いらないだろという言葉は、のどの奥に消える。三人が無表情ながらも濃い怒りの気配を漂わせて、殺気をぶつけてきたからだ。

 反射的に刀の柄に手が伸びてしまったのはしょうがないだろう。


「ルチル」

「……」


 のどが萎縮して声が出せないので、視線だけリアンに向ける。そして後悔した。

 それはそれは素晴らしく綺麗な笑みを浮かべてくれていた。ただし目はまったく笑っていなかったが。


「次にそんなこと言ったら?」

「たら?」

「私とカーネの最強魔法をお前に向けて放つからな?」


 痛いじゃ済まさないぞ、とやわらかい声音で優しく言いながらも瞳に本気の色を宿している。ちらりとカーネとジェイドを見れば、二人ともリアンと同じような笑みを浮かべていた。


「ごめんなさい」


 謝罪の言葉をつぶやきながらも、ルチルはわかったとは言わなかった。カーネとジェイドはすぐに殺気を消したがリアンはすぐには消さなかった。

 それに気づいたカーネが落ち着けというように視線で訴えてきたので、しぶしぶ消した。


「はぁ、闘技場にいるんだったよな」

「あぁ」

「いってくる」


 立ち上がってさっさと出て行こうとする。それをジェイドが風を使って止めた。


「なにをする」

「まだだぜ、時間は」

「別にいいだろ」


 魔力を全身にまとい、風の主導権を握ると一気に霧散させる。するりと扉から出て行く。

 それを横目で見ながら、ふかぶかとリアンはため息を吐いた。


「どした」

「あの子の考えを改めさせなければならない」

「ん~?」


 どういう意味だというようにカーネが眉間にしわを寄せる、だがリアンは何も答えずにベッドに横になりルチルの眼差しを思い出す。

 自分に対して何の価値もないというような目をしていた、あの目を変えさせなければならないと、リアンは静かに決意した。


 一方ルチルは夜風に吹かれながら、闘技場を目指していた。お祭り騒ぎの中静かに漆黒の髪を背に流した青年が歩いていく。


「てめぇは」

「ん?」


 ボーっと歩いていると目の前には五人の男たち、ところどころに白い包帯。それに見たことのある顔なので昼間に襲ってきたやつらかと納得する。


 同時に自分の唇が残忍な笑みの形になるのがどうしてもとめられなかった。

 低い笑声をもらしながら、五人のそばを通り過ぎ建物の影に進んでいく。案の定ルチルの思惑通りに彼らはついてきた。


「何のようだ」

「何の用のだ? だと。てめぇの連れにつけられた傷のせいで俺らのプライドはずたずただ!」

「だから俺に憂さ晴らしということか」


 彼らは暗がりだから見えない、ルチルの口元に冷たい微笑が浮かんでいることを。ルチルは自分の中の抑え切れない怒りと暗い感情が交じり合い殺気となって、流れているのを感じていた。


 彼らから流れてくる殺気は弱い。これなら城のほうがやりがいがあった(・・・・・・・・)なと思いながら刀を抜く。


「けんかを売ってきたのはそっちだ。俺は正当防衛だからな」


 そういいながら駆け出す。どうしてもこみ上げてくる笑いが抑えきれなかった。




「俺は何なるんだろうな」


 後ろは振り返らずに、刀についた赤い血を振り落とし鞘に収める。空は曇り始めポツリポツリと雨粒が落ち始める。

  

 光源がない場所だが、夜目が効くルチルには倒れ伏している五人の男たちと広がる赤い水溜りが見えた。鉄臭が鼻をつく。それを振り切るようにルチルは建物の影から出て行った。


 雨が降り出し、外にいた者たちはあわてて雨宿りできる場所にかけていく。その中には混じらずに降り始めた雨に体を打たれながら闘技場を目指す。冷たい水滴が先ほどまでの激情を沈めてくれるようだった。


 この雨はまるでラピスが自分が来たということを知らせているような気がした。まだ時間には早いはずなのになと思いながら、人目の少ないところに来ると風を自分の体に纏い闘技場へと向かう。


「いるみたいだな」


 強い魔力を肌で感じやっぱりこの雨はラピスがと納得する。ふわりと入り口からじゃなく上から中に入るとリングの真ん中で目を閉じている、ラピスの目の前へ降り立った。


 瞼を伏せて彼を静かに待っている水の魔王の元へ無の魔王は近づいていった。

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